ESAのFLEXとSentinel-3C、Vega-Cで打ち上げ成功 植物の光合成を宇宙から観測
欧州宇宙機関(ESA)の地球観測衛星FLEXと、欧州連合(EU)の地球観測計画「Copernicus」を構成するSentinel-3Cが9月15日午前10時21分(日本時間)、Vega-Cロケットで打ち上げられた。両衛星は予定された軌道へ投入され、地上局との通信も確立した。
FLEXは、植物が光合成に伴って放つ微弱な蛍光を宇宙から高精度で観測することを目的とした衛星である。Sentinel-3Cの光学・熱観測データと組み合わせ、植物の光合成活動や環境ストレスへの反応、炭素・水循環に関する理解を深める。
■植物の光合成を捉えるFLORIS
FLEXは「Fluorescence Explorer」の略で、ESAの地球観測研究ミッション「Earth Explorer」の第8号に当たる。植物が太陽光を吸収して光合成を行う際に放つ太陽誘起クロロフィル蛍光(SIF)を観測するため、蛍光イメージング分光計「FLORIS」を搭載している。
SIFは人の目では見えないほど微弱だが、植物の光合成活動や状態を読み取る手掛かりになる。従来の衛星観測で広く使われてきた植生指数は、主に植物の量や緑の程度を反射光から推定する。これに対してSIFは、観測時点における光合成活動との関係を調べられる点に特徴がある。
植物は水不足や高温などのストレスを受けると、外見上は緑を保っていても光合成活動が変化することがある。FLEXは、こうした変化をSIFの観測から捉え、植物の健康状態や生産性、環境変化への反応を評価するためのデータを提供する。
FLORISは500~780nmの波長域を観測する。特に波長686~697nmの酸素吸収帯と759~769nmの酸素吸収帯では、0.1nm間隔でスペクトルをサンプリングする。大気中の酸素が太陽光の一部を強く吸収してスペクトル上に暗い部分をつくるため、その中に含まれる植物由来の微弱な蛍光信号を取り出しやすくなる。
FLORISは、高分解能と低分解能の2つの分光計が共通の望遠鏡光学系を使用する構成である。ホログラフィック回折格子や、画像のひずみを抑えるOffner光学系を採用し、植物の蛍光と反射光などの背景信号を分離する。
光が望遠鏡へ入る前には、二重Babinet方式の偏光スクランブラーを通過する。入射光の偏光による測定への影響を抑え、微弱な蛍光信号を安定して観測するための仕組みだ。高分解能、低分解能の両チャンネルには、冷却式の裏面照射型CCD検出器を備える。
機上校正装置には回転式のカルーセル機構があり、太陽光で照らされた拡散板や暗黒基準を光路に入れて測定状態を確認できる。FLEXの設計寿命は3年半で、地上分解能約300m、観測幅約150kmで植生の蛍光を測定し、27日周期で観測域を繰り返しカバーする計画である。
■炭素循環と植物の状態を調べる新たな手掛かり
総一次生産量(GPP)は、植物が光合成によって固定する炭素の総量を示す。陸域の炭素循環を理解するうえで重要な指標だが、全球規模の推定値には、使用する観測データやモデルによる幅がある。
これまでGOSATやOCO-2などの衛星から取得されたSIFデータを利用し、GPPとの関係を調べる研究が進められてきた。SIFとGPPには有用な関係が認められる一方、その関係は植生の種類や空間・時間スケール、環境条件によって変化することも報告されている。
FLEXはSIFを全球規模で高い空間分解能により観測し、光合成活動を推定するための情報を増やす。これにより、気候モデルや生態系モデルの改善に加え、森林や農地が干ばつ、高温、季節変化などにどのように反応するかを調べる研究への活用が期待される。
FLEXが観測するのは、植物の光合成活動と関係する蛍光信号である。植物による炭素固定と、生物の呼吸や分解などによる炭素放出を差し引いた生態系の正味炭素交換を、衛星が単独で直接測定するものではない。FLEXのデータは、ほかの観測値やモデルと組み合わせて炭素循環を分析するための重要な入力情報となる。
地上分解能約300mは、従来の全球SIF観測より細かな空間構造を捉えるのに適している。大規模な植生帯だけでなく、農地や森林の区画ごとの違いを調べ、植物が受けるストレスの変化を追跡する研究にも利用できる可能性がある。
■Sentinel-3との連携で観測精度を高める
FLEXは、CopernicusのSentinel-3衛星と連携して観測するよう設計されている。SIFを精度よく求めるには、同じ観測対象について大気の状態、雲、地表面の反射特性、地表面温度などを把握する必要があるためだ。
Sentinel-3Cは、2016年に打ち上げられたSentinel-3A、2018年に打ち上げられたSentinel-3Bに続く、Sentinel-3シリーズの3機目である。試運転と検証が完了した後はSentinel-3Aの役割を引き継ぎ、Sentinel-3Bとともに観測を続ける計画である。
Sentinel-3Cには、海洋・陸域色観測装置「OLCI」、海陸表面温度放射計「SLSTR」、合成開口レーダー高度計「SRAL」、マイクロ波放射計「MWR」などが搭載されている。海洋、陸域、氷、大気を継続的に観測し、海面水温や海面高度、海洋・陸域の色、地表面温度などのデータを取得する。
FLEXとの連携では、OLCIが地表面の分光反射率や大気補正に必要な情報を提供し、SLSTRが地表面温度を測定する。これらのデータをFLORISの観測と組み合わせることで、植物由来の蛍光信号をより適切に取り出し、植生の状態を分析できる。
Sentinel-3Cには、長期的な地球観測記録を維持する役割もある。Sentinel-3AとSentinel-3Bはいずれも当初の設計寿命を超えて運用されており、Sentinel-3Cの投入によって海洋や陸域、氷、大気に関する観測の継続性を確保する。
■Vega-Cが2機の衛星を軌道へ投入
Vega-CのVV30便は、フランス領ギアナ・クールーの欧州宇宙港から9月14日午後10時21分(現地時間)に離昇した。日本時間では9月15日午前10時21分に当たる。
両衛星は「Vespa」と呼ばれる打ち上げアダプターを使って、Vega-Cのペイロードフェアリング内に上下に搭載された。Sentinel-3Cが先に分離し、その約1時間後にFLEXが分離した。ESAの地上局は両衛星からの信号を受信し、ロケットから安全に分離して地上管制との通信を確立したことを確認した。
今後は初期軌道運用を行い、衛星本体と観測機器が計画どおり機能するかを確認する。Sentinel-3Cは運用位置へ移動し、FLEXもSentinel-3との連携観測に向けた試運転と校正を進める。
Vega-Cは全高約35m、打ち上げ時の質量約210トンの欧州のロケットである。3段の固体推進段と、再着火可能な液体推進式上段「AVUM+」で構成される。
Vega-Cは2022年12月のVV22便で、第2段Zefiro-40のノズル部分の不具合により打ち上げに失敗した。その後、ノズルの再設計と燃焼試験を経て、2024年12月にSentinel-1Cを搭載した飛行で運用に復帰した。VV30は、復帰後の成功実績を積み重ねる打ち上げとなった。
両衛星は高度約814~820kmの太陽同期軌道で運用される。太陽同期軌道では、同じ地域をおおむね同じ地方太陽時に観測できるため、太陽光の条件をそろえて取得した長期データを比較しやすい。FLEXとSentinel-3の観測を組み合わせることで、植物の微弱な蛍光を、地表面や大気の状態を含む広い文脈の中で分析できるようになる。
元記事: FLEX Satellite Launches Tonight on Vega-C: First Instrument Built to Map Plant Fluorescence
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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