朱子学からAIの判断責任を考える 中国・第5回考亭フォーラムで議論

2026年10月22日 21:16

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記事提供元:Tech Times

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中国・福建省南平市で2026年10月17~18日、「朱子学と多元文明対話大会」兼「第5回考亭フォーラム」が開かれた。中国国内外から約200人の専門家・研究者が参加し、朱熹の思想をAI倫理や社会統治、文明間対話にどう生かすかを議論した。

AIを利用する人間が自ら判断することの重要性も、会期中の研究者への取材で示された。学術討議に加え、朱熹ゆかりの書院の視察や辞典の発表、共同植樹が行われ、思想研究と文化遺産の継承を結び付ける催しとなった。

■朱子学を現代社会の論点へ

大会は中国社会科学院、国際儒学連合会、福建省人民政府が共同主催した。テーマは「明理崇礼、知行相須――文明対話と人類社会の秩序形成」で、理を明らかにし、礼を尊び、知ることと実践することが互いを必要とするという考えを掲げた。

17日の開幕式は福建省党委員会常務委員・宣伝部長の張彦が、基調講演は同省副省長の江爾雄が司会を務めた。国際儒学連合会は、大会が中国の四つのグローバル・イニシアチブに沿って、朱子文化の現代的価値を探る場だったと説明している。

午後の分科会は、「朱子学と『二つの結合』」「朱子学とグローバル・ガバナンスにおける中国の知見」「朱子学とデジタル・AI時代の人文学」「朱子文化遺産と両岸融合発展」の4テーマで構成された。「二つの結合」は、マルクス主義の基本原理を中国の具体的実情、および中国の優れた伝統文化と結び付けるという中国共産党の方針を指す。

朱熹(1130~1200年)は、北宋の周敦頤や程顥・程頤兄弟らの思想を継承し、南宋で朱子学を体系化した思想家だ。人の道徳性と世界の秩序を貫く「理」を追究し、仏教や道教との思想的な交流・対抗を通じて、倫理から政治、宇宙論までを扱う学問を築いた。

朱子学は元・明・清の時代に儒学の標準学説となり、朝鮮、日本、ベトナムにも影響を及ぼした。『大学』『中庸』『論語』『孟子』の注釈書『四書集注』は、元朝が1313年に定め、1315年に進士を選出した科挙制度で重視され、1905年の科挙廃止まで中国の官僚教育を支える古典となった。

■AI利用を巡る「判断する人間」の問題

福建日報のインタビューで、華東師範大学哲学系教授の方旭東は、朱子学の概念を現代の生活に即して説明する必要性を説いた。方は儒学と実践倫理学を専門とし、復旦大学上海儒学院の研究員も務める。

方が取り上げたのは、「天理」と「人欲」の区別だ。方の解釈では、天理は物事に備わる筋道や限度を、人欲はその限度を越える私的な欲望を表す。AIとの関係では、道具を使う際にも、人間が判断の主体であり続けることが重要になるという。

説明には身近な空調の例を用いた。省エネルギーのために夏の設定温度として26度を挙げ、地球環境への負荷を顧みず18度まで下げる行為を、過度な欲望の例とした。そのうえで、AIへの判断権の全面的な委譲も同じ観点から捉え、欲望や利便性に自らの判断を支配させないという問題を提起した。

この議論は、AIが提示する答えを受け取る人の姿勢に焦点を当てるものだ。自分で考え、利用の目的や結果を吟味するという修養の考え方が、デジタル技術との付き合い方を考える手掛かりになる。

儒教などの思想からAI倫理を考える研究は、国際的にも進んでいる。Springerが2025年2月に刊行した『Social and Ethical Considerations of AI in East Asia and Beyond』は、香港浸会大学で2023年4月に開かれた会議を基に、儒教、道教、キリスト教などの観点からAIの社会的・倫理的課題を検討している。

■「理一分殊」と文明間対話

文明間対話では、共通の価値と文化の多様性をどう両立させるかが論点となった。中国が2023年3月に提唱した「グローバル文明イニシアチブ」は、文明の多様性の尊重や共通の価値、文化の継承と革新、国際的な人的・文化的交流を掲げる。主催者は、今回の大会をこうした文明交流の実践として位置付けた。

福建日報によると、清華大学国学研究院院長の陳来は、ハンチントンの「文明の衝突」論の成立と影響を検討した。文明の対立を軸に国際関係を説明する理論に対し、政治、経済、民族主義などの要因や、同一文明内の紛争にも目を向ける必要があると論じた。

討議で文明間対話の手掛かりとして挙がったのが「理一分殊」だ。共通する理が、それぞれの存在や関係の中で異なる形を取るという思想である。方旭東も、人類に共通する価値と、歴史や地理に根差した文化の多様性を考える資源として、この概念を説明している。

登壇者の比較哲学的な議論も幅広かった。福建日報によると、台湾の哲学者で東方人文学術研究基金会董事長の楊祖漢は、カントの道徳哲学を用いて朱熹の思想を検討した。韓国・成均館大学名誉教授の崔英辰は孟子と朱熹の道徳心の論証を、香港大学政治理論講座教授のダニエル・A・ベルは荀子と朱熹の礼学を比較した。

ベルは山東大学政治学・公共管理学院の元院長で、儒教に着想を得た政治的能力主義と民主主義の関係を研究してきた。陳来は中華朱子学会会長、国際儒学連合会副会長も務める。現代政治や倫理への関心と、古典の解釈を専門とする研究が交わる顔触れとなった。

■思想の伝播を考え、研究基盤を整える

中国共産党中央党史研究室の元副主任・馮俊は、中国典礼論争を題材に朱子学の欧州への伝播を論じた。福建日報によると、朱熹の「理」を巡るイエズス会士とパリ外国宣教会の解釈には誤読がありながらも、その論争が欧州の啓蒙思想界への伝播を促したと説明した。

馮は、この歴史を踏まえ、文明交流では文化の主体性と多様性を尊重し、中国自身の言葉で思想を伝える必要があるとした。一方、中央党校(国家行政学院)副校長の李文堂は、「格物致知」、すなわち事物の道理を究めて知を深める思想を取り上げた。福建日報によると、中国共産党の「実事求是」という思想路線を育む伝統文化上の資源として位置付けた。

17日には新版の『朱熹大辞典』も発表された。主編は1935年生まれの中国人民大学栄誉一級教授・張立文で、大会に寄せたビデオメッセージでは、辞典が朱子学研究の成果をまとめ、文明間の相互理解に役立つとの期待を示した。

共同植樹は18日午前、建陽区莒口鎮の寒泉精舎で行われた。国際儒学連合会によると、国内外の研究者や招待客、地元関係者が集まり、朱子林(理学林)にクスノキを植えた。学術交流を、朱熹の足跡が残る土地での共同体験につなげる活動となった。

■書院を訪ね、思想を生んだ土地に触れる

東南網によると、18日の書院文化をテーマにした現地視察では、研究者らが建陽、武夷山、建甌、政和の4地域を訪れた。講演会場での議論に加え、書院や古い町並み、文化施設を歩き、朱子学が受け継がれてきた場所に触れた。

建陽区の考亭書院は、朱熹が1192年に移り住み、1200年に没するまで講学した場所だ。当初は竹林精舎と呼ばれ、後に滄洲精舎へ改称された。蔡元定、黄幹、陳淳らが学び、考亭学派の拠点となった。1244年には宋の理宗が「考亭書院」の額を下賜した。

現在の施設は2019年に再建整備され、福建日報が2024年に伝えた地元当局の説明では、国内外からの来訪は累計100万人を超えていた。入口には1531年に建てられた石牌坊が残る。朱熹は白鹿洞書院の再興や学規の制定にも取り組み、書院を通じた教育の伝統を後世に残した。

寒泉精舎は、朱熹が母の喪に服するため、1170年、数え年41歳の頃に建てた最初の書院だ。母の墓の近くで講学と著述を進め、後の『四書集注』につながる経典研究にも取り組んだ。今回の視察では、参加者が画面上で朱熹の詩句を入力するなど、デジタル技術を使った展示も体験した。

東南網によると、四川外国語大学教授の王鷹は、寒泉精舎を訪れ、研究者として調査に来た自分が、朱熹の思想を前に学ぶ学生のように感じられたと語った。南昌大学教授の田炳郁は修復を評価し、時代とともに書院の機能が変わるなか、その伝統を新たな文脈で継承することの重要性を指摘した。

武夷精舎は九曲渓の五曲、隠屏峰の麓に1183年に建てられた。蔡元定や黄幹ら、最盛期には百数十人が集い、朱熹はこの時期に『四書集注』をまとめ、1190年に刊行した後も改訂を続けた。現在は朱熹園の一部となっており、武夷山は1999年12月、世界文化・自然遺産に登録された。ユネスコは、この地を朱子学が発展し、東アジアへ広まった重要な場所として評価している。

■文化遺産を交流と地域づくりにつなぐ

河南省嵩県の二程書院研究員・呉建設は、程顥・程頤から李侗を経て朱熹へと続く思想の系譜を踏まえ、南平との交流強化を提案した。東南網によると、青年研究者の「朱子之路」研修を嵩県にも延ばし、「程朱之路」として展開する構想を示した。朱子之路は2026年7月に第19回が開かれている。

政和では、参加者が朱子孝道館や中国白茶博物館などを訪れた。東南網によると、厦門大学教授の王紹森は、孝の文化を継承する意義とともに、白茶文化を生かした地域づくりの可能性を語った。思想の継承と、地域の自然や暮らしを伝える文化観光が組み合わされている。

考亭フォーラムは2021年12月に始まり、今回で5回目を迎えた。書院での学術交流、現地視察、一般向けの展示や文化活動を組み合わせ、朱子学を学界から社会へ伝える場として展開している。

その基盤には遺産保護の制度整備がある。南平市は2017年に「朱子文化遺存保護条例」を施行し、2023年12月28日には南平市全域を対象とする省級の朱子文化生態保護区が設立された。福建省文化・観光庁によると、2026年10月時点で省内に登録された朱熹関連の不動産文化財は215件に上る。古典研究を支える史跡を守りながら、AI時代の倫理や国際交流へ議論を広げる取り組みが続いている。

元記事: Zhu Xi’s 800-Year-Old Philosophy Just Became China’s Answer in AI Ethics Debate

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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