新型コロナ変異株にも効果期待 既存薬から感染抑制する薬剤を発見 京大ら

2021年4月11日 18:12

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既存薬からの抗ウイルス活性を持つ薬剤スクリーニングの手順(画像: 京都大学の発表資料より)

既存薬からの抗ウイルス活性を持つ薬剤スクリーニングの手順(画像: 京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 新型コロナウイルス感染症の治療のために世界中で研究が進められている。京都大学らの研究グループは7日、新型コロナウイルスを含むRNAウイルスに対して、幅広く抗ウイルス効果を示す薬を、既存薬の中から探し出したと発表した。骨粗鬆症の治療薬であるラロキシフェンと、糖尿病の治療薬であるピオグリタゾンが抗ウイルス効果を示したという。

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 今後そのメカニズムや効果を明らかにしていくことで、新型コロナウイルスの変異株に加え、新たなRNAウイルスへの治療薬や治療法の開発に役立つことが期待される。

 今回の研究は、理化学研究所の今村恵子客員研究員(京都大学講師)、長崎大学の櫻井康晃助教授と安田二朗教授、IDファーマの川口実太郎営業推進室長、京都大学の井上治久教授(理化学研究所チームリーダー)らの研究グループによって行われ、7日付けの「FEBS Open Bio」でオンライン公開された。

 新型コロナウイルスやエボラウイルス、インフルエンザウイルスなどは、RNAウイルスという種類に属している。RNAウイルスはこれまでも多くのパンデミックやアウトブレイクの原因となってきた。自分自身の遺伝情報を「RNA」という物質として持っていることが特徴だ。

 一方人間を含め多くの地球上の生物やウイルスは、「DNA」という物質で遺伝情報を持つ。DNAは遺伝子の情報を「原本」と「コピー」2本の鎖として持っている。そのため片方の鎖に損傷が起こっても、もう一方を利用して元に戻すことができる。

 だがRNAウイルスは、1本の鎖でできているため変異が起こりやすい。その結果新たなウイルスが出現したり、薬剤やワクチンの効果がなくなったりと、治療においては厄介な問題となる。

 今回の研究では、新型コロナウイルスだけではなく、RNAウイルスに共通で効果を持つ薬剤を、既存の医薬品からスクリーニングを行った。研究グループはまず、iPS細胞にセンダイウイルスというRNAウイルスを感染させる感染症モデルを用いて、効果のある薬を選出。続いて選び出した薬剤について、エボラウイルスおよび新型コロナウイルスに対する抗ウイルス効果を検討した。

 効果を認めた薬剤のうち、心臓、血管、神経などに影響の少ない薬剤として、ラロキシフェンなどの骨粗鬆症治療薬として用いられている、選択的エストロゲン受容体モジュレーター(SERUM)と、糖尿病の治療薬であるピオグリタゾンが候補として残ったという。

 ラロキシフェンは、エボラウイルスと新型コロナウイルス双方に、ピオグリタゾンは新型コロナウイルスに抗ウイルス活性を示した。またVero E6細胞という培養細胞への新型コロナウイルス感染に対して、ラロキシフェンとピオグリタゾンが相乗的な抑制効果をみせたという。

 さらに、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(感染の取り掛かりとなる重要なタンパク質)を人工的に持たせた、水疱性口内炎ウイルスを作ってこれらの薬剤の効果を確認した。すると、ラロキシフェンとピオグリタゾンはスパイクタンパク質を持つウイルスの感染のみを抑えた。つまり、これらの薬剤はウイルスが細胞に侵入するステップを阻害していることがわかったのだ。

 今後メカニズムや効果を詳しく調べていくことで、新たに出現するRNAウイルスにも効果を持つ薬剤の開発に期待ができるだろう。

 このように既存の医薬品の中から新たな効果を見出す方法は、1から新しい薬を開発するより時間がかからない。また副作用などの情報も蓄積されているため、安全に使用できる。このような利点がある一方で、既存の薬にはこれまでずっとその薬を使用してきた患者がいることを忘れないようにしたい。

 新しい病気に効くことが判明したからといって、急に薬剤を増産できるわけではない。その結果、元々治療に必要だった患者が治療できなくなり、健康を害することがないように十分な注意が必要だ。情報に踊らされることなく、情報を見極める力がこれからさらに重要となるだろう。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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