レジェンドカー、トヨタ・2000GTにかけられた汚名 「ヤマハ・2000GTと呼ぶべき」?

2019年5月7日 17:17

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 現在の売価は2~3千万円、海外では1億円とのうわさも聞く、日本車のレジェンドである「トヨタ・2000GT」。ご存知、イギリスのスパイ映画「007シリーズ」で女優・浜美枝と共に「ボンドカー」として出演した経緯を持つ。この「ボンドカー」は現在、トヨタ博物館に走行可能な状態で保管されている。オープンに改造された2台が製作されたようだが、フロントウィンドウ(風防)はガラスでなくアクリルであった。アクリルは、年月が経つと細かいひび割れが入り視界が妨げられるようだ。

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 トヨタ・2000GTはヤマハ発動機で製造され、エンジンも同じくチューンナップされたので「ヤマハ・2000GTと呼ぶべきだ」などと言った声が聞こえてきた。しかしそれは、事実を誤解していると言える。若い人たちであるので知らないのは仕方がないが、その当時を振り返ってみれば、戦後日本が爆撃で破壊された国土から復興してきた時期のことだ。それぞれ得意分野で発展してきた企業が、集大成されるように自動車産業は勃興してきていた。やはり、自動車産業は「知識集約型」の産業なのだ。

 私がまだ幼いころ、戦後の焼け野原の中で食うに困って父親が起こした企業も「〇〇発動機」であった。戦後、戦中に軍事産業化していた企業は、みな進駐軍(戦後、日本を占領したマッカーサーのアメリカ軍を中心とした連合国軍)により解体されていた。

 現在、富士重工業はスバル、三菱重工は三菱自動車などに繋がっている。その時、全国で産業を興す動きが始まり、ヤマハ発動機、井関農機など「農業用発動機」を作り始めていた。私の会社も中規模の財閥系軍事産業からの流れで、一度解体され「農業用発動機」のメーカーとして復興を始めていた。しかし、井関農機、ヤマハ発動機などに押され、別産業に乗り出していかざるを得なかった。いわば、ヤマハ発動機はライバルであり、つぶされた宿敵でもあった。

 そんな経緯から、トヨタ・2000GTの開発のニュースを聞いた時、ヤマハ発動機の働きに関心を持って見ていた。トヨタ・2000GTの開発に関して、ヤマハ発動機の仕事は、主としてトヨタ・クラウンに積まれていたM型エンジンをチューンナップして搭載することだった。エンジンブロックを使い、多球形エンジンヘッドを、SOHCからDOHCに改造して高回転型エンジンに仕立て上げている。ウエーバーキャブレーター3連装だったのは驚いた。それでも、日産・スカイラインGT-Rの160馬力に対して150馬力にとどまったのにはがっかりしたものだ。

 やはり、当時の日産は「技術の日産」であり、技術面ではトヨタを凌駕していたといってよい。日産は当時、スカイラインGTやブルーバードSSSなどにはポルシェシンクロのミッションを搭載しており、それに比べて「トヨタのミッションは弱い」と評判が立っていた。「トヨタのミッションはシンクロナイザーが弱いので、ギア鳴りがする」「1万kmも走るとエンジンのタペットが鳴り出す」などだった。しかし、サスペンションは前後ダブルウィッシュボーンとなっており、当時の国産車にはない装備だった。

 ヤマハ発動機は日本楽器製造、つまりヤマハから分離されてできた企業で、「ヤマハのピアノ」と言えば日本で唯一の世界水準のピアノだった。子供のころピアノのレッスンをしていた姉は「ヤマハのピアノ」を欲しがった。しかしヤマハ発動機に押されて倒産しかかっていた親父はヤマハを買えず、少し安い他社のピアノを買っていた。その楽器を作る技術が、トヨタ・2000GTの内装を作った。前期型はウォールナット、後期型はローズウッド製で、このパネルを維持するには水分を適宜与えなければならなかった。乾燥するとひび割れが入ってしまうのだ。

 また、トヨタ・2000GTのホイールは、アルミではなくマグネシウムホイールだった。この金属はアルミよりも軽く、アメリカ海軍機F2Uなどにも採用されたが、事故などで摩擦が起きると発火する危険があった。F2Uでは、航空母艦への着艦に失敗してマグネシウム製の脚が折れ、発火する事故も起きていた。さらに経年変化でひび割れて強度が保てないとも言われている。そのため、現存するトヨタ・2000GTのホイールのほとんどは、アルミで造り変えている。ボンドカーのオープンカーは、スポークホイールをはいているようだ。ウッドパネルと共に、イギリス人が高級とする仕様だ。

 このように、トヨタ・2000GTはヤマハ発動機の努力が詰まったものだが、トヨタが基本設計をし、基本コンポーネントをトヨタが提供していることは間違いない事実だ。やはり、『トヨタ・2000GT』と呼ぶことが相応しいレジェンドカーだ。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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