三菱スペースジェット10号機初飛行 新型コロナ感染拡大で仮発注キャンセルか?

2020年3月23日 07:09

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三菱スペースジェット飛行試験機(10号機)(画像: 三菱航空機の発表資料より)

三菱スペースジェット飛行試験機(10号機)(画像: 三菱航空機の発表資料より)[写真拡大]

 MRJ改めスペースジェットの開発は難航している。そんな中、3月18日、型式証明可能に設計変更された形態(Certifiable Aircraft)で、10号機『三菱・スペースジェットM90』を初飛行させた。開発計画は延びに延びたのだが、その原因は大枠では明白で、三菱重工(三菱航空機)に型式証明をとれるノウハウがなかったのだ。始めに型式証明を採る姿を描けていなかったことは、後に大きく設計変更をしなければならず、ロスが多大になってしまっている。

【こちらも】三菱・スペースジェット(旧MRJ)が最も恐れるのは「時代のニーズ」(1/3)

 いくら元財閥系企業の三菱重工と言えども、1兆円に上る開発費をかけ、それが回収出来なくなると言うのでは企業の存亡に拘わってくる。しかし、これまでの赤字は、三菱重工の他の分野で穴埋め出来ているのだから大したものだ。エアバスも、フランス政府とイギリス政府の支援がなければこれまで生き残れなかった。航空機産業は採算をとることが大変難しいのだ。

 そこに、降って湧いた「新型コロナウイルス感染拡大」が起こった。パンデミック(世界的感染拡大)になって国境閉鎖が世界中に広がり、JAL(日本航空)のような航空会社は世界中で大打撃となってしまった。世界経済が成り立たない状態まで来ている。これから終息までの期間によっては、三菱スペースジェットが仮発注を受けていた機数のほとんどをキャンセルされる危険も出てきている。

 アメリカの旅客機メーカーであり、世界一の旅客機メーカーであるボーイングも、B737MAXの事故で生産が出来ない状態のところ、追い打ちをかけるように新型コロナウイルスの感染拡大があり、事実上倒産の危機にある。エアバスも、世界一の巨人機A380の生産中止で危機にあり、この業界の怖さが現在出ている状態だ。

 航空機製造業界はそもそも浮き沈みが激しく、カーチスライト、グラマン、ダグラス、マクダネル、ロキード、グラマンなどなど、現在も残るメーカーもあるが多くは吸収合併を繰り返している。現在のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)のIT業界よりも激しいと言える。

 それは、航空機製造業界がソフトウェア開発のような「先進性」と「合理性」はもちろん、「開発・製造・品質」ノウハウが必要で、また軍事産業と一体であることから競争が激しいと言える。自動車産業は、それに「量産」ノウハウが必要になってくる。

 それが三菱重工に出来ないとは思えないが、型式証明を取得するノウハウを得ることを優先してこなかった失敗は、大打撃となっているだろう。そして、新型コロナウイルス、パンデミックが起きたことは「不運」としか言えないが、これも現実の世界である。東日本「大震災を予見出来なかった」では済まされない原子力発電所の事故を見れば、経営技術として「型式証明取得ノウハウを前提」と出来なかったことは「ミス」としか言えまい。

 YS-11開発の現場で涙をのんだ1人として、三菱スペースジェットが商売として採算がとれることを心から願っている。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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