【日本大学】中性子星の強力な磁気バリアに沿って回転する物質を観測~全天 X 線監視装置 MAXI と X 線分光撮像衛星 XRISM の連携観測が生んだ成果~
配信日時: 2026-10-26 14:20:18



【研究成果のポイント】
•理化学研究所が中心となって開発した全天 X 線監視装置 MAXI と、JAXA などの日本の研究機関が主導し、米欧と協力して開発した X 線分光撮像衛星 XRISM を組み合わせて、強力な磁場を持つ中性子星を含む X 線連星を詳細に観測・分析
•MAXI による長期間のモニタ観測を基に XRISM の緊急観測を実施し、かつてない精度で X 線のエネルギーを測定できる XRISM 搭載の Resolve により、鉄原子からの輝線の形を詳細に分解することに成功
•観測で得られた鉄輝線の一部が、中性子星の強い磁場が支配する磁気圏の外縁を周回する物質から鉄輝線が放射された場合に予測される幅と一致
•今回の XRISM/Resolve による精密 X 線分光観測は、中性子星が作る強磁場環境を調査する新たな手法となるとともに、強磁場下の物質動態の知見につながる
【概要】
愛媛大学の高木利紘研究員、志達めぐみ准教授、日本大学の中島基樹専任講師、金沢大学の杉﨑睦博士研究員、理化学研究所の三原建弘上級研究員からなる研究グループは、ケンタウルス座の方向にある強力な磁場を持つ中性子星 (注1) を含む X 線連星 1A 1118-61 の研究結果を発表しました。この研究は、我が国の理化学研究所が中心となって開発した国際宇宙ステーション搭載の全天 X 線監視装置 MAXI (注2) と、JAXA などの日本の研究機関が主導し、米欧と協力して開発した X 線分光撮像衛星 XRISM (注3) を組み合わせた観測を基に行われました。
この天体は、宇宙で最も強い磁場を持つ天体の一種である中性子星と太陽の様な普通の恒星の連星系で、約 17 年ごとにX 線での突発的な増光を示します。MAXI はこの増光の始まりを捉えました。その結果を基に XRISM の観測が計画され、X 線光度がピークに達してから約 10 日後に観測することに成功しました。XRISM の高い性能により、鉄原子からの輝線 (注4) の形を詳細に分解できたことで、輝線の一部は中性子星の強い磁場が支配する磁気圏の外縁を周回する物質から放射されている可能性があることを明確に示しました。この成果は、中性子星に物質が降り積もる現象を理解するのに重要な強い磁場と周りの物質がお互いに影響を及ぼす場所の情報を取り出すための新たな手法の確立や、強磁場環境における物質の動態の理解につながることが期待されます。
【詳細】
<背景>
宇宙には、地球上では再現できないほどに強い磁場を持つ中性子星という天体が存在することが知られています。その磁場強度は非常に強く、宇宙でもトップクラスです。この強力な磁場を持つ中性子星を含む X 線連星 (図1) の一部では、お互いの周囲を回り合う周期ごとに X 線での増光現象を示す場合があります。この増光現象は、相手の星の物質が中性子星に降り積もることで起こると考えられ、降り積もる際には、中性子星の周りに降着円盤と呼ばれる円盤が形成される場合があるとされています。また、中性子星の強い磁場により降着円盤の物質が押し留められ、それ以降は中性子星の磁場に沿って降り積もるようになります (図2)。この時、物質から強い X 線が放射されます。
中性子星に物質が降り積もる際に、その物質がどのように分布し、運動するかの研究が理論と観測の両面から進められてきました。観測されるデータを理論モデルが良く説明できる場合がある一方、これまでの理論モデルでは再現できないような観測データもあります。特に中性子星の場合は、その強い磁場と降り積もる物質がお互いに影響を及ぼす為、中性子星に物質が降り積もる現象を正しく理解するには、そこで生じる物理現象を解き明かす必要があります。
高密度の天体の周囲に物質が降り積もる現象は中性子星に限らず、ブラックホールなどでも起こり、宇宙においては一般的な現象の一つとなっています。また、中性子星の磁場は地球上では再現できないほど強いため、その磁場と物質がお互いに影響を及ぼし合う際に生じる物理現象を調べるための自然の実験場の側面も持ちます。この為、中性子星に物質が降り積もる現象を解明することは、宇宙で発生する物理現象を明らかにするだけでなく、我々の周りにある物質が非常に強い磁場などの極限状態でどのように振る舞うかを理解するための手掛かりになることが期待されます。
<MAXI と XRISM による観測とその成果>
我々は、中性子星を含む X 線連星 1A 1118-61 が約 17 年ぶりに X 線で増光を示したとの報告を受けて MAXI の観測データを詳しく調べたところ、2026 年 1 月 12 日から MAXI で検出されていることを発見しました。その後、MAXI で X 線強度のモニタを行っていたところ、この天体の X 線強度が観測史上最大になる可能性があることを予見しました。そこで、この天体を詳細に観測すべく、XRISM による緊急観測の提案を XRISM の科学運用チームに対して行いました。この天体を観測する科学的価値が高いことが認められ、XRISM による観測が 2026 年 2 月 7 日に実施されました。
今回のように、突発的に増光を示す天体の増光現象がいつ起こるかを正確に予測することは困難な場合が多い一方で、XRISM などの詳細観測を実施する衛星は観測スケジュールが約 2 週間前までには決定されていることが一般的です。この為、MAXI などのモニタ観測を行っている観測装置によって得られる X 線強度の長期変化のデータが重要となります。この観測データを基に、我々は無理のない衛星運用の範囲で実施できる XRISM を用いた緊急観測提案を行い、X 線強度が最大値の半分程度の比較的明るい時期に観測することに成功しました。
XRISM に搭載された精密 X 線分光装置 Resolve で得られた観測データを詳しく分析したところ、鉄原子からの輝線の形を詳細に分解 (図3) することに成功し、輝線が幅の異なる 2 つの成分で構成されていることがわかりました。幅の狭い成分は、相手の星表面やその周りの物質から放射されていると考えられます。幅の広い成分は、中性子星の強い磁場が支配する磁気圏の外縁を周回する物質から輝線が放射 (図2) された場合に予測される幅と一致しました。この結果から、中性子星の磁場と降り積もる物質がお互いに影響を及ぼし合う場所付近から鉄輝線が放射されている可能性があることを明確に示しました。
MAXI による連続モニタにより、XRISM の観測を比較的 X 線強度が強い時期に実施でき、また、XRISM 搭載の Resolve による精密 X 線分光観測から、鉄原子からの輝線が幅の異なる 2 つの成分で構成されていることを突き止めることができました。この情報は、ブラックホールや中性子星に物質が降り積もる現象や、強磁場などの極限状態における物質の振る舞いを理解するための重要な手掛かりになることが期待されます。
<今後の展望>
今回の観測により、鉄原子からの輝線の一部は中性子星の強磁場と降り積もる物質がお互いに影響を及ぼし合う場所付近から放射されている可能性があることを明確に示しました。この結果は、増光中のある X 線強度における輝線の形状を詳細に捉えることで生まれた重要な第一歩といえます。次の目標は、異なる X 線強度の時期を複数回観測することで輝線の形の変化を分析し、本当に輝線の一部が中性子星の磁気圏の外縁を周回する物質から放射されているかどうかを明らかにすることです。広く浅く見続ける MAXI と狭い領域 (一つの天体) だけを詳しく見る XRISM がタッグを組んだことによって、突発的に明るくなる天体をタイミング良く観測することに成功しました。今後も MAXI-XRISM の協力による、突発的な現象を起こす天体の観測を進めたいと考えています。
図1. 中性子星を含む X 線連星の想像図。相手の星の周りに存在する物質が降着円盤を形成しながら中性子星に降り積もる様子を表している。(クレジット: JAXA、一部改変)
図2. 中性子星近傍における降り積もる物質の分布の想像図と鉄原子からの輝線の放射源。
図3. XRISM 搭載の Resolve で得られた鉄原子からの輝線 (黒色の線) と幅の異なる 2つの成分のモデル (緑色の破線)。赤色の実線は、2つの成分を足し合わせたものを表している。
<研究チーム>
高木利紘、志達めぐみ (愛媛大学)
中島基樹 (日本大学)
杉﨑睦 (金沢大学)
三原建弘 (理化学研究所) ほか
<用語解説>
注1: 中性子星
主に中性子でできた天体。非常に高い密度 (スプーン一杯で約 10 億トン) と磁場強度 (地上で再現できる磁場の約 10 から 1000 万倍強い) を持っている。
注2: 全天 X 線監視装置 MAXI
理化学研究所が中心となって開発した X 線観測装置。国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」に搭載されている。国際宇宙ステーションが地球の周りを回ることを利用して全天を観測している。
注3: X 線分光撮像衛星 XRISM
日本 (JAXAなどの研究機関) が中心となり、アメリカ、ヨーロッパの協力を得て開発した X 線天文衛星。2023 年 9 月に種子島宇宙センターから打ち上げられた。X 線のエネルギーを精密に測定できる Resolve と観測する視野が非常に大きい Xtend の 2 つの観測装置が搭載されている。この様な衛星で天体を観測するためには、国際的な観測公募で観測提案が採択される必要がある。この際には、観測の科学的意義などが客観的に審査される必要がある。
注4: 輝線
X 線が原子の周りにある電子にあたると、より高いエネルギーを持つ状態になる。その電子が低いエネルギー状態に戻る際に電磁波を放射し輝線として観測される。この輝線の特徴 (波長や強さ、幅の広がりなど) を分析することによって、どのような種類の原子が存在し、どのような状態にあるかを推測することができる。
<論文情報>
掲載誌: The Astrophysical Journal Letters (IOP Publishing, 英国物理学出版)
題名: XRISM/Resolve Reveals the Profiles of Neutral Iron Emission Lines in an Outburst X-Ray Spectrum of the Be/X-Ray Binary Pulsar 1A 1118-61 (XRISM/Resolve が明らかにした Be 型 X 線連星パルサー 1A 1118-61 のアウトバーストにおける中性鉄輝線の形)
著者: Toshihiro Takagi, Megumi Shidatsu, Motoki Nakajima, Mutsumi Sugizaki, Tatehiro Mihara, ほか 3 名
DOI: 10.3847/2041-8213/aea070
URL: https://iopscience.iop.org/article/10.3847/2041-8213/aea070
<研究助成>
日本学術振興会科学研究費助成事業 (科研費)
課題番号: 26K07118, 19K14762, 23K03459, 24H01812, 23H04895
<問い合わせ先>
(研究に関する事)
愛媛大学 理学部/先端研究院宇宙進化研究センター
研究員 高木 利紘
電話: 089-927-9585, E-mail: takagi.toshihiro.bb@ehime-u.ac.jp
愛媛大学 理学部/先端研究院宇宙進化研究センター
准教授 志達 めぐみ
E-mail: shidatsu.megumi.wr@ehime-u.ac.jp
日本大学 松戸歯学部
専任講師 中島 基樹
E-mail: nakajima.motoki@nihon-u.ac.jp
金沢大学 理工研究域 先端宇宙理工学研究センター
博士研究員 杉﨑 睦
E-mail: sugizaki@se.kanazawa-u.ac.jp
(プレスリリースに関する事)
愛媛大学 総務部 広報課
電話: 089-927-9022, E-mail: koho@stu.ehime-u.ac.jp
愛媛大学 先端研究院 宇宙進化研究センター (RCSCE)
電話: 089-927-8164, E-mail: kyoten1@stu.ehime-u.ac.jp
日本大学 松戸歯学部 庶務課
電話: 047-360-9203, E-mail: shomu.md.ml@nihon-u.ac.jp
金沢大学 理工系事務部 総務課 総務係
電話: 076-234-6957, E-mail: s-somu@adm.kanazawa-u.ac.jp
▼本件に関するお問い合わせ先
愛媛大学 理学部/宇宙進化研究センター
研究員 高木 利紘
TEL:089-927-9585
Mail:takagi.toshihiro.bb@ehime-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
プレスリリース情報提供元:Digital PR Platform
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