物流業界で進むEVへの急ハンドル

2021年2月28日 08:00

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佐川がASFと共同開発している車両のイメージ。(画像: 佐川急便の発表資料より)

佐川がASFと共同開発している車両のイメージ。(画像: 佐川急便の発表資料より)[写真拡大]

 世界的に高まる環境問題への意識変革は、自動車産業を飲み込み始めた。既に、CO2を削減するために内燃機関の効率を向上させるよりも、一気にEVへとパラダイムシフトする動きが加速している。

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 どう頑張って先行するグループに技術的に追い付くことが出来なければ、一気にゲームをチェンジしようという後発組の思惑はチラつくものの、電動化が世界的な潮流になったのは間違いない。日本政府も世界の動向を無視するわけにいかず、「35年までには全ての新車を電動車にする」ことを目標とした。

 自動車メーカーが電動車への変換を進める動きよりも、明瞭な一歩を踏み出しているのが物流業界と言える。投資先企業が社会的な責任を果たしているかどうかが、機関投資家などの大口投資家に問われる時代である。

 長年続いた株式の持ち合いによる安定株主を求める動きは、完全に過去のものとなった。投資先企業の個別の行動に対して明確な賛否を表明することは、今や大口投資家にとって欠かせない行為だ。大口投資家の行動自体が社会の注目を集め、換言するなら「監視されている」ようなものだからだ。

 殊に使用する車両数の多い配送事業者は注目されている。

 SGホールディングス(SGHD)は傘下の宅配便大手、佐川急便が使用する総数で約7000台にのぼる配送用の軽自動車を、今後ほぼ10年間で全てEVに切り替えることを決定した。営業車両全体でのシェアは20%を超え、軽自動車を全てEVに変更するのは宅配大手では日本初の試みとなる。

 20年3月末にSGHDが使用する営業車両は約2万7000台で、年間約28万トンのCO2を排出している。今回の施策によってCO2を約10%、約2万8000トン削減する見込みだ。

 専用車を共同開発するEVベンチャーのASF(東京・港)とは20年6月に「小型電気自動車の共同開発を開始する基本合意」が締結されていた。今春には作業効率が高く、広い荷室を備えた試作車が完成する予定だ。いずれ他の物流事業者へも外販する構想もあるようだ。

 ヤマト運輸は20年1月から、宅配便の配送用に小型電気自動車(EV)の導入を始めている。ヤマト運輸のロゴと共通のイメージを醸し出す、黄色と黒で構成されたロゴマークを使用するドイツポストDHLは、世界の220の国で郵便と物流業務を展開する多国籍企業だ。

 ドイツポストDHLの傘下企業、独ストリートスクーター社が車体製造を担当し、ヤマト運輸が冷蔵と冷凍機能を有する荷台部分を担当した、共同開発のEV配送車だ。オーダーメードであるだけに、足腰への負担を極力抑えた荷台の高さを追求して作業性を向上させたほか、鍵を持っていれば運転席や荷台の扉の鍵ロックが自動で解除され快適さにも配慮されている。

 既に20年1月から首都圏の東京、神奈川、千葉、埼玉に当初予定500台の投入を始め、毎年500台の入れ替えを10年間継続する。30年には約1万台の小型配送車の50%に相当する5000台を、EVを始めとする次世代モビリティにする予定だ。500台で見込まれるCO2の排出削減効果は年間3500トンのため、10年後に計画通り5000台の切り替えが達成されると、CO2は年間3万5000トン削減される。

 宅配事業者にとっては、CO2削減によって環境に配慮している企業だというアピールを発信することはもちろん、車両のオーダーメードによって労働実態に対応した車両が提供できれば従業員の定着にも有効だ。日々街中で見かける宅配の車両は、コロナ過による通販需要の拡大も奏功して、更に存在感を増すことになるだろう。(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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