人工知能は感情を理解できるか? 人とAIを結ぶ共感力の研究

2019年6月23日 17:25

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 人工知能(AI)は数値とアルゴリズムで構成されたソフトウェアだ。人工「知能」という名前は、その合理性の部分に着目した呼び方で、その実態はコンピューターという機械である、と考えらている。

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 機械は不合理な部分を持たないことが、機械が人間の領域に入ってくることに拒絶感を生み出す要素になる。ソーシャルネットで伝えられる情報に「いいね」の機能がついていることからも、人間にとって他人と「関係を作る」ということが、気持ちを伝えることであることがわかる。人にとっては、コミュニケーションとは物理的な情報の交換ではなく、感情のやり取りなのである。

 今後、AIが人間とやり取りをする場面が拡大するにつれて、人間の持つ感情をAIに理解させることが出来るのかが1つの問題となる。これは、AIというものがどのくらい人の生活の中に実際に入ることが出来るのかという、ボーダーを作る条件でもある。

 今回、マイクロソフトとロンドン大学心理学部により、人工知能と人の関係のあり方、および「人工感情」の設計についての共同研究がなされた。同研究の報告を中心にして、「共感力」をキーワードに人工知能と感情の問題について見てみよう。

■AIと信頼関係を築くことは出来るのか

 アメリカでCRM開発を手がけるぺガシステム(Pegasystems)の調査によると、70%の顧客は、カスタマーサービスの窓口にはAIよりも人間がよいと考えている。仕事に関してAIとやり取りをして進めることが快適と感じる人は30%にとどまり、非常に快適と感じる人はわずか9%しかいない。69%がAIに対してよりも人間に対しての方が本当のことが言える、と答えた。

 投資の相談ではAIよりも人間の判断を尊重する顧客が多く、特に生死にかかわる問題については86%が人間の判断を信用する。AIに善悪の区別がつくと考えるのは12%で、56%の人はAIと信頼関係を築くことは出来ないと答えている。

 人が人と信頼関係を築くには、相手に共感することが必要になる。感情的につながることで相手と協調し、協力し合うことが出来る。文化的な垣根を越えたり、社会的な関係を構築するにもすべて、この信頼関係がベースになっている。アリストテレスが言うように、人は社会的な存在なのだ。

 AIが人間の気持ちや感覚を感じ取り、行動を予測することが出来れば、より自然なやり取りをして適当な判断をすることが出来るだろう。人工知能の研究者達は、声に含まれている抑揚や話の順序から、話し手の感情を読み取る研究をしている。また画像処理と機械学習の組み合わせにより、人の表情を読むソフトウェアも開発が進められている。

 だが、感情の表現は一筋縄でいく問題ではない。人は悲しいときにも笑い、幸せなときにも涙を流す。声の調子、身振りや姿勢、顔の表情など、どのようなときにどのような表現をとるかには定まった形式的な手順は存在しないように見える。この課題を突破するため、研究チームは人間の感情について研究する「共感学」という学問の構築を提案している。

■共感とは何か

 共感とは、他人の感情を理解する能力だ。相手の心の状態や信念、希望などを理解し、「相手の気持ちになる」ことだ。相手の気持ちを汲んだ上で会話を交わす「心遣いのある」やり取りは、人間関係を円滑にするものとして洋の東西を問わず大切にされている。

 共感は単に相手の立場を理解することではなく、相手の立場になってその痛みを理解することで達成される。サイコパス(反社会性パーソナリティ障害者)はこの能力を欠くとされる。

 だが実は、この「共感(empathy)」という言葉は20世紀になってから使われるようになった言葉だ。それまでこの単語が存在しなかったということは、人間にとってもこの観念は知得することが難しいものであったことを示している。共感はときに判断を誤らせることから、その働きを重要視しない者もいる。

 一方で、共感する力は企業や組織における倫理的なリーダーシップやマネジメント能力を予言するものであることが知られている。共感はEQ(感情知能指数)に大きな影響を与える能力で、組織活動の上でも重要な役割を果たす。NIKEやIBM、Harley & Davidsonなどマーケティング能力の高い企業の中には、データよりも顧客との共感を重視する企業が見られる。

 特徴的な2人の人物の言葉に、その差を読み取ることが出来る。

 「現在の世界、私達の社会に最も足りないのは共感する力だ」(バラク・オバマ)
 「君達もみんな知っているように、私は最もIQ の高い人間の1人だ。自分達が愚かだと心細く感じる必要はない、それはあなた達のせいではないのだ。」(ドナルド・トランプ)

■人間社会にとって重要な共感力

 人工知能の研究や開発に携わる人は、科学的な思考法に秀でているものが多い。客観的なデータを重視し、定量化されたデータを信頼して分析、比較する。これに対して創造的なアイデアは、主観的で非定量的なプロセスだ。属人的で、個人の経験や思い込みに左右されやすい。

 共感力の高い人は、単に他人の立場に立つのではなく、一旦自分の個性や知識、思い込みを捨てて、白紙の状態で違う立場に立つことが出来る。自分を一度空っぽの状態にして初めて、相手の視点を持つことが出来るのだ。この「感情知性」のプロセスを繰り返すことで、人に対する高い洞察力を得ることが出来る。

 文化的、人種的な多様性を受け入れることや、異なる価値観の意見を咀嚼することはこのような共感力が生み出す機能と考えられる。高度なレベルで問題を理解することは、課題の解決に異なる視点からの光を当てることにつながる。健全な社会を作る能力は、人間の持つ重要な特徴だということだ。共感力は高度な問題解決能力なのだ。

 共感学は人の持つ高度な能力を解明できるだろうか。「人工感情」を与えられたAIが、人間と一緒に日常生活をするとき、彼らから「感情」を教えてもらうようなことのないようにしたい。(記事:詠一郎・記事一覧を見る

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