「AHS: 13」が描く「13」の恐怖 セイラム、超心理学、冬の民間伝承を読み解く

2026年9月27日 15:42

印刷

記事提供元:Tech Times

(Hulu.com)

(Hulu.com)[写真拡大]

「American Horror Story(AHS)」の第13シーズン「American Horror Story: 13」が9月24日、米FXでスタートした。今季は全13話で、サラ・ポールソン、エバン・ピーターズ、ジェシカ・ラングらが過去シーズンの役を再演し、シリーズを横断するクロスオーバーとして展開する。

初週には「13」「1:13AM」「Rauhnacht」の3話が放送された。「13」という数字への恐怖をはじめ、セイラム魔女裁判をめぐる麦角中毒説、超心理学研究、ドイツ語圏の冬の民間伝承など、現実世界にも研究史や文化史を持つ題材が物語に重ねられている。

■「13」への恐怖はどこまで心理学で説明できるか

第1話では、ホスピスで働くベン(ジョーイ・ポラリ)が「13」という数字への強い恐怖、トリスカイデカフォビア(triskaidekaphobia)を抱えている。物語は、彼が13にまつわる状況を避けようとする姿から始まり、その恐怖を今季の中心的なモチーフに据えている。

トリスカイデカフォビアは「13に対する恐怖や忌避」を指す言葉で、心理学者イザドール・コリアトが1910年の著書『Abnormal Psychology』で用いた例が知られている。ただし、米精神医学会の診断基準DSM-5-TRに「トリスカイデカフォビア」という独立した診断名が設けられているわけではない。

特定の対象に対する強い恐怖が持続し、実際の危険に比べて著しく過剰で、回避行動などによって生活に大きな支障を及ぼす場合には、DSM-5-TRの「限局性恐怖症」の診断基準に該当する可能性がある。「13を不吉と感じる」という文化的な迷信だけで、医学的な恐怖症になるわけではない。

もっとも、「13」を避ける習慣が実際の行動や経済活動に表れる例はある。2007年のギャラップ調査では、米成人の13%が13階のホテル客室を割り当てられたら気になると回答し、9%は別の部屋を求めると答えた。

ロシアの住宅市場を調べた2015年の研究では、13階の住戸は隣接する12階、14階と比べ需要が低かった。2018年の別の研究では、13階の住戸に値引きがある場合、このマイナス効果が弱まることが示された。「13」という文化的意味付けが消費者行動に影響し得ることを示す例である。

ライアン・マーフィーは今季について、全13話とした理由をタイトルの「13」と結び付け、「13を特別な形で扱いたかった」と説明している。FXによると、シリーズは2011年の開始以来、世界で累計7億時間を超えてストリーミングされ、エミー賞には100回以上ノミネートされている。

■セイラム魔女裁判と「麦角中毒説」

「AHS: Coven」以来、シリーズの魔女たちの背景には1692年のセイラム魔女裁判が置かれてきた。現実のセイラム事件をめぐっては、社会史、宗教史、心理学など多方面から原因が論じられており、その中で特に知られている科学的仮説の一つが麦角中毒説である。

1976年、リンンダ・R・カポレルは科学誌『Science』で、セイラムで報告された一部の異常行動に、ライ麦などに寄生する麦角菌(Claviceps purpurea)による中毒が関与した可能性を提唱した。当時のカポレルはカリフォルニア大学サンタバーバラ校に所属していた。

麦角菌が産生するアルカロイドは、中毒を起こすとけいれんなどの神経症状や、重症例では末梢血流障害を引き起こすことがある。カポレルは、セイラムで記録された症状や当時の気象・農業条件などを根拠に、けいれん性麦角中毒が事件の一因になった可能性を論じた。

しかし同年、心理学者ニコラス・スパノスとジャック・ゴットリーブは同じ『Science』誌で反論した。症状の現れ方や患者の分布などが食物由来の中毒としては不自然だとし、記録は麦角中毒説では十分に説明できないと論じている。

このため、麦角中毒はセイラム魔女裁判をめぐる歴史的仮説の一つではあるが、事件全体を説明する確立した原因とは位置付けられていない。宗教的信念、共同体内部の対立、社会心理などを含め、複数の観点から研究されてきた事件である。

「AHS」はこうした歴史を、魔女の能力が実在する作品世界へ反転させる。現実には原因をめぐって議論が続く出来事を、超自然現象が実在する物語の起点に置いている点が、「Coven」以来の世界観を読み解く一つの補助線になる。

■「七つの驚異」と超心理学研究

「Coven」でスプリームの資格を判定する「七つの驚異」には、念動力や占術など、現実世界で超心理学の研究対象とされてきた能力を連想させるものが含まれる。

J・B・ラインは20世紀前半、デューク大学でESP(超感覚的知覚)などを実験的に研究した人物として知られる。ESPの実験では記号が描かれたカードなどが使われ、サイコキネシスについてもサイコロを用いた実験が行われた。ただし、こうした超常能力の存在は現在の主流科学で確立されたものとはみなされていない。

プリンストン大学では、ロバート・G・ヤーンらが1979年にPrinceton Engineering Anomalies Research(PEAR)研究室を設立し、人間の意図と乱数発生器などの物理系との関係を研究した。研究室は2007年まで活動したが、その研究結果の再現性や解釈は大きな論争の対象となった。

米政府も冷戦期にリモートビューイングと呼ばれる超感覚的情報収集を研究した。複数の計画名を経た一連の研究は後に「STAR GATE」としてまとめられ、1995年に米中央情報局(CIA)の依頼で外部評価が行われた。

この評価では、実験データの統計的解釈について専門家の意見が分かれた一方、実際の情報活動では具体的で信頼できる情報を安定して得られず、実用上の価値は確認できないと結論付けられた。CIAは計画を再開しなかった。

「七つの驚異」のDescensumは、作中では死後世界へ降りて戻る能力として描かれる。現実の研究でこれに最も近いテーマの一つが、心停止から蘇生した人などが報告する臨死体験(NDE)である。

サム・パーニアらによる2014年のAWARE研究は、心停止から蘇生した患者の記憶や意識経験を前向きに調べた。2060件の心停止を対象とし、生存して聞き取り可能だった患者の一部が蘇生中の記憶や意識経験を報告したが、死後世界の存在を実証した研究ではない。

臨死体験の成立機序については、低酸素、神経生理学的変化、薬理作用、心理的要因など複数の仮説が研究されている。単一の機序で全てが説明できるとの合意はなく、意識と心停止をめぐる研究は現在も続いている。

「七つの驚異」のTransmutation、すなわち人間の瞬間移動を連想させる名称には、物理学の「量子テレポーテーション」という言葉を重ねることもできる。量子テレポーテーションは、量子もつれと古典通信を利用して量子状態を別の系に再構成する手法であり、物質や人間そのものを移動させる技術ではない。

■「Rauhnacht」が示す境界の時間

第3話のタイトル「Rauhnacht(ラウナハト)」は、ドイツ語圏の民間伝承に由来する。複数形の「Rauhnächte」は、主としてクリスマス前後から1月6日の公現祭にかけての冬の夜を指し、地域によって期間や風習には違いがある。

この時期には、霊的な存在や「ワイルドハント(Wilde Jagd)」と結び付いた伝承、家を清めるために香をたく習慣、占いなどが各地で伝えられてきた。12夜を1年の12カ月に対応させる民間伝承もある。

こうした「年と年の間」の時間は、人類学のリミナリティ(境界性)という概念とも重ね合わせることができる。フランスの民族学者アーノルド・ファン・ヘネップは1909年の『通過儀礼』で、儀礼を「分離」「移行」「再統合」という段階から捉えた。

このうち移行の段階がリミナルな状態であり、後に人類学者ヴィクター・ターナーが議論を発展させた。既存の社会的な分類や秩序の「間」に置かれた、不安定で曖昧な状態を考える枠組みである。

第3話がラウナハトの伝承を使って生者と死者の境界を揺るがすのは、「AHS」が繰り返してきた世界観ともよく重なる。シリーズでは幽霊、魔女、死者の世界などを通じ、生と死の境界が何度も物語の装置として使われてきた。

■13シーズンを一つにつなぐクロスオーバー

マーフィーは今季を単なる「Coven」の続編ではなく、過去の全シーズンを結び付ける企画だと説明している。サラ・ポールソンは複数の役、ジェシカ・ラングは過去に演じた複数の人物、エバン・ピーターズも複数のキャラクターとして登場するという。

マーフィーはこの構成を「アベンジャーズ」になぞらえ、過去シーズンの人物たちが「究極の悪」に立ち向かうと説明した。第13作で過去の人物や設定を集め、「13」という不吉な数字そのものをシーズンの軸にした構成である。

FXの放送予定では、10月1日に第4〜6話を放送し、その後は週2話ずつ進む。全13話の最終話は10月29日に予定されている。

元記事: American Horror Story Season 13 Premiered With Fear, Fungi, Folklore, and Parapsychology

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

関連キーワード