トヨタ・賃金「定昇ゼロ」の可能性も 「くすぐったいほど理想論」、「御用組合」か?

2020年10月22日 07:37

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■トヨタ・Woven City目指しモビリティ・カンパニーに

 2020年2月12日時点での労使協議会の会社側進行役を務める河合満副社長のコメントとして、「やめよう・かえよう・はじめよう運動」の推進により、「モビリティ・カンパニーへのモデルチェンジ」に全力で当たる決意が見えている。トヨタには、全体として「企業側の強いリーダーシップ」が感じられる。しかし、それに労働側が異論なく同意した姿しか見られないが、「QC活動」の参加率が落ちていた現実を踏まえると、トヨタでは「労使協調路線」が確立しており、労働組合側の主張が十分に反映できているのかが心配される。

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 賃金体系だけでなく「格差是正」の方向性が見られるのか?逆に、「能力給」により「格差が広がる」方向なのか?労使間の協議であれども、「社会正義」に照らして正しい方向性が見られるのか?

朝日新聞『トヨタの賃金モデルチェンジ 「定昇ゼロ」の衝撃と真意』の記事によると、❝トヨタの労使はともに「頑張った人がより報われるようになる」との認識を示す。❞として、昇給制度の改革を進めたようだ。

トヨタイム『トヨタ春交渉2020 要求申し入れ「家族の話し合い」を目指して』によれば、西野勝義執行委員長のコメントとして、
❝1.「全ての人の力」を最大限に引き出していく。
 2.競争力強化に向けた課題について労使で徹底的な議論を尽し、解決に結び付けていく。
 3.社会全体での労働条件の底上げに向けた、労働組合としての役割を果たす。❞
とあり、組合側も全面協力しているようだ。

 これを見ると、組合運動や組合対策の裏も表も知る筆者としては「くすぐったいほど理想論」との感想が出る。また、この労使意見の集約には、並々ならぬ永年の努力の積み重ねと、労使の現状認識に対する議論の深度を感じるところでもある。

 グローバル企業としてトヨタが生き残っていかなければ労使ともども意味はないとして、断念している理想はあるだろう。そこが「現代資本主義の限界」と見ることもできる。なぜなら「能力給」に移行することは、必ず「格差がつく」ことである。その基準は「企業業績に資する能力」であり、「人間社会の社会正義」と必ずしもなっていないからだ。一方、「弱者救済」の視点が「社会正義」にはある。そして「年功序列」、「定額ベースアップ」のシステムには「社会保障」の意味合いが強くあるのだ。

 「御用組合」という言葉がある。企業の意思に従って労働組合員の意思を統一していく組合のことだ。だがこれは、賃金交渉の折など、組合員に不利な状況となることが目的と言って良い。組合幹部は裏で企業側と何らかの取引があり、組合幹部にメリットが与えられているのが当然なのだ。

 しかし、トヨタがこうした裏交渉をせずに、発表されている労使議論で意思を共有しているとすれば、大したものだ。この前提に「トヨタの高い業績」があり、昨年の秋の「満額回答」を可能とした「労働側からの要求の妥当性」が見られるなど、順調な信頼関係が見られる。しかし、トヨタは配当を続けているのであり、「配当額が妥当であるのか?」、「もっと給与に回すべきではないのか?」なども、労使協議の話題となり議論されてきているのだろうか?

 トヨタイムでの西野勝義執行委員長のコメントに❝3.社会全体での労働条件の底上げに向けた、労働組合としての役割を果たす。❞とあるように、「グローバル新資本主義」の矛盾を抱えたまま進むことがないように、「社会正義」を踏まえた結論が実行されていくことを望む。このことは、大変難しい「人類全てに対する課題」であり、目の前の解決すべき課題でもある。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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