それでも消えない消費増税延期の理由

2019年6月23日 07:30

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 知人の政治ジャーナリストから「21日の臨時閣議で改めて明示されたが、与党内にも依然、消費税増税の見送り論がくすぶっている」と聞いた。政府(内閣府)は5月24日の月例経済報告で「緩やかに回復」の景気基調判断を維持した。これを受け政界では「10月の消費増税は今度こそ実施される」とする見方が支配的になったはず。

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 また身近な例で言えば、私が通う理髪店では「消費増税に伴い・・・」との理由で「9月より値上げを」という張り紙が出された。スーパーやコンビニ等でも着々「増税」を前提にした準備がされていると伝えられる。が、件の知人は「見送り論のくすぶり」を指摘し「28日・29日のG20サミットが最終決断時になろう」との持論を強調した。

 考えるに値する論だと思う。一口で言えば政府はこの間「(今回こそ)リーマン級の事態が起こらない限り実施する」と言い続けてきたが、「?」を覚える事態も実は多々見受けられるからである。

 例えば月例経済報告の前の週(5月13日)に発表された、3月分の「景気動向指数(速報値)基調判断」。景気動向を反映する9つの指標を機械的に(客観的に)組み入れて算出されるが実に6年2カ月ぶりに、景気後退の可能性を示す「悪化」となった(27日の改定値も同様)。

 政府は「米中貿易摩擦に伴う製造業の低迷を反映したもので、非製造業は元気」と釈明した。だが貿易摩擦が今後の世界経済(景気)に与える影響は、重い。OECD(経済協力開発機構)は5月21日、その影響を勘案し「世界全体のGDPは2019年度:3.2%、20年度:3.4%成長」と下方修正。日本に関しても「0.7%、0.6%」と3月時点の予想からそれぞれ0.1ポイント引き下げた。

 5月30日に、日銀の桜井真審議委員は講演で「10月時点で海外経済が減速している場合、わが国経済を下押しする影響が大きくなる」としている。先々を見据えた時、消費税増税の影響は「大」と言わざるをえない。

 そして、文字通り「リーマン級」の不安事由も発現している。

 例えば民間の調査機関の帝国データバンクでは、2018年度の飲食業の倒産・休廃業・解散を「前年度比7.1%増の1180件」と発表。「2000年度以降最多。東日本大震災時(11年度)の1134件、リーマンショック時(08年度)の1113件を上回る」と発信した。そして「消費増税や東京都の受動喫煙条例などから、今後も厳しい情勢が続くことが予想される」(6月11日、財経新聞)ともした。

 そうした中、私が最も関心を抱いたのはリーマンショックの発生地である米国でのこんな動向だ。リーマンショックは一口で言えば、いわゆる低所得層向けサブプライムローンの証券化商品の広範な販売が引き起こした金融ショック。いま米国では2000年のITバブル期やリーマンショック時を上回る企業金融の過熱化が指摘されている。

 そして着目すべきは、信用力の低い企業を対象としたレバレッジドローンの急増である。このローンを担保とした証券化商品:CLOが8000億ドル水準に達している。先の知人は「リーマンショック時と同様な金融危機状況が培養されている」とした。

 また6月19日付けの朝日新聞電子版は、IMF元チーフエコノミストの単独取材記事を配信している。詳細は省くが、見出しは「消費増税は無期限延期を 元IMF幹部が異例の反対論」とつけられている。

 消費増税見送り論にも、耳を傾けざるをえない背景がある。(記事:千葉明・記事一覧を見る

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