トレンチ・グループ、数十億ユーロ規模の売却・IPOを検討か AI・送電網投資で受注残21億ユーロ超
AIデータセンターなどの大口電力需要を支える高圧送電網向け機器メーカー、トレンチ・グループについて、親会社のプライベートエクイティ(PE)投資会社Triton Partnersが売却または新規株式公開(IPO)を検討しているとBloombergが報じた。企業価値は数十億ユーロ規模が想定され、取引は早ければ2027年にも実施される可能性がある。ただ、協議は初期段階で、実現する保証はない。
■売却とIPOを並行して検討
ベルリンに本拠を置くトレンチ・グループは、ブッシングや計器用変圧器、コイル、リアクトルなど、高圧送電網に使われる機器を製造する。Bloombergが匿名の関係者の話として報じたところによると、TritonはMorgan Stanleyを起用し、非公開での売却とIPOを並行して準備する「デュアルトラック」を検討している。
Tritonは数十億ユーロ規模の企業価値を想定しており、投資回収は早ければ2027年になる可能性があるという。TritonとMorgan StanleyはBloombergの取材にコメントを控えた。
Tritonは2023年10月、Siemens Energyからトレンチ事業を取得することで合意し、Triton Fund Vを通じて2024年4月に買収を完了した。トレンチは独立後に事業を拡大しており、2026年9月時点で年間売上高は10億ユーロを超え、受注残は21億ユーロ超に達している。
Morgan Stanleyはトレンチの資金調達にも関与している。White & Caseによると、Morgan StanleyとBank of Americaがグローバル・コーディネーターを務めた銀行団は2026年、トレンチに14億ユーロのシニア担保付タームローンBを提供した。
■送電網を支えるブッシングと計器用変圧器
ブッシングは、高電圧の導体を変圧器などの接地された筐体の内外へ安全に通すための絶縁部品である。計器用変圧器は、送電系統の高い電圧や電流を、計量、保護、制御機器が扱える水準へ変換する。
トレンチのバハディール・バスデレ社長兼CEOは2026年9月、POWER Magazineのインタビューで、高圧ブッシングのリードタイムが電圧や仕様によって最長2年に達していると説明した。電力用変圧器の需要拡大に伴ってブッシングの需要も増え、特殊部品、とりわけ絶縁体の供給能力が制約になっているという。
同社は供給能力の拡大を進めており、2030年までに世界の生産能力増強へ約4億ユーロを投じる計画だ。2026年9月時点で8カ国に11工場を持ち、3000人超を雇用している。2030年には従業員数を約4000人に増やす方針である。
■独立後に売上高と受注残が拡大
トレンチの2025年の売上高は9億650万ユーロと、2024年の6億8360万ユーロから33%増えた。受注高は14億ユーロを超え、2025年末の受注残は16億ユーロに達した。
その後も受注は拡大し、POWER Magazineが2026年9月7日に掲載したバスデレCEOへのインタビューでは、年間売上高が10億ユーロ超、受注残が21億ユーロ超に達したとされている。2024年4月の独立以降、年間売上高は約2倍になった。
北米は特に成長が大きい。トレンチによると、2026年上半期には北米向けが同社全体の受注高の約50%を占めた。
2026年7月には、ノースカロライナ州シャーロットに同社初の米国生産拠点を開設した。投資額は6000万ドル超(約94億円、1ドル=157円換算)で、延べ17万平方フィート(約1万5790平方メートル)の工場で25〜765kV向けの乾式変圧器ブッシングを生産する。当初の年間生産能力は最大約3500本で、将来的には1万本規模まで拡張できるとしている。
■AIデータセンターが電力網投資を促す
国際エネルギー機関(IEA)は、世界のデータセンターによる電力消費量が2030年に約945テラワット時となり、2024年から2倍超に増えると予測している。AIが増加の最大の要因になるとみている。
データセンターの増設には発電設備だけでなく、送電線、変電所、変圧器など電力網側の増強も必要になる。こうした設備にはブッシングや計器用変圧器などの高圧部品が使われるため、トレンチにとってデータセンター向け電力需要の増加は受注拡大要因の一つとなっている。
トレンチはMetaと戦略的な生産能力契約を結び、同社が世界で拡大するハイパースケール・データセンター向けに乾式ブッシングを供給する。バスデレCEOはPOWER Magazineに対し、ハイパースケーラーは複数地域でギガワット級の施設を急速に建設するため、従来の電力会社向け案件以上に納期が重要になっていると説明した。
バスデレCEOによると、データセンター建設では電力網への接続が重要な前提となる一方、関連機器のリードタイムは数カ月から数年に伸びている。このため、電力設備を予定通り確保できるかがデータセンターの稼働時期を左右する要因になっているという。
■米国で765kV対応を強化
米国では電力需要の増加に対応するため、高電圧の765kV送電網を拡張する動きが進んでいる。トレンチのシャーロット工場も25〜765kVのブッシング生産に対応する設計となっている。
同社はテキサス州の765kV送電網整備向けに容量形計器用変圧器(CVT)の案件を受注している。シャーロット工場では低い電圧階級から段階的に生産を拡大し、765kVブッシングの初回出荷を2028年初めに予定している。
トレンチは製品分野の拡張も進める。2025年9月には、光ファイバー式計器用変圧器技術を持つオーストラリアのH Nuを買収した。同技術は交流送電に加え、高圧直流送電(HVDC)にも適用できる。
2026年8月のCIGRE Parisでは、傘下Enerluxのコンデンサー、Trench Austriaのリアクトル、トレンチの計器用変圧器を組み合わせた電力品質向けの統合製品群を発表した。複数の機器を一体的に設計・供給することで、設備間の調整や試運転を効率化する狙いがある。
■送電網への投資拡大が追い風
IEAは2026年の見通しで、世界の電力需要の伸びに対応するには、送電・配電網への年間投資額を現在の約4000億ドルから2030年までに約50%増やす必要があるとしている。
IEAはデータセンターや再生可能エネルギー、蓄電設備など計2500GW超の案件が世界で系統接続待ちになっているとも指摘する。データセンターは1〜3年程度で建設できる一方、新たな送電網の計画から完成までは5〜15年かかる場合があり、電力網整備の遅れが大口需要の接続を制約する可能性がある。
こうした環境を背景に、高圧送電設備の供給能力が重要性を増している。トレンチは2024年の独立後に生産能力を拡大し、受注残も21億ユーロ超まで積み上がった。
Tritonが検討している売却・IPOはまだ初期段階にある。Bloombergが報じた関係者によると、取引が実施されるかは決まっておらず、実現するとしても早くて2027年になる可能性がある。
元記事: Trench Group Eyes Billion-Euro Sale: AI Powers Indispensable Substation Maker
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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