映画『クララとお日さま』ロンドン映画祭で厳しい初評 原作のAIと「人らしさ」を読み解く

(Bfi.org.uk)[写真拡大]
タイカ・ワイティティ監督の映画『クララとお日さま』が、2026年10月15日にBFIロンドン映画祭で初上映された。カズオ・イシグロの小説をジェナ・オルテガ主演で映画化した作品で、英国と米国では10月23日に劇場公開される。初期の批評には、原作の静かな観察を映画のユーモアや感傷が覆っているという厳しい評価が並んだ。
■ロンドンでの初評が問うもの
初上映後、批評集計サイトMetacriticのスコアは、批評家6人の評価を基に100点満点中23点で始まった。これは批評家による映画の評価を集計した値であり、観客の反応を示す数字ではない。BFIの予定では、映画祭での上映は10月16日と17日にも組まれている。
The Guardianのピーター・ブラッドショーは、映画のユーモアと感傷の組み合わせを批判した。The Telegraphのティム・ロビーも、笑いを前面に出した前半と、その後の感情に訴える展開に厳しい評価を下している。The Timesのケヴィン・メイハーは感傷的な語り口を問題視した。
The Independentのクラリス・ラフリーは、原作の基本設定は映画にも残る一方、クララの観察力を通して人間を見る視点が弱まったと評した。Little White Liesのデイヴィッド・ジェンキンスは、重要な場面を笑いで中断する演出や、人物の動機の描き方を批判している。批評家の評価は主に脚本、演技、演出に向けられたものだ。
映画でクララを演じるオルテガのほか、病弱な少女ジョジー役にミア・タリア、母親役にエイミー・アダムス、カパルディ役にスティーヴ・ブシェミが出演する。脚本はワイティティとダーヴィ・ウォーラーが手がけた。BFIは上映時間を116分と案内している。
■クララの視点と太陽の役割
早川書房が「人工親友」と訳すAFは、子どもの成長を助けるAI搭載のロボットだ。クララはジョジーの家で暮らし、人の表情や振る舞いを細かく観察する。原作はその視点を通じて、知性、愛情、家族の関係を描いている。
小説では、クララの視界が長方形の区画に分かれて見える場面がある。画像を小さな領域に分けて処理するという点は、2020年に発表された画像認識手法「Vision Transformer」を連想させる。Vision Transformerは画像のパッチ間の関係を計算する技術で、クララ独自の見え方を考える補助線になる。
クララは太陽光からエネルギーを得る存在として描かれ、太陽をジョジーの回復への希望とも結び付ける。太陽電池の研究では、受光面積や変換効率が得られる電力を左右する。光に支えられる身体という設定は、クララの切実な願いを物語の中で際立たせる。
この二つの描写は、クララが人間の世界をどう受け止めるかを読者に伝える。映画でも店先から太陽を見るクララの姿が描かれる。光の映像表現と、彼女がそこに見いだす意味を重ねて見ることができる。
■「向上処置」とジョジーの代わり
原作のジョジーは能力を高める「向上処置」を受け、隣人のリックは受けていない。ジョジーの病と二人を取り巻く社会的な差は、技術を利用できる人とできない人の関係に目を向けさせる。映画でも、この処置とジョジーの体調は物語の設定として扱われる。
現実のゲノム編集研究を重ねると、能力に関わる形質の複雑さが見えてくる。認知能力や身長のような形質には多くの遺伝的要因と環境が関わり、単一の編集から結果を予測するのは難しい。作品の処置は、技術の選択が健康や社会的な機会に及ぼす影響を考える手掛かりになる。
生殖に関わるゲノム編集の議論では、2018年に中国の賀建奎が行った実験が大きな問題となった。中国の裁判所によると、CCR5遺伝子を編集した胚から3人の子どもが生まれ、賀は2019年に懲役3年の判決を受けた。ジョジーたちの物語と現実の研究は、技術を選ぶ側と影響を受ける子どもとの関係を考えさせる。
原作では、カパルディがジョジーに似せた人工の身体を作り、ジョジーが亡くなった場合にはクララがその姿で生き続ける計画が明らかになる。クララはジョジーを観察し、話し方や振る舞いを学んできた。そこで浮かぶのは、似た姿と行動を備えた存在を家族がどう受け止めるかという問いだ。
■ハエ脳モデルが示す共通の発想
神経回路を計算モデルにする研究にも、入力された情報が行動へ変わる過程を調べるという共通の発想がある。2024年の査読論文では、成虫のショウジョウバエの脳にある12万5000個超の神経細胞と約5000万のシナプス結合を基にモデルを構築した。研究チームが実験で確かめられた164件の予測のうち、91%が結果と一致した。
Eon Systemsは2026年3月、この系統の脳モデルを仮想のハエの身体につなぎ、感覚入力、神経活動、運動、次の感覚入力へと続く動作を公開した。同社の説明では、仮想身体にはNeuroMechFlyの技術を使い、歩行などには既存の制御モデルも組み合わせている。神経回路の情報を身体の動きにつなぐ試みとして、研究は進んでいる。
クララがジョジーを観察して振る舞いを学ぶ場面には、情報を取り込み、解釈し、行動に移すという構造を重ねられる。一方、カパルディの計画が問うのは、家族にとってジョジーらしさがどこに宿るのかということだ。哲学者デイヴィッド・チャーマーズが論じた主観的経験の問題も、この場面を読む手掛かりになる。
■人工親友と人間の関係
人が対話システムに親しみを感じることは、AI研究の初期から知られている。ジョゼフ・ワイゼンバウムが1960年代に開発した対話プログラム「ELIZA」は、入力文のパターンに応じて返答した。利用者がその応答に理解者の姿を見いだした経験は、人工親友を受け入れる人々を考える背景になる。
現在はAIとの継続的な対話を提供するサービスもある。ニューヨーク州司法長官は2026年10月、Character.AIをめぐる訴訟で、未成年の利用者とチャットボットの関係が問題とされていることに言及した。同州では2025年から、AIコンパニオンの運営者に自傷に関する発言への対応などを求める安全規定が施行されている。
クララとジョジーの関係には、機械への感情移入だけでなく、相手をよく見て応えようとする姿も描かれる。映画の初評が注目した語り口と、原作が積み重ねた観察や家族の問いを分けてたどると、この物語の異なる魅力が見えてくる。
元記事: Klara and the Sun Scores Metacritic 23 at BFI; First Fly Brain Emulation Vindicates Ishiguro
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク
