中国で48万円のEVが大人気の一方、日本ではEV充電設備が減少を始めた?

2021年5月1日 16:47

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 究極の技術蓄積が進んだエンジン車は、中国でさえ追随が至難であることを認める産業分野だった。その中でも低燃費でCO2の排出も少ないハイブリッド技術に関しては、日本の独走と言ってもいい状態である。

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 そんな優位性は脱炭素の掛け声の前に、最早風前の灯かも知れない。

 エンジン車よりも部品点数が大幅に少ないEVは、新規参入の障壁が比較的低い分野で、激しい競争が起こると言われて久しいが、一気にEV化が進まなかった理由の1つに、バッテリーが抱える問題がある。

 高価で、重量がかさみ、充電に時間が掛かるという三重苦を抱えたリチウムイオンバッテリーは、EVの普及に最大のネックと受け止められていた。この弱点を克服すると期待されている全固体電池は、下馬評と期待が高い割には今も完成時期を見通せていない。

 リチウムイオンバッテリーで長時間の走行を可能にするためには、より多くのバッテリーを搭載する必要がある。そうすると車両の重量がかさみ燃費が悪化して、価格だけは着実に上昇するという悪循環の罠に囚われていた。

 そんなジレンマの中で、エンジン車と同等のパフォーマンスをEVに求める必要はない、という発想の転換が中国で起きた。上汽通用五菱汽車が売り出した「宏光MINI EV」の、安全装備もそぎ落としたスタンダードモデルは、満充電で走行できる距離が120km、最高時速も100kmという控えめなスペックで、エアコンはオプションとなっている。

 切り詰めた性能がもたらしたのは、日本円で約48万円という驚異的な価格である。既に中国国内のEV販売台数で7カ月連続して首位を守っている。

 軽自動車を一回り小さくしたような(全長2.9m、全幅1.5m)のボディサイズで4人乗り。住宅のコンセントで充電が可能で、景気対策の補助金が使えるところもポイントだろう。

 確かに自動車の日常的な利用は、近隣のスーパーや病院の往復、学校や駅への送り迎えであることを考えると、常に400km~500km走行できる必要はない。ちょっと割高だが、雨に濡れずに目的地に行ける自転車のようなものと考えれば高速走行能力も必要ない。

 佐川急便が22年9月に納入を受ける予定の小型商用EVは、中国広西汽車集団が製造する。走行距離は200km以上となるので、宏光MINI EVよりはパワーのあるバッテリーを搭載するかも知れない。日本の規制に適合させる必要があるほか、配送車両としての装備を付加するため価格は100万円を越えるものと見られている。中国製のEVが日本企業にも広がり始めたようだ。

 4月26日に報じられたのは、EVの充電設備が20年度に初めて減少に転じたということだ。国の補助金を受けて商業施設や宿泊施設に設置されていた充電設備が、耐用年数の到来により撤去されていると言う。ニワトリと卵の例を持ち出すまでもなく、充実した充電設備がなければ安心してEVに乗ることは出来ない。充電設備の設置数は21年3月末で前年比1000基減の2万9214基だ。

 米バイデン政権が30年までに50万カ所の充電設備を設けることを表明し、欧州連合(EU)も同じく30年までに300万カ所と、現在の15倍に増やす方針を打ち上げたことと、日本の充電設備減少とでは乖離が大きすぎる。国土や対象地域に大きな差があるため、単純な数字の比較に意味がないとはいえ、温暖化ガスの大幅削減を打ち出したばかりの国で、今までも少なすぎた充電設備が減少を始めたという事態は、日本の本気度が問われかねない状況だ。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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