タバコ煙や胃潰瘍治療薬、新型コロナの感染抑える効果 広島大ら

2021年8月23日 06:09

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今回の研究の概要(画像: 広島大学の発表資料より)

今回の研究の概要(画像: 広島大学の発表資料より)[写真拡大]

 一般的にタバコは、新型コロナウイルス感染症には悪い影響を与えると考えられている。だが広島大学らの研究グループは18日、タバコの煙の成分が、新型コロナ感染を抑えることが判明したと発表。他にも健康食品にも入っている成分であるトリプトファンや、胃潰瘍治療薬の中にも新型コロナ感染を抑えるものがあった。新たな治療薬候補として期待したい。

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 この研究を行なったのは、広島大学の谷本圭司准教授、坂口剛正教授、坊農秀雅特任教授、関西医科大学の廣田喜一学長特命教授、松尾禎之講師らの研究グループだ。この研究結果は、17日にSpringer Nature社の科学誌「Scientific Reports」に掲載された。

 これまでにも、新型コロナ感染者に喫煙者は少ないといった報告が、海外からの報告として複数みられていた。一方で喫煙者の新型コロナ感染リスクが高いという報告もあり、詳細は明らかになっていなかった。

 研究グループは、新型コロナウイルスが感染するときの足掛かりとなる、ACE2受容体に注目。ウイルスのスパイクタンパク質が人のACE2受容体に結合し、そこを足掛かりにしてウイルスの遺伝子を注入することで、感染が成立すると考えられている。つまりACE2は新型コロナウイルスの感染において重要な部位である。

 研究グループではまず、タバコの煙成分を人間の培養細胞に加えて24時間培養。すると、タバコの煙成分の量が増えると細胞上のACE2量が減少していた。そこで細胞内のどのようなメカニズムでACE2が減少しているのかを調べることにした。

 調査には、細胞内のRNAの量により、どの遺伝子が活発に働いているかを表すという仕組みを利用した、網羅的遺伝子発現解析を採用。その結果、芳香族炭化水素受容体の活性が上がると、逆にACE 2の量が減少することが明らかになった。芳香族炭化水素受容体は、様々な遺伝子の働きを促進したり抑制したりする受容体であることが知られている。

 タバコの煙成分以外の物質でも、芳香族炭化水素受容体を活性化した場合を検討。アミノ酸の一種であり食物にも含まれているトリプトファンの代謝物と、胃潰瘍治療薬の1つであるオメプラゾールを用いて、細胞のACE2量に影響を与えるかを調べた。すると、どちらも量が増えるにつれてACE 2の量が減っていることがわかった。

 さらに、ウイルスが増殖しやすいため古くから感染症の研究に使われてきたVero細胞を用い、トリプトファン代謝物やオメプラゾールが新型コロナウイルス感染にどのような影響を与えるかを検討した。Vero細胞をこれらの化合物で処理したところ、ACE2の量が減少し、感染するウイルスの量も減少することが判明。

 これまでも食べ物として摂取しているアミノ酸の代謝物や、長らく医薬品として使用されている薬が新型コロナウイルスの感染を抑える可能性があることが明らかになった。全く新しい薬を開発することと比べ、安全性などがわかっているという点は利点だろう。またウイルス自体を攻撃するのでなく、ウイルスを受け入れる人の細胞側に作用していることで、ウイルスの変異に左右されない薬になりうると言える。だがウイルス自体を減らしたりする作用はないため、単独で治療に用いることは難しいと考えられる。

 現時点では、これらの化合物の効果は細胞レベルまでしかわかっていない。今後は、実際に人や動物の体内で効果があるのかどうかを検討していくことが必要だ。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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