JAXAの火星衛星探査機「MMX」、10月20日打ち上げへ フォボス試料を2031年に地球帰還

2026年9月8日 19:05

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記事提供元:Tech Times

MMXの探査機3モジュール(2024年版)(JAXA)

MMXの探査機3モジュール(2024年版)(JAXA)[写真拡大]

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の火星衛星探査機「MMX」は、2026年10月20日午前4時41分3秒に、種子島宇宙センターからH3ロケット10号機で打ち上げられる予定である。火星の衛星フォボスに着陸して10グラム以上の試料を採取し、2031年に地球へ持ち帰ることを目指す。

フォボスの表土には、過去の天体衝突によって火星表面から放出された物質が混ざっていると推定されている。回収試料の分析では、フォボスとダイモスの起源に加え、火星表層の変遷を記録した粒子が見つかることも期待される。

■10月20日にH3ロケット10号機で打ち上げ

MMXの打ち上げ予定日時は、日本時間の2026年10月20日午前4時41分3秒である。打ち上げ場所は鹿児島県の種子島宇宙センター大型ロケット発射場で、10月21日から11月7日までが予備期間に設定されている。予備期間中の打ち上げ時刻は、日ごとに設定される。

MMXは打ち上げから約1年をかけて火星圏へ到着し、2027年に火星周回軌道へ入る計画である。その後はフォボスの近くを飛行する擬周回軌道から観測を行い、着陸地点を選定する。フォボスへの着陸と試料採取、ダイモスのフライバイ観測を経て、2030年に火星圏を出発し、2031年に地球へ帰還する予定だ。

帰還カプセルは地球近傍で探査機から分離され、大気圏への再突入後、パラシュートを使ってオーストラリアの砂漠地帯へ着陸する。フランス国立宇宙研究センター(CNES)が公表する日程では、試料の地球帰還は2031年7月に予定されている。

MMXには米航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、ドイツ航空宇宙センター(DLR)、CNESが参加する。JAXAによると、日本が主導する月・惑星探査として最大規模の国際共同ミッションとなる。

■フォボスとダイモスの起源を探る

火星にはフォボスとダイモスという2つの小さな衛星がある。いずれも1877年に米国の天文学者アサフ・ホールによって発見されたが、どのように形成されたのかは現在も明らかになっていない。

代表的な仮説の一つが捕獲説である。フォボスとダイモスは、太陽系の別の領域で形成された小天体が火星へ接近し、その重力に捕らえられたとする考え方だ。両衛星の暗い表面や分光観測で得られた特徴には、始原的な小惑星を連想させる部分がある。

もう一つが巨大衝突説である。太古の火星に別の天体が衝突し、宇宙空間へ放出された物質が火星の周囲で集積して衛星になったとする。現在のほぼ円形で赤道面に近い軌道を説明しやすい一方、衝突後の物質から現在の2衛星が形成される過程には複数のモデルが提案されている。

遠隔観測だけでは、表面の宇宙風化や粒径などが分光データに影響するため、両説を明確に区別することは難しい。MMXが持ち帰る試料について鉱物組成、元素組成、同位体比などを分析すれば、フォボスを構成する物質がどこで、どのような過程を経て形成されたのかを詳しく調べられる。

MMXはフォボスだけでなく、ダイモスも接近通過しながら観測する。2衛星の形状や表面組成を比較することで、共通の起源を持つのか、それぞれ異なる過程を経たのかを読み解く手掛かりが得られると期待されている。

■試料に火星由来の粒子が含まれる可能性

フォボスの表土には、火星表面から飛来した粒子が混ざっている可能性がある。火星に小天体が衝突すると、岩石や堆積物の一部が宇宙空間へ放出される。その一部が火星の重力圏内を移動し、フォボスへ到達したと考えられている。

数値シミュレーションでは、こうした火星由来物質がフォボスの表面全体に広く混合され、火星のさまざまな地質年代や岩石種を含む可能性が示されている。回収試料から該当する粒子を識別できれば、フォボスの起源だけでなく、火星表層の長期的な変遷を調べる新たな材料になる。

過去の研究では、フォボス表土に含まれる火星由来物質の割合を約0.1%と想定した場合、10グラムの試料から数十個程度の火星由来粒子を得られる可能性があると推定されている。ただし、実際の含有率や粒子数は採取地点や試料の状態に左右され、地球帰還後の分析によって初めて確認できる。

地球上ではすでに、火星から自然に飛来したと判定されている火星隕石が研究されている。MMXの特徴は、探査機が採取地点や周辺環境を観測したうえでフォボスの試料を回収し、その中から火星由来物質を探せる点にある。由来を判断するには、鉱物組成、化学組成、同位体比などを総合的に分析する必要がある。

■NASAの火星試料回収計画は既存構想への支援が終了

NASAとESAが進めてきた火星サンプルリターン計画は、火星探査車Perseveranceが採取した試料を別の探査機で回収し、地球へ運ぶ構想だった。しかし、米議会が成立させた2026会計年度の歳出措置は、従来の火星サンプルリターン計画を支援しない方針を示した。

この決定により、従来構想に基づく回収ミッションは継続されていない。一方で、将来別の構成による火星試料回収が計画される可能性まで否定されたわけではない。Perseveranceは試料採取活動を続けているが、2026年9月時点で、保管された試料を地球へ運ぶ承認済みの回収ミッションはない。

中国は火星表面から直接試料を採取する「天問3号」を2028年ごろに打ち上げ、2031年ごろに地球へ帰還させる計画を進めている。MMXがフォボスの表土を対象とするのに対し、天問3号は火星表面で採取するという違いがある。両計画が予定通り進めば、2031年前後に性質の異なる試料が地球へ届く可能性がある。

■微小重力下で2回の着陸に挑む

フォボスは直径約20~30kmの不規則な形状をした小天体で、表面重力は地球に比べて極めて弱い。着陸時の速度や姿勢を慎重に制御しなければ、探査機が転倒したり、地表から跳ね返ったりするおそれがある。

MMXはフォボスそのものを通常の意味で周回するのではなく、火星を周回しながらフォボスの近くにとどまる擬周回軌道を使用する。高度の異なる擬周回軌道から地形、内部構造、重力、表面組成などを調べ、着陸地点を絞り込む。

JAXAはフォボスへの着陸を2回計画している。探査機はフォボスの日中に着陸し、約2時間半後の日没までに離陸する。試料採取作業に割り当てられる時間は、そのうち約90分である。

主採取装置の「C-SMP」は、探査機下面のロボットアームを使い、筒状のコアラーを表面へ突き刺す。表面から2cm以上の深さにあるレゴリスを含め、1回の採取で10グラム以上を回収することが目標だ。

NASAが提供する「P-SMP」は、着陸脚付近から窒素ガスを噴射し、舞い上がった表層物質を採取する。異なる原理の2装置を搭載することで試料回収の確実性を高める。

着陸脚には、衝撃を吸収して機体の転倒や跳ね返りを防ぐ役割がある。MMXの機体開発を担当した三菱電機は、微小重力下で安定して着地できる構造や制御技術を開発してきた。

■先行してフォボスへ降りるローバー「IDEFIX」

MMX本体の着陸に先立ち、独仏共同開発の小型ローバー「IDEFIX(イデフィックス)」がフォボスへ投入される。質量は約25kgで、DLRとCNESが開発した。

IDEFIXはフォボス表面の約40m上空から放出され、弱い重力の下で自由落下する。着地後は自律的に姿勢を立て直し、約100日間にわたって表面を走行する計画である。成功すれば、火星の衛星上を走行する初のローバーとなる。

搭載機器は、鉱物組成を調べるラマン分光計「RAX」、表面温度と熱的性質を測る小型放射計「miniRAD」、前方を撮影する2台の航法カメラ、車輪と地面の接触部分を観察する2台の車輪カメラである。

IDEFIXは科学観測に加え、レゴリスの力学的性質や車輪との相互作用を調べる。得られたデータは、MMX本体の着陸地点選定や安全な着陸運用にも利用される。

DLRがローバーの構造、着地機構、姿勢復帰機構、走行系などを担当し、CNESは搭載コンピューター、電力、通信、カメラシステムなどを提供した。運用はドイツ・ケルンとフランス・トゥールーズの管制拠点から共同で行われる。

この協力体制は、小惑星リュウグウへ独仏の小型着陸機「MASCOT」を運んだ「はやぶさ2」の経験を引き継ぐ。MASCOTは2018年10月にリュウグウ表面で観測を行い、はやぶさ2の帰還カプセルは2020年12月にリュウグウの試料を地球へ届けた。

■元素組成を測る「MEGANE」

NASAはMMXにガンマ線・中性子線分光計「MEGANE」を提供する。名称は「Mars-moon Exploration with GAmma-rays and NEutrons」の頭文字から取られ、日本語の「眼鏡」にもかけている。

MEGANEはジョンズ・ホプキンス大学応用物理研究所が、ローレンス・リバモア国立研究所などと協力して開発した。2024年3月にフライトモデルがJAXAへ引き渡された。

大気をほとんど持たない天体では、銀河宇宙線が表面の物質に当たることでガンマ線や中性子が生じる。そのエネルギーや強度を測ると、表層を構成する元素とその分布を推定できる。

MEGANEは高純度ゲルマニウム検出器を用いるガンマ線分光計と、ヘリウム3ガスを使う2基の中性子センサーで構成される。ガンマ線の測定から鉄やケイ素などの元素組成を調べ、中性子の測定から水素を含む物質の分布を探る。

MEGANEによる広域の元素組成データは、カメラや赤外線分光計による観測、IDEFIXの表面測定、地球へ持ち帰った試料の分析を結び付ける役割を持つ。フォボス全体の組成と採取地点の特徴を比較することで、少量の回収試料が天体全体をどの程度代表するかを評価しやすくなる。

■2031年にオーストラリアで回収へ

フォボスで採取した試料は、MMXの復路モジュールに搭載されたサンプルリターンカプセルへ収納される。探査機は2030年に火星圏を離れ、約1年をかけて地球へ戻る。

帰還カプセルは直径約60cmで、「はやぶさ」のカプセルを基に大型化された。地球近傍で探査機から分離した後、単独で大気圏へ再突入し、パラシュートで減速して着陸する。

回収後の試料は、日本の専用施設で汚染を避けながら取り出され、記録、分類、初期分析が行われる見通しである。鉱物、元素、同位体、有機物などの分析を通じて、フォボスの起源と火星圏の進化を検証する。

試料に火星由来と判断できる粒子が含まれていれば、その粒子が記録する火星表層の物質や形成年代を調べる。フォボス自身の物質、火星から飛来した物質、他の小天体から供給された物質を区別することが、分析上の重要な課題となる。

■4K・8K映像で火星圏を記録

MMXには、JAXAと日本放送協会(NHK)が共同開発したスーパーハイビジョンカメラ「SHV」も搭載される。火星とその衛星を4Kおよび8Kで撮影し、火星圏探査の様子を高精細映像で記録する。

映像データの一部は地球へ送信されるほか、高画質の元データを記録媒体に保存し、帰還カプセルで地球へ持ち帰る計画である。地球と火星の間では通信容量が限られるため、高精細データを物理的に回収する方式を組み合わせる。

■「はやぶさ」から続く試料帰還技術

日本は「はやぶさ」で小惑星イトカワの微粒子を2010年に回収し、「はやぶさ2」でリュウグウの試料を2020年に持ち帰った。MMXは、これらのミッションで蓄積した試料採取、地球帰還、大気圏再突入、カプセル回収などの技術を火星圏へ拡張する。

MMXの目標は、火星衛星の起源を調べるだけではない。火星圏との往復、微小重力天体への着陸と滞在、高度な試料採取、遠距離通信など、将来の惑星・衛星探査に必要な技術の獲得も主要な目的に含まれる。

フォボスは火星表面から約6000kmの高度を周回している。MMXによる地形、地盤、表面環境、周辺空間の観測は、フォボスを将来の火星圏探査でどのように利用できるかを検討するための基礎資料にもなる。

MMXが持ち帰る10グラム以上の試料には、フォボスの成り立ちを示す物質とともに、火星から飛来した粒子が含まれている可能性がある。遠隔観測、ローバーによる現地測定、地球の実験室での精密分析を組み合わせることで、火星と2つの衛星がたどった歴史に新たな手掛かりをもたらすことが期待されている。

元記事: Japan’s Oct.19 Phobos Launch Carries Humanity’s First Physical Martian Samples

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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