「April X」が描く夢のデータ売買 現実の脳研究と重なる発想とは

(Vertigoreleasing.com)[写真拡大]
ミシェル・K・パランディ監督のSFスリラー映画「April X」が、2026年10月2日に米国で公開された。夢をデジタル記録できる妹の失踪を追う物語には、臓器の闇取引やクローンが登場する。夢や記憶が商品となる世界を通じて、作品は人格と身体の関係を問いかける。
■夢を記録できる妹と、同じ顔の女性たち
舞台は近未来の東欧を思わせる都市だ。人工臓器の闇取引で暮らすバクスをコナー・ストーリー、双子の妹エイプリルをリリー・クルーグが演じる。作品はルーマニアのブカレストで撮影された。
エイプリルには、自分の夢を鮮明に記憶し、デジタル形式で記録できる特別な能力がある。映画祭の作品紹介によると、その能力は企業や犯罪者の関心を集める。彼女が姿を消した後、バクスは街でエイプリルと同じ顔の女性を見かけるが、相手は彼を知らない。
作中では、夢や記憶の記録に加え、複製された女性たちが犯罪組織に利用される。英国映画分類機構の作品情報にも、女性のクローンが性的搾取を目的に作られる描写が記されている。バクスによる妹の捜索は、同じ姿を持つ相手をどう見分け、どう向き合うかという問いにつながっていく。
本作は6月17日、第34回レインダンス映画祭のオープニング・ガラで英国プレミア上映された。英国映画分類機構は同国での公開日を9月18日、上映時間を約92分と掲載している。2026年10月時点で、日本での公開情報は確認されていない。
■夢の解読研究が示した共通構造
夢の内容を脳活動から推定する研究は進められている。2013年、ATRの堀川友慈氏、神谷之康氏らは、入眠期の脳活動と覚醒後の口頭報告を照合し、夢に現れた視覚対象のカテゴリーを推定した研究を「Science」に発表した。ATRの発表資料によると、一部のカテゴリーでは70%を超える精度で判別できた。
研究では、参加者が起きて画像を見ているときの脳活動を機械学習に利用し、眠っているときの活動から夢に現れた対象を推定した。ATRは結果を示す映像について、夢の形や色を再現したものではなく、現れた可能性のある物体や場面の種類を表したものだと説明している。エイプリルの記録能力には、脳の信号から内面の情報を読み取るという発想を重ねられる。
睡眠中の本人から情報を得る別の研究もある。ノースウェスタン大学などの研究チームは2021年、明晰夢を見ている参加者が、あらかじめ決めた眼球運動などで実験者の簡単な問いに答えたと報告した。夢を見る人の状態を確認し、応答を受け取る仕組みも、作品の設定を読み解く手掛かりになる。
■クローン研究から考える「同じ人物」
作品に登場するクローンの身体は、現実の体細胞核移植を連想させる。この方法では、体細胞の核を、核を取り除いた卵子に移す。1996年に誕生した羊のドリーに使われ、2018年にはカニクイザルのクローン「中中」と「華華」の誕生が報告された。
体細胞核移植では、移した核の状態を胚の発生に適した状態へ戻す再プログラムが重要になる。2018年のカニクイザルの研究でも、エピジェネティックな状態に働きかける処理によって発生率が改善した。クローン動物の作製効率や発生上の問題を考えるうえで、今も重要な研究課題だ。
身体の複製と人格の形成を分けて考える視点も、物語を深くする。一卵性双生児の研究では、遺伝的に非常に近い人どうしにも性格の違いが見られ、それぞれの経験や環境が関わることが示されている。エイプリルと同じ顔の女性たちが異なる振る舞いを見せる描写には、姿の一致だけでは捉えきれない個人の経験という主題が表れている。
ヒトの生殖目的のクローンについては、ユネスコが1997年に採択した宣言で、人間の尊厳に反する行為として容認しない原則を示した。2005年には国連総会も、各国に規制措置を求める宣言を採択している。作品が描く闇市場は、複製された人を誰が支配するのかという倫理的な問題を際立たせる。
■夢が商品になる街
ハーバード・ビジネス・スクール名誉教授ショシャナ・ズボフは、利用者の行動から得たデータを予測に利用し、販売する仕組みを「監視資本主義」として論じてきた。「April X」では、売買の対象が夢や記憶にまで広がる。個人の内面を記録し、他人が利用できる商品にするという設定が、映画の犯罪経済を支えている。
街に現れるドローンなどの監視装置も、バクスたちが暮らす環境の一部だ。視覚的な監視と夢の記録が重なることで、作品は個人の行動と内面の双方に値段が付く社会を描く。その中で妹を捜すバクスの行動が、人を交換可能な商品として扱う仕組みと対峙していく。
撮影地ブカレストには、監視の歴史を想起させる背景もある。共産主義時代のルーマニアでは、秘密警察セクリタテが情報提供者の網を築き、市民を監視した。ネオンとコンクリートの建物を組み合わせた映画の街並みには、近未来の技術と過去の権力構造を重ねて見る余地がある。
■映像と音が支えるサイバーパンク
自分の現実を疑い始める人物を描いた映画「ワールド・オン・ア・ワイヤー」(1973年)や、大都市と特別な力を持つ人物を描いた大友克洋の「AKIRA」(1988年)も、人格や都市を考える比較対象になる。「April X」は、ブカレストで撮影した街並みを使い、バクスの身近な犯罪の世界からその問いを描く。
パランディ監督は以前、企業が料金を払った市民に警察の保護を売る社会を描く短編「From the Future with Love」も手がけた。「April X」では、人工臓器や夢の記録が取引される。技術が日々の暮らしと犯罪の双方に入り込む世界づくりは、両作に通じる。
音楽を担当したのはマシュー・アティカス・バーガーだ。サウンドトラックには歌手アマンダ・エイケンの声が各曲に使われている。繰り返し現れる声は、同じ顔の女性たちを追う物語に、音からも印象を与えている。
元記事: April X Opens in US Cinemas: Dream Data Is Surveillance Capitalism’s Purest Form
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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