英政府のApple向け暗号化アクセス命令、秘密維持の妥当性を英審判所が審理

2026年9月20日 18:21

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記事提供元:Tech Times

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英国の捜査権限審判所(IPT)は9月17日、AppleのiCloud暗号化を巡り、英政府が技術的能力通知の存在を「肯定も否定もしない」とする方針を維持できるかを審理した。通知そのものの適法性ではなく、今後の審理をどこまで公開できるかが今回の主な争点である。

Appleは2025年2月以降、英国の新規ユーザーに「iCloudの高度なデータ保護」を提供していない。通知の適法性を巡る本格的な審理は2027年になる可能性があり、英国の利用者は当面、同機能を新たに有効化できない状態が続く。

■英国で提供されていない「高度なデータ保護」

iCloudの高度なデータ保護は、iCloudに保存される大部分のデータをエンドツーエンドで暗号化する任意の機能である。有効にすると、対象データの暗号鍵にアクセスできるのは原則としてユーザー本人の信頼できるデバイスだけとなり、Apple自身もデータを復号できなくなる。

Appleは英国の新規ユーザーについて、2025年2月21日から高度なデータ保護を有効にする選択肢を提供していない。すでに有効にしていたユーザーについても、iCloudアカウントを引き続き利用するには、一定期間内に自分で無効化する必要があると案内した。

英国で高度なデータ保護を利用できないことにより、iCloudバックアップ、iCloud Drive、写真、メモ、リマインダー、Safariブックマーク、Siriショートカット、ボイスメモ、ウォレットパス、フリーボードの10カテゴリーは「標準のデータ保護」の対象となる。標準設定でもデータは転送時と保存時に暗号化されるが、暗号鍵はAppleのデータセンターに保管される。

一方、iCloudキーチェーンやヘルスケアなど、標準設定でもエンドツーエンドで暗号化される15カテゴリーには影響しない。iMessageとFaceTimeも、英国を含めて引き続きエンドツーエンドで暗号化される。

Appleは、自社の製品やサービスにバックドアやマスターキーを設けたことはなく、今後も設けないとの立場を示している。高度なデータ保護の仕組みではAppleが対象データの暗号鍵を持たないため、政府が復号可能な状態を求める場合、現在の設計に変更を加える必要がある。

■「肯定も否定もしない」政府方針が争点

9月17日の審理では、Appleによる新たな申し立てと、市民団体Privacy InternationalおよびLibertyによる申し立てをどのように扱うかが検討された。併せて、個別の技術的能力通知について存在を「肯定も否定もしない」とする内務省の方針を、この事件でも維持できるかが争われた。

Privacy InternationalとLibertyの代理人を務めるBen Jaffeyは、米国政府関係者や英国政府の匿名情報筋が通知について公に言及してきた以上、政府の姿勢は「茶番になっている」と主張した。「馬はとっくに逃げている」と述べ、通知の存在を前提とせずに手続きを進めることは、公開裁判の原則や議論の実効性を損なうと訴えた。

Apple側も、通知の存在を仮定した事実として扱えば手続きへの影響は小さいとする政府の立場に反論した。法的な制約によりApple自身が申し立ての理由を公に説明できない状態では、実質的な公開審理が難しくなるとの立場である。

政府側のNeil Sheldonは、個別の通知を肯定または否定すれば、敵対的な主体が、どの事業者に技術的能力通知が出されているかを推測する材料になると主張した。注目度の高い事件で例外を設ければ、他の事案でも同じ方針を維持しにくくなり、国家安全保障上のリスクが生じるとしている。

IPTは、政府がこの事件でも「肯定も否定もしない」とする方針を維持できるかについて、後日判断する。技術的能力通知そのものの適法性を判断する実質審理は、その後に開かれる見通しである。

■世界規模の要求から英国利用者を対象とする通知へ

問題の発端は、英政府が2025年1月、2016年捜査権限法に基づく技術的能力通知をAppleに出したと報じられたことにある。当初の通知は、高度なデータ保護を利用する世界中のユーザーのiCloudデータについて、Appleがアクセス能力を維持するよう求める内容だったと報道された。

Appleは通知について公式に確認していないが、同年2月に英国で高度なデータ保護の提供を終了し、その後IPTに申し立てを行った。IPTは同年4月、事件の当事者や基本的な性質まで非公開にすることは公益や国家安全保障のために必要とは認められないと判断し、Appleと内務省の間に紛争があることを公表した。

米国家情報長官だったTulsi Gabbardは2025年8月、英国が米国市民の暗号化データへのアクセスを可能にするようAppleへ求めた要求を取り下げることで合意したと発表した。その後、当初の世界規模の通知は撤回され、英国のユーザーを対象とする新たな通知が出されたと報じられている。

対象となる通知が変更されたため、当初の通知を巡るAppleの申し立ては、事情の変化を理由に終了した。Appleは2026年7月、英国のユーザーを対象とする通知を巡ってIPTに新たな申し立てを行い、今回の審理につながった。

技術的能力通知は、通常の令状のように特定の事件に関するデータの提出だけを求めるものではない。捜査権限法に基づき、通信事業者などに対して、将来の適法な要求へ対応するための技術的能力を整備または維持するよう求める制度である。

■暗号化と秘密命令の制度が問われる

今回の事件では、Appleへの個別の要求に加え、セキュリティ機能の変更を秘密裏に求める英国の制度を、公開性や司法審査とどう両立させるかが問われている。Privacy Internationalは、技術的能力通知を巡る法制度の適法性、必要性、秘密性について、Appleとは別に異議を申し立てている。

2024年の捜査権限法改正では、一定の通信事業者に対し、既存の適法なアクセス能力へ影響し得る技術変更などを事前に国務大臣へ通知させる制度が加えられた。政府の公式説明では、変更の影響を検討する時間を確保するための制度であり、国務大臣にサービス変更の実施を承認したり、展開を直接阻止したりする権限を与えるものではない。

英政府は、捜査権限法について、テロや重大犯罪などの脅威に対処するための制度であり、プライバシーを守るための保障措置と独立した監督が設けられていると説明している。一方、市民団体は、暗号化されたサービスへのアクセス能力を秘密裏に求める制度が、利用者のセキュリティとプライバシーに広範な影響を及ぼすと警告している。

英国の利用者への影響はすでに表れている。高度なデータ保護を新たに有効化できないため、対象となる10カテゴリーではAppleが暗号鍵を保管する標準のデータ保護が適用され、Appleが適法な要求を受けた場合にデータを提供できる構成となる。

IPTはまず、通知の存在を肯定も否定もしない政府方針を今回の手続きで維持できるかを判断する。その結論は、技術的能力通知の適法性を巡る今後の審理をどの程度公開された形で進められるかにも影響する。

元記事: UK Secrecy Over Apple iCloud Backdoor Order Called ‘Farcical’ at Tribunal Hearing

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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