がんや肥満の創薬開発に役立つ細胞内ATP観察用蛍光センサー開発、早大など

2018年7月26日 18:48

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ATPの濃度変化によって蛍光強度が変わるRGBカラーの蛍光ATPセンサー(画像:早稲田大学の発表資料より)

ATPの濃度変化によって蛍光強度が変わるRGBカラーの蛍光ATPセンサー(画像:早稲田大学の発表資料より)[写真拡大]

 早稲田大学は24日、東京大学、シンガポール国立大学、ハーバード大学と共同で、細胞の中のエネルギー代謝に関わるアデノシン3リン酸(ATP)の活動を、細胞内の部位別に異なる蛍光の経時変化として視覚化して観察できる赤・緑・青(RGB)色の蛍光ATPセンサーの開発に成功したと発表した。

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 生物の生命活動は、細胞内のエネルギー代謝に関与するATPの変換・保存といった、ATPの反応サイクル(ATP動態)として示される。開発したセンサーでは、従来の技術では観察が困難であった、同一細胞内の異なる場所のATP動態を同時に観察でき、さらに、細胞内のATPとそれ以外の反応系の各々の動態も同時に観察できる。この蛍光ATPセンサーでは、細胞内のエネルギー代謝系の動きを、画像の時間変化情報として確認できるため、薬剤の効果を迅速に解析、確認する必要があるがんや肥満などの生活習慣病に対する創薬開発の強力なツールとなる。

 開発したセンサーは、ATPの濃度により蛍光強度が変化する単色型の蛍光タンパク質を用いることで、細胞内の経時的ATP濃度変化を蛍光輝度変化として視覚的にとらえることができる。また、標的とするATPに特異的に結合するタンパク質と、蛍光を発する蛍光タンパク質を繋ぐペプチドリンカーの長さや、構成するアミノ酸の種類を制御することで、蛍光の発色を青色(MaLionB)、緑色(MaLionG)、赤色(MaLionR)におのおの設定したTurn-on型の蛍光ATPセンサーを作製した。各色のセンサーは、細胞内のATP濃度域で機能する。これらのセンサー設計により細胞の中の狙った細胞小器官などに、蛍光色の異なるセンサーを配置し、蛍光強度の時間変化として各細胞小器官などのエネルギー代謝活動を観察できるようになった。

 開発に至る研究では、がん細胞の一部と褐色脂肪細胞に着目し、正常細胞とがん細胞をATP動態の差として捉えることができた。今後は、様々な細胞種のATP産生経路の特徴を体系的に整理して、創薬研究に貢献していく。

 今回の研究は、文部科学省科学研究費補助金及び、日本医療研究開発機構革新的先端研究開発支援事業の研究費によって行われ、研究成果は、ドイツ化学会誌Angewandte Chemie International Editionオンライン版に6月27日付けで掲載された。

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