【投資の真髄:トヨタ生産方式(1)】多種少量生産による数千倍の資金効率

2017年8月22日 06:56

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トヨタの元町工場(写真: トヨタ自動車の発表資料より)

トヨタの元町工場(写真: トヨタ自動車の発表資料より)[写真拡大]

 現在、我々が何気なく手にしている家庭にある製造品、つまり家電や車など工業製品の多くが、トヨタ生産方式で格安に造られている。それは日本人の半世紀以上に渡る努力の結晶であり、世界的発明でもある。日本経済が現在あるのは「トヨタ生産方式」のおかげと言えるのだ。しかし、その事実を理解している経済学者など専門家も少数である。

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 なぜ経済学者がこのメカニズムに気付かないのかと言えば、経済学は統計数字を元にしているためだ。統計数字は結果しか見れない。その結果が出るのは、資金量が多かったのか少なかったのかは、後になって表れてくる。それまでは経緯を知ることで内容が分る。しっかりとしたメカニズムとして確立するには、経緯を積み上げることが必要なのだ。

 1年ほど前、アメリカ・フォード社のCEOは、「大型車にシフトして利益を上げる」考え方を取っていると公言していた。それは小型車に比べて1台当たりの利益率が高いからだ。アメリカの車市場は、景気が良い時には大型車が売れる。そこで自動車メーカーは小型車の開発を控えめにして、大型車で稼ごうとする。それは経営者は株主に配当を求められており、自分の任期で配当率を上げねば、次がなくなってしまうからだ。そのため中・長期的には小型車を開発する技術を持たなければならないことが分っていても、その余裕を持てないのだ。

 短期間、企業業績が向上したとしても、情勢が変わると利益率を急速に下げたり、売り上げを落としたりとなってしまう。その原因は、小型車の作り方が分らないことで、これまで日本車に対して苦戦してきたのがフォードだった。結果よりも経緯を大切にすべき事例でもある。

 アメリカの自動車産業はかつての勢いはない。現在のトランプ政権を作り出したのも「ラストベルト」の元自動車会社に勤めていた人々でもある。GDPに占める自動車産業の比率は、アメリカ2.7%となり、日本5.4%、ドイツ5.5%などと比較すると、圧倒的に少なくなった。もちろん金融の利ザヤでは、アメリカは圧倒的に世界から稼ぎまくっているのであり、物品の貿易赤字で騒ぐ必要もないことだ。

■数千倍の資金効率をもたらす作業方法

 トヨタ生産方式を取ると「数千倍の資金効率になる」と言っても、理解できる人々はごく少数だ。工場でトヨタ生産方式を実践している人々でも「何のことだか理解できない」のが普通になっている。しかし、そのメカニズムは極めて明快で分りやすい。統計数字には直接的に現れることがなく、目に見えなくなるので比較が出来ないため、理解が進まないのだ。

 40年ほど前、私の工場で「まだトヨタ生産方式」を知らない時であったが、コストダウンを考える中で、作り方の見直しを指示した。きっかけはコンピュータ制御工作機械の導入のときだった。

 「人件費がコスト」との見方を取ることで「無駄な費用」が浮かび出ることに気付いたからだった。それを気付かせてくれたのは、皮肉にも「三菱自動車のハブ・ドラム」を生産する工場だった。後にその工場が、事件を起こした問題の大型トラックのハブ・ドラムを生産する工場になった。設計の問題で生産工場に非はないのだが、気分の良いものではない。でも当時、若造の私に対して、その工場の経営者は親切だった。私の会社にとっては感謝してもしきれない恩人である。

 コンピュータ制御の旋盤を導入し始めた私の会社に対して、その工場は「必要がない」と言っていたのだった。その工場は自動車業界、私は建設・産業輸送機業界、2ケタも生産数量が違うのに、高価なコンピュータ制御の機械は無駄な投資であるとアドバイをもらった。その三菱自動車の下請け企業の経営者は「当社では、大正時代の機械も使っていますよ」と言って笑った。

 後に、その意味を私は痛いほど理解することになった。簡単に言えば、一人の作業員が行う作業を、工程を繋いで増やすことだ。「工程結合」と後に私が呼んだ作業方法を取ると、数千倍の資金効率となることだった。いまでは「屋台」とよばれる作業方法だ。

【投資の真髄:トヨタ生産方式(2)】グローバル(ロット)発注は無駄の源! につづく(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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