世界で進むベーシックインカム導入議論 生活はどの様に変わる?

2021年9月21日 11:40

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 2年近く続くコロナ禍の影響から、世界的に『富める人』と『貧しい人』の経済的格差が拡大し、貧困層とされる人は増えている。政府は現在も、生活支援(政府による無利子の貸付)やさまざまな援助金制度を実施し、生活に困窮する人や経営が立ちいかない企業をサポートしている。だがそれらのセーフティーネットからこぼれ落ちてしまうケースは、少なくはない。

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 加えて人工知能・ロボットの普及による職場の減少傾向も進んでおり、政府は憲法にある通り、『国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利』を行使する社会基盤が整えられるかが、直近の課題となってきた。

 そこで注目されているのが、『ベーシックインカム制度』だ。既にヨーロッパでは実施に向けた議論が始っている。コロナショック後、2020年4月にはスペインの経済担当大臣が『可及的速やかに、最貧層の100万世帯に対してベーシックインカムの導入を実施する』と発言して、世界を驚かせたことは記憶に新しい。

 同年5月には、スコットランド自治政府のニコラ・スタージョン首相が『いまこそ、全国民に現金支給するUBIを議論すべき時』と述べている。

 国内でも、元経済財政担当相でパソナグループ会長の竹中平蔵氏が、『月7万円のベーシンクインカムで年金も生活保護も不要』と発言し、物議をかもしていた。

 さて、月7万円を1億2000万人に毎月支給するとなると、年間12兆もの財源が必要となる。この財源をどうするかで議論が分かれるところだ。

 だがこれまで10年以上も量的緩和や財政出動により、ベーシックインカムの財源をはるかに超える現金がばらまかれてきた。政府による2020年の第3次補正予算案での新規国債発行額は、112兆円にも達している。

 もちろん額の問題だけでは無いのだが、単純に予算規模からすると、月7万円のベーシックインカムは、決して非現実的という話では無いのだ。なおMMT(現代貨幣理論)においても、国内通貨建ての債務においては過激なインフレが生じない限り許容できるとしていて、ベーシックインカムの財源に問題なしとの判断がとられている。

 コロナ禍と人工知能・ロボットの普及により、世界各国がベーシックインカムの導入議論を進めている。日本もその例外ではいられないだろう。

 そこで日本国民のライフスタイルだが、もし月7万円の支給が実施された場合はどうなるだろうか。やがて職を失う可能性の高い人は、その額面でまかなえる生活基盤を整えるべきかもしれない。テレワーク中心の仕事を持つ人は、家賃をはじめ生活費が低い地方へ移住することも選択肢だ。できれば庭に野菜や穀類を植え、ニワトリや豚を飼育するという、多少でも自給自足するスローライフが幸福感を与えてくれる可能性もある。

 やがて職を失うことを前提に、普段の過ごし方を考えることも良いかもしれない。収入は限られているのだから、出費の少ない趣味・嗜好に切り替え、マイライフをエンジョイする工夫も楽しめる。

 政府が国民に労働させることなく、善意から養うというのはさすがに考えにくいが、現時点ではベーシックインカム導入に関する議論は盛んになりそうな方向だ。質素な生活がベースになるだろうが、生産・サービスはロボットに任せ、自由人のように生きる未来はあり得るのかもしれない。

 付け加えるならば、ベーシックインカムで生きる時代では、資産運用はあまり魅力のないテーマになりそうだ。恒久的に生活の保障を得ることができれば、その時にはお金よりも大切な価値が見えてくるかもしれない。(記事:TO・記事一覧を見る

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