ブラックホールではダークマターを説明できない? 米研究機関が明らかに

2018年10月13日 19:22

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ブラックホールが引き起こす重力レンズ効果によって、超新星が明るくなる様子 (画像: カリフォルニア大学バークレー校の発表資料より (c) Miguel Zumalacárregui)

ブラックホールが引き起こす重力レンズ効果によって、超新星が明るくなる様子 (画像: カリフォルニア大学バークレー校の発表資料より (c) Miguel Zumalacárregui)[写真拡大]

 宇宙には「ダークマター」と呼ばれる質量をもたない謎の物質が浮遊すると考えられている。ダークマターを説明する理論が、これまで宇宙物理学者により提唱されてきた。その有力候補のひとつがブラックホールによる説明だが、今回この説明が成立する可能性が低いという研究報告が発表された。

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■ホーキング博士も取り組んだダークマターの謎

 ダークマター(暗黒物質)とは、宇宙上の現象を説明するうえで不可欠な、光を発しないが質量は存在するという謎の物質だ。宇宙に存在する物質のうち約84.5%は、この見えない物質から成り立つ。1933年にスイスの天文学者であるフリッツ・ツビッキーがその存在に気づいて以来、ダークマターの謎に宇宙物理学者は取り組んできた。

 ダークマターを原始ブラックホールだと考えるアイディアもそのひとつで、1970年代にスティーブ・ホーキンス博士らが論文で提案している。ビッグバン爆発時に形成されたと考えられる原始ブラックホールは、巨大ブラックホールよりも質量が小さく、1キログラム未満のものから、太陽の質量の数千倍のものまで幅広い。

 1990年代まで原始ブラックホールのアイディアを証明できなかったため、その可能性は次第に忘れ去られていった。ところが2015年にブラックホールの合体で生じた重力波を検出したことで、原始ブラックホールを使ってダークマターを説明する機運が高まった。

■着目したのがブラックホールによる重力レンズ効果

 研究グループが着目したのが、ブラックホールによる重力レンズ効果だ。ブラックホールが存在する場合、その重力レンズ効果により地球から遠く離れた対象から発する光が明るくなることが知られている。そこで2014年以降に発見された740もの超新星や爆発した大質量星の解析を開始、ブラックホールによる重力レンズ効果によって巨大化あるいは明るくなった超新星等が存在しないことを突き止めた。

 研究グループのひとりである米バークレー宇宙物理学センターのミゲル・スマカラレギ氏は、「統計的解析により、ダークマターの大部分、少なくとも約60%はブラックホールではないことが明らかになった」という。

 では、どのような理論によってダークマターを説明できるのか。MACHO(Massive Compact Halo Object)や、WIMP (Weakly Interacting Massive Particles)等が、ダークマターの候補として挙がる。「大質量でコンパクトな物体ではなく、比較的なだらかに分布した軽いダークマターモデルを確証するのが我々の目的だ」とスマカラレギ氏は語る。ダークマターの正体を説明する理論が期待される。

 研究の詳細は、米物理学誌Physical Review Lettersにて1日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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