暗号資産禁止の中国で年16.4兆円のステーブルコイン決済―取引所を介さず個人間で

中国の企業から、ステーブルコインで決済したいと求められる欧米企業にとって、支払いの確認は自社で行うしかない状況になっている。(Photo by Traxer on Unsplash)[写真拡大]
中国の企業から、ステーブルコインで決済したいと求められる欧米企業にとって、支払いの確認は自社で行うしかない状況になっている。ブロックチェーン分析会社Chainalysis(チェイナリシス)が10月に公表した報告書によると、暗号資産(仮想通貨)が禁止されている中国本土では、2026年6月までの1年間に1041億ドル(約16兆4000億円)相当のステーブルコインが、銀行や交換業者を介さない個人のウォレット間で送金された。
ステーブルコインは、法定通貨に価値を連動させた暗号資産である。中国は2021年9月以降、暗号資産取引をすべて違法としており、本土には支払人の身元や資金の出所を確認する認可済みの交換業者や決済事業者が存在しない。
一方、暗号資産事業者が免許制となっている香港では、資金はこうした事業者を経由し、2026年半ばまでに差し引き174億ドル(約2兆7500億円)が香港に流入した。中国の禁止措置は、本来こうした支払いを確認するはずの規制対象事業者を排除したが、支払い自体は続いている。中国の取引先からステーブルコインで支払いを受ける米国や欧州の企業にとって、確認作業の負担は自らに移っている。
■送金ウォレット数は43倍に
報告書によると、中国本土でステーブルコインを個人間(ピア・ツー・ピア)で送金したユニークウォレット数は、2024年第1四半期から2026年第2四半期までに43倍に増加した。2025年7月から2026年6月までの期間に、中国に関連付けられた自己管理型ウォレットは、1810万件の送金で1041億ドルを動かした。自己管理型ウォレットは、交換業者や銀行が資金を預からず、利用者自身が直接保有する。
資金は保管されるのではなく、使われている。中国のウォレットが保有するステーブルコインの平均残高は約31億ドル(約4900億円)で、Chainalysisの算出では、この残高は年33.2回回転した。世界平均は9.3回だった。Chainalysisは、利用者がステーブルコインを貯蓄ではなく運転資金として扱っていること、またステーブルコインが国内の決済手段になりつつあることと整合的だとしている。
決済会社トランスファイ(TransFi)の創業者兼最高経営責任者(CEO)、ラジ・カマル氏は、インターナショナル・ビジネス・タイムズの取材に「年33回持ち主が変わるコインは、にぎわう市場の現金のように振る舞う。支払ってくるウォレットが資金の出どころであることはまれだ」と述べた。カマルCEOは、送金1件当たりの平均額が約5750ドル(約90万8000円)だったと指摘し、「日常的な取引や運転資金によく似ている」と語った。
■北京は規制を強化
こうした増加は、中国政府が規制を強める中で起きた。2026年2月、中国人民銀行(PBOC)とほかの7つの政府機関は、仮想通貨に関わるあらゆる業務が違法であることを改めて示した。それでも、海外で発行されたステーブルコインを個人が自身のウォレットで保有し、互いに送金することは止まっておらず、Chainalysisが計測したのはまさにこの活動である。
この法的な位置付けは、支払いを受け取る外国企業にとってリスクの一部になる。カマルCEOは「資金が本土の企業から来る場合、北京が2月に『通貨として使えない』と再確認した手段で決済していることになる。資金が送金元で凍結されたり、取引が紛争に発展したりすれば、受け取る側がリスクを負う」と述べた。
Chainalysisが公表した調査結果では、1041億ドルのうちどれだけが国境を越える取引に関係するかは示されていない。ただ、中国の取引先を持つ米国や欧州の企業にとって、このデータは、すでに大量に使われているにもかかわらず、中国側では誰も支払いを確認していない経路の存在を示している。
人民銀行自身も2025年11月、ステーブルコインは顧客の本人確認やマネーロンダリング(資金洗浄)対策の要件を満たしていないとし、違法な越境送金に使われる恐れがあると警告していた。
■受け取る側に求められる確認
暗号資産プラットフォーム、ペイビス(Paybis)の共同創業者兼CEO、イノケンティ・イサーズ氏は、まずウォレットの管理者確認を重視する。イサーズCEOはIBTに「新しいウォレットアドレスは、仕入れ先の銀行口座が直前になって変更された場合と同じ水準で精査すべきだ」と述べた。同氏は、既に確認済みの連絡経路を通じて、そのウォレットが支払いの送受信を認められていることを書面で確認するよう勧める。「トークンが誤ったウォレットに送られると、取り戻すのは極めて難しくなり得る」という。
カマルCEOは、支払い主体が請求書の宛先と一致しているかを確認し、送金元ウォレットとその直近の取引相手をスクリーニングしたうえで、認可を受けた事業者を通じて資金を受け取るとした。資金の動きが非常に速いため、送金元ウォレットは出発点にすぎない。「何段階か遡って追跡し、動きを見る必要がある」と語った。
イサーズCEOは、市場全体で回転率が高いからといって、個々の支払いが自動的に疑わしくなるわけではないと説明する。「ウォレットが本土とつながっているように見えても、誰が管理しているかは分からない」と述べた。複数の異なるアドレスから少額の送金を受けた直後のウォレットから支払いが届いた場合、同氏は取引記録の提出を求めるという。顧客が提出できなければ、資金の出所を確認するまで支払いを承認しないとした。
■香港では認可ルートに資金
境界を越えると状況は変わる。カマルCEOは「香港の子会社が認可された経路で支払うなら、話は全く違う」と述べた。
Chainalysisの香港に関するデータは、この経路の利用状況を示している。店頭(OTC)取引デスク、カストディアン(資産保管業者)、マーケットメーカーなどの機関投資家向けプラットフォームは、香港の暗号資産サービスへの流入額の16%を占め、2年前の約9%から上昇した。東アジアのほかの市場で6%を超えたところはない。
Chainalysisによると、企業間(B2B)の累計純流入額は2026年半ばまでに174億ドルに達した。同じ期間、ウォレット経由の資金の流れは差し引きで流出超となっており、資金はウォレットを通じて香港から流出する一方、認可を受けたサービスを通じて流入していた。
イサーズCEOは、この比較を過大に解釈しないよう注意を促した。「香港はもともと国際金融で確立された役割を持っており、機関投資家の取引拡大を免許制度だけで説明することはできない」と述べた。
免許制度はその後、ステーブルコイン発行体にも及んでいる。香港金融管理局(HKMA)は2026年4月10日、HSBCと、スタンダードチャータード主導の合弁会社アンカーポイント・ファイナンシャルに初の発行体免許2件を付与した。アンカーポイントは8月12日、機関投資家向け販売業者とプロ投資家を対象に、香港ドル建てステーブルコインの第1段階の提供を開始した。HSBCは9月30日時点でトークンを発行していなかった。
カマルCEOは、2つの市場の違いは企業が使える経路にあるとみる。迅速なドル決済への需要は、境界の両側でほぼ同じだったという。「違ったのは、企業がそれを持ち込める正規の場所があるかどうかだった」と語った。
■米欧は免許制、個人間送金は対象外
Chainalysisは中国本土の結果を、中国は「禁止したが、活動は移動しただけだった」と一言でまとめている。米国と欧州連合(EU)は免許制を選んだ。2025年7月に成立した米国のGENIUS法(ステーブルコイン規制法)は、決済用ステーブルコイン発行体に関する連邦の枠組みを創設し、遅くとも2027年1月18日までに施行される。EUの暗号資産市場規則(MiCA)のステーブルコイン発行体に関する規定は、2024年6月30日から適用されている。
いずれの枠組みもステーブルコイン発行体を規制し、MiCAは暗号資産サービス事業者も対象とする。しかし、どちらも個人のウォレット同士の送金には及ばない。EUのトラベルルールは2024年12月30日以降、サービス事業者が扱う暗号資産の送金について、金額の下限なく送金人と受取人の情報を求めているが、自己管理型ウォレットが対象となるのは事業者が関与する場合に限られる。1000ユーロを超える送金では、事業者は自己管理型ウォレットが自社の顧客によって保有・管理されているかを確認しなければならない。
イサーズCEOもこの手法の限界を認める。「一部の送金は、こうした確認の及ばないところで、個人のウォレット間で直接行われ続けるだろう」と述べた。金融活動作業部会(FATF)は3月に公表した報告書で、こうした個人間送金を重要な脆弱性と位置付けた。
カマルCEOは、ウォレット間のすべての送金に規則を適用しても執行は非常に難しいと指摘する。「実効性のある手段は周縁部にある」と述べ、法的な命令に基づいてトークンを凍結できるよう発行体に求めるGENIUS法の規定と、取引のブロックや拒否に関する米財務省の4月の規則案を挙げた。
こうした手段が機能するのは、資金が規制対象の事業者を経由する場合に限られる。カマルCEOは、資金の大半は最終的に銀行口座に入る必要があるため、認可ルートのコストが決定的になると指摘した。「小規模な輸入業者にとって、認可ルートがウォレット送金より遅く高くつくなら、規制の仕組みは機関投資家だけを取り込み、ほかの全員を取りこぼすことになる」と語った。
■推計値であることに留意
Chainalysisの国別の数値は推計である。同社は、禁止措置のため中国の暗号資産経済は把握が難しいとし、期間中の総額を少なくとも1763億ドル(約27兆9000億円)と推計している。公表された概要には、43倍の増加の起点となったウォレット数が示されておらず、この数字は普及の規模よりも速さを示すものといえる。
Chainalysisは、香港のような免許制度があらゆる種類の活動を取り込むのか、それとも一部の活動は国外へ移り続けるのかについて、来年のデータで明らかになるとしている。
それまでの間、中国の取引先からステーブルコインでの支払いを求められた米国や欧州の企業は、中国側の誰かが支払いを確認していると期待することはできない。両CEOが説明する、支払いウォレットを誰が管理し、その資金がどこから来たのかという確認は、受け取る側で行わなければならない。
※この記事はInternational Business Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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