欧州の中性原子量子チップ計画「Q-PLANET」、レーザーなどの部品開発と設計基盤の整備を推進

2026年10月13日 11:17

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記事提供元:Tech Times

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EUが共同出資するQ-PLANETは、中性原子を利用する量子技術向けに、レーザー光源、原子チップ、微細加工した蒸気セルの産業化を進めている。調整役のPasqalは2026年10月6日、欧州11カ国の参加機関と部品開発を進めていると発表した。研究室から製造現場への移行に向け、製造工程と組み立てに使う設計キットも整備する計画だ。

■4波長のレーザーと原子チップを開発

Q-PLANETの初期段階は2026年5月から2029年4月までの3年間で、7月8~9日にブリュッセルで発足会合を開いた。Pasqalの発表によると、予算は5000万ユーロ(約88億5000万円)、参加機関は28組織である。同社の最高技術責任者Loïc Henriet氏は10月6日の声明で、計画が実行段階に移ったと述べた。

開発対象は、461、698、795、1013ナノメートルの4波長に対応するチップ上のレーザー光源や増幅器、微細加工した原子チップ、蒸気セルだ。461ナノメートルはストロンチウム原子の冷却、698ナノメートルは同原子の時計遷移、795ナノメートルはルビジウム原子のD1線に関わる。Pasqalは1013ナノメートルのチップ上レーザーの開発を主導し、795ナノメートルと1013ナノメートルの部品を自社の量子処理装置(QPU)に組み込む計画である。

原子チップは、原子を保持・操作する装置の小型化に関わる。蒸気セルは原子時計や磁場・電場を測るセンサーに使われる。Pasqalはレーザー光源と蒸気セルの利用者として、開発、試験、検証に必要な仕様を提示する。計画には量子計算に加え、量子センシングと量子通信の用途も含まれる。

Q-PLANETの発表では、設計、製造、試験を3回繰り返し、部品の技術成熟度をTRL 4からTRL 6へ高めることを目標としている。TRL 4は研究室での技術検証、TRL 6は実際の用途に近い環境での実証に相当する。製造工程全体のエネルギー効率も評価する。

■設計キットを標準化し、参加の裾野を広げる

計画の柱の一つが、プロセス・デザイン・キット(PDK)とアセンブリー・デザイン・キット(ADK)の整備だ。PDKは製造工程に合わせた設計ルールや部品のモデルをまとめ、ADKは部品の組み立てに必要な情報を扱う。Q-PLANETはこれらを標準化し、スタートアップや中小企業が試作ラインを利用しやすくする方針である。

従来の半導体産業では、設計者が自ら工場を持たず、製造会社の工程に対応するPDKを使ってチップを設計する。SkyWaterとGoogleが2020年に公開した「SKY130」は、オープンソースのPDKを利用した半導体設計と製造の事例だ。Q-PLANETでも、参加機関をまたいで設計から製造、組み立て、試験までをつなぐ基盤が重要になる。

ミラノ工科大学は、設計と組み立ての標準を設け、スタートアップや中小企業の参入を促すとしている。量子部品では、寸法や材料だけでなく、動作時の雑音や性能も評価する必要がある。量子チップの試験を手掛けるOrangeQSは、将来の量子向けPDKには製造工程を監視・管理する仕組みも必要だと論じている。

設計キットの有用性は、製造された部品の性能と設計時の予測を照合し、改良を重ねることで見えてくる。初期の3年間には部品の再現性と試験手法の確立が求められる。その成果を踏まえ、利用企業を増やす次の3年間の段階も想定されている。

■11カ国に分かれた製造・試験の役割

製造工程は欧州各地の専門拠点が分担する。デンマーク工科大学は461ナノメートルと795ナノメートル向けの窒化シリコン製受動光学素子を製造する。フィンランドのVTTは1013ナノメートル向け素子の製造・試験とレーザー部品の実装を担い、デンマーク工科大学と組み立て工程の試作ラインを共同運営する。

ポーランドのUnipressは461ナノメートル向けレーザー光源と増幅器を設計し、ウエハー段階の特性を調べる。同国のTopGaNは、その窒化ガリウム系部品の製造を担う。フランスのIII-V Labは795ナノメートルと1013ナノメートルの光源・増幅器を設計、製造し、ドイツのFraunhofer HHIは698ナノメートルのレーザー部品を主導する。

原子チップの開発はフランスのSYRTEが主導し、CNRSとThalesの共同研究所Laboratoire Albert Fertが別の製造拠点を担う。Thalesは設計・試験・製造に加え、原子チップの組み立てと試験を行う。蒸気セルではフランスのFEMTO-STが開発を主導する。

ベルギーのiQryptoは、量子部品の電子制御系に共通して接続するため、Aquilaを基盤としたLinux向けAPIとミドルウェアを開発する。イタリアの国立計量研究所INRiMは4波長の部品試験に参加する。スペインのICFOでは、Morgan Mitchell氏、Leticia Tarruell氏、Hugues de Riedmatten氏が率いる研究グループが、量子センサー、量子シミュレーション、量子メモリーなどの用途に関わる部品を検証する。

開発した部品は、Pasqalの中性原子QPU、シュトゥットガルト大学の「QRydDemo」、Welinqの量子メモリー基盤でも試験する計画だ。異なる利用環境で性能を確かめることが、試作部品を産業向けの部品へ育てる工程となる。

■中性原子方式と光学部品の役割

中性原子方式の量子プロセッサでは、強く集光したレーザー光による「光ピンセット」で原子を一つずつ捕らえ、並べる。原子の種類や量子ビットへの情報の符号化方法は装置によって異なる。光を使って原子を移動させ、量子ビット間の相互作用を制御できる点が、この方式の特徴だ。

一部の方式では、原子を高いエネルギーのリドベルグ状態へ励起し、近くの原子との強い相互作用を利用して2量子ビット操作を行う。操作後の状態は、原子が発する光を撮影するなどして読み出す。原子は同じ種類であれば性質がそろっており、配置を動かせるため、固定された配線を持つ方式とは異なる設計が可能になる。

長いコヒーレンス時間も研究上の利点の一つだ。Atom Computingは核スピンを使う量子ビットで40秒を超えるコヒーレンス時間を報告している。カリフォルニア工科大学は2025年9月、セシウム原子6100個を光ピンセットの配列に保持した研究を発表した。いずれも測定対象や条件を踏まえて評価する成果である。

Q-PLANETが取り組むレーザーや光学素子の集積は、装置内の光学系を小型化し、製造しやすくするための工程だ。QPUで必要な波長の光を安定して供給し、原子の操作や測定に使うことが、部品に求められる。試作ラインは、そうした部品を繰り返し製造・検証する体制を整える。

■Pasqalの事業と欧州の量子戦略

Pasqalは2026年8月27日、Bleichroeder Acquisition Corp. IIとの企業結合を完了した。株主による承認は8月25日で、普通株式と新株予約権は8月28日からNasdaqでそれぞれ「PSQL」「PSQLW」として取引が始まった。同社は取引完了時に約3億6000万ドル(約568億8000万円、1ドル=158円換算)の資金を利用できると発表している。

同社の共同創業者には、量子もつれの実験で2022年のノーベル物理学賞を受賞したAlain Aspect氏がいる。Pasqalによると、欧州の高性能計算拠点であるフランスのTGCC、ドイツのForschungszentrum Jülich、イタリアのCINECAにQPUを計3台納入した。IBM Quantum Networkに参加し、NVIDIAとも協力関係を持つ。

Pasqalの2025年売上高は約1650万ユーロ(約1850万ドル、約29億2300万円。1ドル=158円換算)だった。2026年上半期の売上高は490万ユーロ、営業損失は5920万ユーロと同社が公表している。Q-PLANETでは調整役と部品の利用者を兼ね、自社QPUの開発と並行して欧州の部品供給網づくりに参加する。

欧州委員会が2025年7月2日に公表した「Quantum Europe Strategy」は、域内での設計・製造基盤と供給網の強化を掲げる。同戦略は、欧州の量子企業が獲得する世界の民間資金は約5%で、米国は50%超だと示した。Q-PLANETは、EUのChips Joint Undertakingが支援する6つの量子チップ試作ラインのうち、中性原子方式を担当する。

欧州委員会は同戦略で、2030年までに1システム当たり約100個、2035年までに数千個の誤り訂正済み量子ビットを目指すとした。EU Quantum Actの提案も2026年後半に予定している。Q-PLANETの初期段階では2029年4月までに、設計・製造・試験をつなぐ仕組みと、再現性のある部品をどこまで整えられるかが焦点となる。

元記事: Europe Launches Neutral-Atom Quantum Chip Line: Open PDKs Could Democratize Hardware Design

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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