EV車炎上で考えさせられること

2021年7月27日 08:34

印刷

Photo:当時の一般的なドアロックノブ ©sawahajime

Photo:当時の一般的なドアロックノブ ©sawahajime[写真拡大]

 ロイター通信が、米国で7月2日に発生したEV車炎上事故を報じている。この車は、6月に納車開始したばかりで、ペンシルバニア州の住宅地で納車後僅か3日目の、弁護士が所有する車だった。

【こちらも】EV車に集中投資する判断は正しいか

 所有者によれば、事故の際ドア開閉システムが故障して車に閉じ込められたが、こじ開けて脱出したそうだ。

 ネット上では、「水没した場合には電動はヤバイ」とか、「この車に必要な装備はスプリンクラーだ」とか喧しい。

●自動化・電動化が進み過ぎると

 この話を聞いて思い出したのは1967年(S42年)に登場したセンチュリーの話。

 担当していたディーラーの親しいお客が、最も初期モデルのセンチュリー中古車を手に入れた。何かの用事で、その営業所にやって来て、その後他所に回るからと、サービス工場のシャッターの前に駐めさせてもらい、翌日取りに来る約束だった。

 営業所の始業時間になって、メカニックがこの車を動かそうとしたところ、「バッテリー上がり」で、ドアロックも何もかも全く動かない。

 結局、ガレージジャッキで車体前部を持ち上げて、車の下からバッテリターミナルに工具を細工した延長継ぎ手を使って、外部電源を供給して電磁ドアロックを解除する事ができた。

 当時、一般的な車のドアロックは、ゴルフのティーの様なノブがドア内側にあって、その頭を押し込んだらドアロックが掛かる。ロック解除するには、このノブを引き上げる。(写真参照)

 そこで、キーを閉じ込めた場合には、窓ガラスとウエザーストリップの間から太めの針金を差し込んで、引っ張り上げて解錠した。

 しかし、なにもかもが自動化・電動化されると、万一電源が断たれたら、全く機能しなくなる。当時の最先端技術が災いしたケースだった。

 前述の発火事故でお馴染みの車は、ドアハンドルがボディと同一面に収まっていて、開閉時に顔を出す。

 250~300km/hでも出さない限り、ドアハンドルが空力に影響するとも考えられないし、それ程の速度が出る車でも無いから、単なる素人受けを狙ったギミックでしか無い。

 しかも、役にも立たないギミックが、命に関わりかねない代物なのだ。

●道具は故障しない

 2020年8月24日付「未来のクルマ社会はどうなる 開発途上国」でも触れたが、「機械は故障するが、道具は故障しない」のだ。つまり、「くぎ打ち機は故障しても、金槌は故障しない」。

 釘が詰まったり、うまく送り込めなかったりする事も起こり得る「くぎ打ち機」に対して、金槌なら、せいぜい持ち手の柄と金属の頭部分が外れる程度のトラブルで済む。

 チェーンソーは動かなくなったらお手上げだが、ノコギリなら、切れ味が落ちる程度で、何とか無理やりにでも切る事ができる。

 だから、トヨタの開発途上国向けの四輪駆動車は、大体50年程度昔の技術を、未だに利用している。現代の車の様に、燃料噴射やコンピューター制御よりも、気化器や機械制御なら、特殊な計測器や専用治具が無くても、「街の修理工場」レベルの整備器具でメンテナンスが出来る様にと、使用する環境に配慮しているのだ。

 砂漠で活動する軍用車や、それに対抗する反政府勢力が使う車は、故障して立ち往生したら生命に関わるから、多少燃費が悪くても、ハンドルが重くても、「機械よりも道具」とばかりに、トラブルの少ない物を選ぶ。

 テロリストが車に飛び乗って、襲撃現場から離脱するのに、ドアハンドルが出て来なくて、ドアを開けられず、取り残されて射殺されたくは無いはずだ。(記事:沢ハジメ・記事一覧を見る

関連記事