NASA、2025年に職員の約2割を喪失 GAO報告書、36件中25件の主要プロジェクトに人員面の影響
米政府監査院(GAO)が新たに公開した報告書によると、NASAは2025年の1年間で、全職員の約22%に当たる約4,000人の公務員を失った。人員面の影響は、現在進行中の主要プロジェクト36件中25件に及んでいる。
■深刻化する専門技術者の不足
GAOが発表したNASAの主要プロジェクトに関する18年連続の年次評価報告書は、航空宇宙工学、機械工学、電気工学、コンピュータ工学、IT、サイバーセキュリティといった分野での具体的なスキル不足を記録している。このリストは、NASAの最高人的資本責任者室(Office of the Chief Human Capital Officer)が特定したものだ。
個別のミッションでは、こうした人材不足がすでに具体的な影響をもたらしている。金星大気探査機「DAVINCI」は、多くのプログラムマネージャーやエンジニアを失ったため、2025年にリスク低減活動を中止した。また、ジェット推進研究所(JPL)の地球近傍天体探査望遠鏡「Near Earth Object Surveyor(NEO Surveyor)」では、指導的立場の人材と、ハードウェア開発を実際に担うスタッフの両方が失われた。
小惑星探査ミッション「Psyche」の事例は、警戒すべき前例となっている。同プログラムが過去に人員不足に陥った際、打ち上げが1年遅れ、1億3,200万ドル(約216億円、1ドル=164円換算)の追加コストが発生した。さらに、その波及効果は、JPLでリソースを共有していた金星周回探査機「VERITAS」のプログラムにも及んだ。現在の状況がPsycheの事例と異なるのは、その広がりである。当時、一つのミッションで起きたことが、現在ではNASAのプロジェクト全体の過半数で同時に確認されている。SpaceNewsによると、NASAの人事部門は「2026年1月にかけて段階的に人員削減が行われたため、削減の影響はまだ組織全体で完全には顕在化していない」と認めている。GAOも、削減の影響がまだ全面的には表れていない可能性を明確に指摘している。
■職員の5人に1人が離職した背景
この人員減少は、従来のレイオフではなく、トランプ政権による連邦政府全体の人員削減策の一環として実施された「退職猶予プログラム(Deferred Resignation Program)」を通じて進んだ。SpacePolicyOnlineによると、2025年2月の第1弾では約870人が同プログラムに応じ、同年7月下旬に締め切られた第2弾では、さらに約3,000人が応じた。同じ期間の通常の退職などによる約500人の離職も加わり、当初約1万8,000人だった職員のうち、合計約4,000人が組織を去った。
影響を免れたNASAの拠点は一つもなかったが、減少率には大きなばらつきがあった。メリーランド州グリーンベルトにあるゴダード宇宙飛行センターは、DAVINCIや複数の地球科学プログラムを抱え、NASAで最も複雑なエンジニアリング業務の一部を担っている。同センターは公務員職員の34%を失い、NASAで最も深刻な打撃を受けた施設となった。次いで影響が大きかった拠点には、バージニア州のラングレー研究センターとフロリダ州のケネディ宇宙センターが含まれる。その他のフィールドセンターでも、16~28%の減少が記録された。ワシントンD.C.のNASA本部では11%減少した。
単なる人数の減少だけでなく、失われた人材の専門分野も重要である。NASAの人事部門がGAOに示したスキルギャップ、すなわち航空宇宙工学、機械工学、電気工学、コンピュータ工学、IT、サイバーセキュリティは、ハードウェアを設計から試験、打ち上げへと進めるために不可欠な技術人材層に当たる。これらは事務系の職種ではない。
■リスクに直面している具体的なプログラム
GAOの報告書は、人員減少が抽象的なリスクにとどまらず、実際の運用上の影響につながっている注目度の高いプログラムを具体的に挙げている。
2026年4月の「Artemis II」ミッションで4人の宇宙飛行士を月の周囲へ運び、アポロ計画以来初となる有人月飛行を実現した有人宇宙船「Orion」は、公務員職員の10%を失い、重要なポジションの補充に苦慮している。また、Orionはプロジェクト全体で最大のコスト増加要因であり続けており、年間コスト超過の半分以上、累積コスト超過の約75%を占めている。
Artemis IIを打ち上げたロケット「Space Launch System(SLS)Block 1B」は、公務員職員の約20%を失った。GAOが今年、進行中の開発プロジェクト18件について記録した年間の純コスト超過額5億140万ドル(約822億円)のうち、SLSとOrionだけで4億7,820万ドル(約784億円)を占めている。
金星の何層にも重なる雲の中へ大気探査機を送り込むために設計されたディスカバリー級ミッション「DAVINCI」は、実現すれば1990年代以来、金星大気圏に突入する初の米国宇宙機となる。DAVINCIは多数のエンジニアとプログラムマネージャーを失った結果、2025年中に複数のリスク低減活動を中止した。同プログラムは2026年度の最終歳出法で専用の予算を確保し、人員の再構築を始めているが、現政権の2027年度予算案では、ミッション自体が中止される可能性に直面している。
地上からの観測では見逃される暗い小惑星や彗星を検出するため、議会の指示に基づいて開発されている赤外線宇宙望遠鏡「NEO Surveyor」は、JPLでの人員減少により、プログラムの指導者とハードウェアの組み立てを実際に担うエンジニアの両方を失った。NEO Surveyorは2025年2月に詳細設計審査(Critical Design Review)を通過し、早くとも2027年9月の打ち上げを目指している。議会は2005年、直径140メートル以上の地球近傍天体の90%を検出するようNASAに求めており、この望遠鏡は、その目標を達成するために設計されている。
■単一ミッションの問題とは異なる深刻さ
歴史的な基準から見れば、NASAの一つのミッションで、人員不足に起因するコスト超過や打ち上げ遅延が発生すること自体は珍しくない。Psycheミッションでは、人員不足によって打ち上げが1年遅れ、1億3,200万ドル(約216億円)の追加コストが生じた。この事例は、人員不足が具体的な影響につながる仕組みを示しているが、当時は一つのプログラムの問題だった。
今回のGAO報告書が記録している状況は、性質が異なる。Psycheでは個別に生じた人員削減の影響が、現在では主要プロジェクト36件中25件で同時に確認されている。人員不足がリスク低減活動の中止を招き、それがスケジュールの遅延やコスト増加につながり、さらに、組織的・物理的なリソースを共有する他のプログラムへ波及する可能性があるというPsycheの事例と同様の仕組みが、プロジェクト全体の過半数で同時に作用するおそれがある。GAO自身が影響は「まだ完全には顕在化していない」と述べていることは、構造上、今後さらに深刻な影響が表れる可能性を示唆している。
NASAのプロジェクト全体の数値は、これまでコストやスケジュール面で問題を抱えてきたNASAの基準に照らせば、現時点では比較的抑えられている。過去1年間にスケジュール遅延を報告したのは、進行中の開発プロジェクト18件のうち2件だけで、遅延は合計2カ月だった。コスト超過を報告したのは3件で、年間合計5億140万ドル(約822億円)だった。累積コスト超過は44億ドル(約7,216億円)から47億ドル(約7,708億円)へ小幅に増加し、累積スケジュール遅延は13.1年から14年へ増加した。短期的な数値が比較的小幅にとどまっているのは、人員削減が段階的に進んだためであり、蓄積した組織上の負担は、ほとんどのプログラムでまだ顕在化していない。
GAOはまた、コストの透明性と調達管理に関する過去の二つの勧告が「優先度の高い勧告」に指定されていたにもかかわらず、2026年5月時点で未実施のままだと指摘している。これらの勧告は人員削減以前から存在するものであり、別の脆弱性として現在の問題をさらに悪化させるおそれがある。
■Artemis IIは飛行したが、その先は不透明
この報告書が発表された時期は重要である。2026年4月1日午後6時35分(米国東部時間)、NASAはケネディ宇宙センターからArtemis IIを打ち上げた。リード・ワイズマン、ビクター・グローバー、クリスティーナ・コック、カナダ宇宙庁のジェレミー・ハンセンの4人の宇宙飛行士が、SLSロケットに搭載されたOrion宇宙船で10日間の月周回飛行に出発した。乗組員は4月10日、サンディエゴ沖の太平洋に着水した。最遠地点では地球から25万2,756マイル(約40万6,771キロメートル)に達し、人類が地球から到達した距離の記録を更新した。
このミッションが成功したのは、OrionとSLSを製造し、ミッションコントロールを運営したエンジニアの大半が、飛行に必要とされた時点ではまだ現場にいたからである。ミッション開始後に同じプログラムを襲った人員削減と、今後の計画を担うプログラムにスキルギャップを生じさせたことがGAOによって確認された人員削減は、これとは別の問題である。
2026年2月と3月、ジャレッド・アイザックマン長官はArtemis計画の構成を抜本的に見直すと発表した。1972年以来初の有人月面着陸ミッションとして当初計画されていたArtemis IIIは、地球低軌道でのドッキング試験に変更された。継続的な月面活動を支える予定だった月周回軌道上の小型宇宙ステーション「Gateway」の作業は一時停止された。Artemis関連の二つのプロジェクトは、再構築に伴うコストを全面的に織り込む前の段階ですでに、スケジュール遅延につながる可能性が高い技術面および計画管理面のリスクを報告している。
GAOは、影響を受けるすべてのプログラムがコストとスケジュールの基準を一から再設定しなければならない抜本的な構成変更を実施する今こそ、2025年に失われた人的資本が最も必要とされる時期だと指摘している。
■予算案の逆風を受ける採用強化
NASAは、こうした指摘に対して何もしていないわけではない。2026年2月、アイザックマン長官は、長期にわたる採用凍結を終えて採用を再開し、公務員の技術人材層を再構築する計画を策定すると発表した。2026年3月には、人事管理庁(OPM)と連携して「NASA Force」を立ち上げた。これは、民間企業からエンジニアや技術者を採用し、NASAで約2年間の任期付き職員として雇用するためのプログラムである。NASA Forceのウェブサイトは2026年4月に開設され、若手から中堅の航空宇宙エンジニア、ソフトウェアエンジニア、システム技術者を対象に応募を受け付けている。
OPMのスコット・クポール長官はNOTUSに対し、これまで請負業者へ外注していた多くの職務を政府職員に切り替えることも、NASAが検討すると語った。これは、アイザックマン長官が組織能力の再建に欠かせないと位置付けている構造的な転換である。
しかし、この再建の取り組みは、人員削減を命じたのと同じ政権による直接的な逆風に直面している。2026年4月に発表されたホワイトハウスの2027年度予算案は、NASAに188億ドル(約3兆832億円)を要求している。これは、議会が2026年度予算として成立させた244億ドル(約4兆16億円)から23%の削減となる。そのうち科学予算には47%近い削減が提案されており、実施されればDAVINCIを含む50件を超えるミッションが中止される規模である。GAOはその影響について、予算案は「NASAがスキルギャップに対処するために必要な人材を採用できるかどうかをめぐる、現在進行中の不確実性の一因となっている」と明確に述べている。
議会はこれに反発している。下院歳出委員会の商務・司法・科学小委員会は2026年4月、ホワイトハウスの要求を退け、NASA予算を2026年度と同額の244億ドルに据え置く案を前進させた。5月には、歳出委員会の全体会が党派に沿った賛成32、反対28の投票で同案を可決した。これに先立つ2026年3月には、100人を超える下院議員が、NASAの科学プログラムだけで25%増となる90億ドル(約1兆4,760億円)を求める超党派の書簡に署名していた。SpaceNewsによると、議会の両院は、ほぼ同様の削減を盛り込んだ2026年度予算案も退け、NASAに前年度と同水準の予算を措置した。
次は上院歳出小委員会が審議する見通しである。最終的な2027年度予算が188億ドルに近い水準となるか、244億ドルに近い水準となるかによって、NASA Forceの採用活動を支える予算を確保できるかどうかが決まる。
■議会の今後の対応はミッションに影響するか
影響する。しかも、複数の面に直接影響する。244億ドル(約4兆16億円)の予算が維持されれば、NASA Forceによる人員補充に必要な職員枠を確保でき、DAVINCIやNEO Surveyorのようなプログラムも存続できる。一方、188億ドル(約3兆832億円)に削減されれば、これらのミッションは中止されることになり、2028年に予定されるArtemis IVでの初の有人月面着陸を現実的な日程で進めながら、公務員エンジニアの人材層を再構築することは、構造上不可能となる。GAOは今回、人員データによる裏付けを伴う形では初めて、予算と人員配置という二つのリスクが結び付いていると明言した。予算の裏付けがなければ採用による回復はできず、それを管理する人員がいなければ予算を効率的に執行することもできない。
■注目ポイントQ&A
●2025年にNASAを離職した職員は何人で、どの拠点が最も大きな影響を受けましたか?
GAOの報告書によると、NASAは2025年に2回実施された連邦政府の退職猶予プログラムなどを通じて、全職員の約22%に当たる約4,000人の公務員を失いました。最も減少率が大きかったのはメリーランド州グリーンベルトのゴダード宇宙飛行センターで、公務員職員の34%が離職しました。次いで、ラングレー研究センターとケネディ宇宙センターが深刻な影響を受けました。その他のフィールドセンターでは16~28%、NASA本部では11%の減少が報告されています。これらは強制的なレイオフではなく、職員が退職条件と退職日の延期を受け入れるという、形式上は自発的な離職でした。
●GAOが指摘したエンジニアリング分野のスキル不足により、最もリスクにさらされているNASAのミッションは何ですか?
GAOの報告書では、2026年半ばの時点で人員不足による影響が確認されている四つのミッションが挙げられています。金星大気探査機「DAVINCI」は、エンジニアやプログラムマネージャーを失った後、リスク低減活動を中止しました。議会の指示に基づいて開発されている小惑星探査望遠鏡「NEO Surveyor」は、JPLでプログラムの指導者と、ハードウェア開発を実際に担うスタッフを失いました。Artemis IIで飛行した有人宇宙船「Orion」は公務員職員の10%を失い、重要な職務の補充に苦慮しています。また、ロケット「Space Launch System」は公務員職員の約20%を失いました。GAOは特に、一つのミッションの人員不足が1年の遅延と1億3,200万ドルの追加コストをもたらしたPsycheの事例と同様のリスクが、現在ではプロジェクト全体の過半数に広がり得ると警告しています。
●NASA Forceとは何ですか?失われた約4,000人分の人員を実際に補えるのでしょうか?
NASA Forceは、ジャレッド・アイザックマン長官が人事管理庁(OPM)と連携し、2026年3月3日に立ち上げた採用プログラムです。民間企業からエンジニアや技術者を採用し、正規職へ切り替えられる可能性がある約2年間の任期付き職員としてNASAに迎えます。このプログラムは、若手から中堅の航空宇宙、ソフトウェア、システム分野のエンジニアを対象としており、離職者の相当部分を占めた、特定のミッションについて数十年の経験を持つシニア専門家を直接置き換えるものではありません。新たな技術的リスクを管理しながらコストとスケジュールの基準を再設定する必要があるArtemis計画の再構築に間に合うよう、人材不足を解消できるかどうかが、GAOが注視するとしている中心的な課題です。NASA Forceで採用できる職務が確保されるかどうかは、2027年度予算の結果に左右されます。
●NEO Surveyorの人員減少による小惑星探知の遅れは、地球に対するリスクを高める可能性がありますか?
議会は2005年、直径140メートル以上の地球近傍天体の90%を把握するようNASAに求めました。この大きさの天体は、地域規模から大陸規模の被害を引き起こす可能性があるためです。NEO Surveyorは、特に地上からの赤外線観測や光学観測では確実に検出できない暗い小惑星を対象に、この目標を達成するために設計された主要な観測手段です。GAOの報告書に記録されたJPLの人員減少は、この望遠鏡のハードウェアを製作しているチームを直接襲いました。NEO Surveyorの遅延は、潜在的に危険な小惑星の相当部分について、その性質を把握できない期間を長引かせることになります。同望遠鏡は2025年2月に詳細設計審査を通過し、早くとも2027年9月の打ち上げを目指しており、契約上の期限は2028年6月です。
元記事: NASA Lost 1 in 5 Workers Last Year: Watchdog Finds 25 of 36 Projects Struggling
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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