日本企業のガバナンスの実態 「議論」が出来ることが「自立した社会人」である証

2020年11月29日 16:50

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 日経XTECH 「木村岳史の極言暴論!日本企業は「勝手にやっている現場の集合体」、だからDXは絶望的にうまくいかない」の記事は、筆者自身が言っているように誠に❝極言暴論❞だ。しかし、極論として読むと面白い。

 この記事に対する「批評」は大切なことだ。批評がなければ価値もない。また批評を期待しての企画であるはずだ。こうした姿勢の記事であることが価値を生んでいる。「議論」が出来ず、「悪口を裏アカウントで言い放つ」時代だ。正面からの議論の大切さを呼び起こす意味で尊重したい記事だ。

 ❝部署単位の「ムラ社会」を作ろうとする、日本人の「小さくまとまろうとする」メンタリティーの話である。❞と記されているが、これには同感せざるを得ない。しかし、それが❝もはや日本企業と言うか、日本人の文化的、性格的な欠陥かもしれないな。これを是正できなければ、日本は世界で進むデジタル革命の波に乗り遅れ、あと10年、20年もたてば本当に後進国に転落してしまうかもしれない。❞に対する原因であるとすることには反対だ。

 ‟極論“すれば、この記事は「欧米かぶれ」と言わざるを得ない。欧米の企業の日常では「トップダウン」を基本としてきた。その感覚からしてみれば、日本の「ボトムアップ」は「受け入れがたい」と感じるのが基となっている。「労働者はバカなもの」とする基本概念が存在しており、経営陣には「特別なエリート」「人種が違う」といった偏見にも近い気持ちが隠れている。

 これは、アメリカ社会に今でも残る根強い「偏見、人種差別」の感覚だ。「金持ち」=「エリート」とする認識を疑っていないのだ。それは同時に、「誰でもが金持ちになれるチャンスがある」と「アメリカンドリーム」をいまだに信じる根拠ともなっている。だが、アメリカ企業の経営者が、短期的利益を求めて幾度となく失敗をしている。それは単純で、「頭がついているのだから考えれば分かるだろう!」と言いたくなるほど「稚拙」だ。

 この記事では、「トヨタのカイゼン」を「現場が勝手にやっているガバナンスを乱すもの」といった解釈をしている。これは、「組織」を率いる時「従業員も1人の人間である」ことを認識できない証拠である。「他人を支配することは出来ない」、「人間は自発的に動いてこそ力を発揮する」としたことを体感していないものと推察できる。

 もともとQC活動はアメリカから始まっている。それが日本で成果が上がったのは「ボトムアップ」を基本として意識改革をしたからだ。自動車産業を見てみれば、品質管理が企業業績の基礎となることを示したのはアメリカだ。日本企業、特に「トヨタ方式」が成果を上げることに成功したのは、アメリカからの教えとして「ボトムアップ」を説いたことによる。つまり、「ボトムアップ」はアメリカ人が発案、言い出したことなのだ。

 「PCR検査の結果をFAXで集計している」とデジタル化に後れを取っている姿をさらしているのが現在の日本の行政システムだ。これなど現場の意見を吸い上げるシステムになっていれば、「楽をしたい」人間の気持ちが働いて、デジタル化は「当然に行われていた」はずだろう。このような作業全体の「合理化」の遅れで保健所は現在苦しんでいる。IoTの遅れは、現場からのカイゼンが働いていない結果なのだ。

 つまり現場の怠慢であり、そうさせているのは管理者(国家行政組織)なのだ。

 どれほどマニュアルを整備し、組織的に教育しても、良くしようという「気持ち」が各人にないと成果は出ない。日本企業の品質不祥事が連発した時、「スバル」の国交省に対する報告書を当時、全文読んでみた。

 参考: スバル国交省への報告書(1) 法的立場の言い訳 根底は「品質低下は気にしない」?
 
 すると、品質体質の改善に対応できるとする内容がほとんどなかった。品質管理の本質をスバルも表現していないのだ。だから、対策としては「マニュアルの整備」「設備の整備」「教育の徹底」であると、お決まりのように宣言している。ほとんど本質を捉えた報告書になってはいない。

 そのため現場では、「報告者である弁護士の理解ではなく」、スバルの技術者が対策したものと強く推察できる。こうした「実行する主体」の本質を理解できていないと、日経XTECH 『木村岳史の極言暴論!』は本当の暴論でしかなくなる。

 管理者として仕事を進めていく時、経営陣は「社員の心のありよう」をセットアップすることから始めなければならないことは大変辛いものだ。そのパワーが必要であり、このような暴論を記しているのなら、「そのパワーを前進させるために使え」と言っておこう。

 ただし、こうした記事の「誤解を恐れず掲載することの意味」を否定するものではない。

 『もう少し社会の現実、技術を勉強してからにしてもらいたい』。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

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