火星ダストに約100ナノメートルの粒子 パーサヴィアランスが宇宙服素材への付着を分析

2026年10月29日 10:53

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記事提供元:Tech Times

火星のジェゼロ・クレーター西縁を貫く塵に覆われ、干上がった川の跡「ネレトバ谷(Neretva Vallis)」NASAの火星探査車パーサヴィアランスによる360度パノラマ画像 (Nasa.gov)

火星のジェゼロ・クレーター西縁を貫く塵に覆われ、干上がった川の跡「ネレトバ谷(Neretva Vallis)」NASAの火星探査車パーサヴィアランスによる360度パノラマ画像 (Nasa.gov)[写真拡大]

NASAの火星探査車パーサヴィアランスが取得したX線データから、宇宙服素材などに付着した火星ダストに、約100ナノメートル規模の微細な粒子が含まれることが分かった。素材や表面によって付着粒子の大きさに違いがあり、将来の有人探査で宇宙服や居住区へのダスト持ち込みを抑える設計に役立つ成果だ。

ワシントン大学セントルイス校のスコット・バンボメル氏らによる研究は、2026年10月26日付で米国科学アカデミー紀要(PNAS)に掲載された。NASAによると、火星で微小粒子と超微小粒子を現地測定した初の成果で、分析には1,645火星日にわたる観測が使われた。

■校正用の試料に積もったダストを分析

研究で使われたのは、岩石の元素組成を調べる装置PIXLの校正ターゲットと、別の分析装置SHERLOCに搭載された宇宙服素材の試料だ。PIXLのターゲットには、テフロンとして知られるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と玄武岩質ガラスなどが含まれる。

SHERLOCの校正ターゲットには、20ミリメートル四方の宇宙服素材の試料が5枚ある。火星の環境で素材がどのように変化するかを調べるために運ばれたもので、今回の研究ではテフロン織物とベクトランを分析した。クラレの製品説明によると、ベクトランはポリエステル系のポリアリレート繊維だ。

PIXLは、対象にX線を照射して生じる蛍光X線を測り、含まれる元素を調べる。PTFEを構成する元素はPIXLで直接検出できないため、その表面から得られる元素信号を、付着したダストの分析に利用できる。

研究チームは、エネルギーの異なる蛍光X線の信号を解析し、物質の層を扱うモデルを使って、ダストの組成と単位面積当たりの質量を求めた。そこから粒子が一層に並ぶと仮定して粒径を推定している。複数層に重なっている場合には、個々の粒子は推定値より小さくなる。

校正ターゲットは着陸後からダストに覆われており、PIXLによる点検は基本的に約200火星日ごとに行われた。通常の装置点検のために蓄積されたデータが、従来は捉えにくかった微細なダストを調べる機会になった。

■付着する粒径は素材と表面で異なる

論文で報告された平均粒径は、PIXLのPTFE校正片で1.4±0.4マイクロメートル、SHERLOCのベクトラン織物で2.1±1.4マイクロメートルだった。一方、玄武岩質ガラスでは140±80ナノメートル、テフロン織物では300±200ナノメートルと推定された。

こうした結果から、研究チームは火星ダストに2.5マイクロメートル以下の微小粒子と、約100ナノメートル規模の超微小粒子が含まれると報告した。従来の観測では主に約2~3マイクロメートル以上の粒子や凝集体が捉えられており、今回の分析はさらに小さな粒子の性質を調べる手掛かりとなる。

付着の違いには、静電気が関与していると考えられる。ダストは大気中での粒子同士の衝突などによって帯電し、電気的な性質の異なる表面に引き付けられる。小さな粒子は質量に対する表面積が大きく、静電気によって表面にとどまりやすい。

織物の凹凸も重要だ。論文では、ベクトランのような表面では粒子の機械的な引っ掛かりやファンデルワールス力も付着を支える可能性を挙げている。微細な粒子は、探査車の走行や岩石の掘削に伴う振動を受けても残っていた。

宇宙服の外層には、今回調べた試料に似た高分子材料が使われる。素材の電気的性質に加え、織り方や表面構造、清掃のしやすさを検討することが、宇宙服や居住設備に残るダストを減らすうえで重要になる。

■微細な粒子を吸い込むと何が問題になるのか

地球の大気汚染研究では、微小粒子状物質が肺の奥まで入り込み、呼吸器系や循環器系に影響を及ぼすことが知られている。環境省も、PM2.5は非常に小さいため肺の奥深くまで入りやすいと説明している。PM2.5は、空気中での沈降などの振る舞いを表す空気動力学径に基づく粒子の区分だ。

肺胞に沈着した粒子は炎症を引き起こし、粒子の性質や大きさによっては、その一部や溶け出した成分が血流へ移行することもある。健康影響を評価するには、粒径だけでなく、化学組成、吸入濃度、曝露時間を併せて調べる必要がある。

超微小粒子については、鼻腔から嗅神経を介して脳へ移行する経路も研究されている。ロチェスター大学などの研究チームは、超微小な炭素粒子を吸入させたラットで、脳の嗅球に標識した炭素が増加することを報告した。地上の研究では、こうした粒子の脳への移行や神経炎症が調べられている。

地球の大気管理では、米環境保護庁(EPA)のPM2.5の24時間基準は、2026年10月時点で35マイクログラム毎立方メートルだ。火星の有人探査では、閉鎖された居住区でダストに繰り返し接触する状況を踏まえ、粒子の持ち込み防止と空気中濃度の管理が課題になる。

■過塩素酸塩や鉱物の性質も評価対象に

南カリフォルニア大学のジャスティン・ワン氏、コロラド大学ボルダー校のブライアン・ハイネック氏らは、2025年にGeoHealthで火星ダストの潜在的な健康影響を検討した。探査車や火星隕石などの既存データと毒性研究を整理し、過塩素酸塩、ケイ酸塩、酸化鉄、ヒ素、ベリリウムなどを評価対象に挙げている。

同論文は、過去の研究に基づき、火星ダストの平均粒径を約3マイクロメートルと紹介した。ハイネック氏は大学の発表で「危険性を把握するには、このダストの性質を詳しく調べる必要がある」と述べている。今回のPIXLによる分析は、その微細な粒子について現地データを加えた。

過塩素酸塩は、火星の土壌で重量比約0.5~1%という濃度が報告されてきた物質だ。過塩素酸イオン(ClO₄⁻)は、甲状腺のナトリウム・ヨウ化物共輸送体によるヨウ化物の取り込みを阻害し、十分な量への曝露では甲状腺ホルモンT3、T4の産生に影響を及ぼす可能性がある。

EPAが設定した過塩素酸塩の慢性経口参照用量は、体重1キログラム当たり1日0.0007ミリグラムだ。これは飲食物から取り込む量を評価するための指標である。火星の居住区では、浮遊するダストの量と、そこに含まれる化学成分の両方を把握することが重要になる。

酸化鉄などによる酸化ストレスも研究課題だ。ワン氏らは、微細な酸化鉄が活性酸素種の生成に関与し、組織を傷める可能性を検討している。NASAの専門家会合でも、鉄の含有量、ナノサイズの鉄成分、酸化作用が今後の評価項目として挙げられた。

■地球の職業性粉じんとアポロ計画の経験

鉱物粉じんの健康影響を考えるうえでは、地球の職業医学の知見が参考になる。結晶質シリカの吸入によって肺が線維化する疾患は、じん肺の一種である「けい肺」だ。フランス国立人口学研究所によると、同国の炭鉱業だけで1946~1987年に約3万4,000人の死亡がけい肺によるものと公式に記録された。

労働安全衛生総合研究所によると、肺胞に沈着した結晶質シリカはマクロファージを傷つけ、粒子の排出を妨げる。TNF-αやIL-1βなどの炎症性サイトカインが関与し、線維芽細胞によるコラーゲンの蓄積と線維化が進む。非晶質シリカは一般に結晶質シリカより肺障害性が低い傾向があり、鉱物の形態や表面の性質も評価に影響する。

米労働安全衛生局(OSHA)は2016年、吸入性結晶質シリカの許容曝露限度を8時間の時間加重平均で50マイクログラム毎立方メートルとする規則を定めた。国際がん研究機関(IARC)は、職業曝露で吸入される石英またはクリストバライトの結晶質シリカを、ヒトに対して発がん性があるグループ1に分類している。

宇宙探査では、アポロ17号のハリソン・シュミット氏が、宇宙服に付いて月着陸船内へ入り込んだ月のダストで、花粉症に似た症状を経験した。NASAによると、月のダストは宇宙服やシール、バイザーにも損傷を与えた。火星の粒子は風で運ばれる際の衝突で丸みを帯び、月の粒子より研磨性が低い一方、化学組成も異なるため、それぞれに適した対策が必要になる。

■NASAが定めた30日以内の曝露限度

NASAは2026年2月20日と27日の専門家会合で、火星ダストの初期的な許容曝露限度を検討した。NASA-STD-3001第2巻の要求事項は、30日以内の曝露について、居住区の空気中にある10マイクロメートル未満の火星ダストを、24時間の時間加重平均で0.1ミリグラム毎立方メートル未満に抑えるものだ。

NASAの説明では、この値は月のダストに対する30日間の限度値0.4ミリグラム毎立方メートルを基礎に、毒性データの不足などに対応する不確実性係数3を適用して設定された。鉄の多さや非晶質成分、模擬ダストと実際のダストの違いが考慮されている。

専門家会合は、この手法を初期の短期滞在に対して適切に保守的と評価した。また、船外活動から戻った際などに起こる短時間の濃度上昇も管理するよう勧告した。過塩素酸塩やマンガンについては、個別成分の宇宙船内最大許容濃度も計画時の照合に用いる方針だ。

会合に参加したラトガース大学のショーナ・モリソン氏は、Space.comの取材に、低湿度の閉鎖環境で船外活動を繰り返し、ダストを持ち込むことが課題になると説明した。ダストをできるだけ外にとどめ、入り込んだ分を速やかに除去し、空気中の粒子を監視する設計を重視している。

■宇宙服と居住区で重ねる防じん対策

今回の論文は、素材の選択に加え、スーツポートや二重チャンバー式エアロック、ダスト除去、再加圧後の空気ろ過などを組み合わせる必要性を挙げている。宇宙服に付いた微細な粒子は、居住区の空気だけでなく、関節やシールの働きにも影響し得る。

スーツポートは、居住区の外側に接続した宇宙服へ、乗員が背面から出入りする仕組みだ。ダストに覆われた宇宙服の外面を居住空間から隔てられる。二重チャンバー式エアロックでは、外側の区画でダストを除去してから内側へ進むことで、持ち込みを抑える。

NASAは電場を利用するダスト除去技術も開発している。2025年3月には、ファイアフライ・エアロスペースの月着陸機「ブルーゴースト・ミッション1」に搭載した電気力学的ダストシールド(EDS)が、月面でガラスと放熱面からダストを除去したと発表した。宇宙服の試作生地に組み込んだEDSの宇宙環境試験も進められてきた。

素材ごとに残る粒子の大きさが異なるという今回の結果は、耐久性や熱管理に加え、付着したダストをどれだけ除去しやすいかという設計上の視点を与える。微細な粒子まで対象にした清掃と空気管理を、宇宙服、エアロック、居住区全体で組み合わせることが、有人火星探査の準備につながる。

元記事: Perseverance Finds Mars Dust Fine Enough to Reach Astronaut Lungs and Brain

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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