英国防省、Starshieldの軍事運用を初公表―SpaceX衛星サービスに約61億円

2026年9月13日 00:16

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記事提供元:Tech Times

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英国防省は、SpaceXの政府・安全保障機関向け衛星サービス「Starshield」を作戦上の軍事通信に利用していることを初めて公表した。Reutersの情報公開請求に対する回答によると、同省は約1000台のStarshield端末と約500台のStarlink端末を保有し、両サービスに計2950万ポンド(約60億7000万円)を支出している。

Starshieldの導入は、低遅延で展開しやすい低軌道衛星通信を軍事利用する動きの広がりを示す。一方、重要な作戦通信を米国の民間企業が運営するサービスに依存することの是非も改めて問われている。

■情報公開で明らかになった作戦利用

英国防省によると、Starshieldへの支出は端末と通信サービスを含めて約1300万ポンド(約26億7000万円)だった。一般消費者や企業向けのStarlinkには約1650万ポンド(約33億9000万円)を支出している。

英国は、米国以外でStarshieldの採用を公に認めた最初の国となった。SpaceXはStarlinkを一般消費者・企業向け、Starshieldを政府・国家安全保障機関向けのサービスとして位置付けている。

Reutersは2026年6月、英国が同年初めごろから作戦上の軍事通信をStarshieldへ移行していると、事情を知る関係者の話として報じていた。当時、英国防省はStarshieldについてコメントせず、Starlinkについては「軍事作戦には使用していない」と説明していた。派遣中の人員が家族と連絡を取るためなど、非作戦目的で利用しているとしていた。

今回の回答で同省は、Starlinkの用途が士気、福利厚生、レクリエーション、訓練に限定されたことを受け、作戦通信にStarshieldを採用したと説明した。採用理由には「強化された暗号化、軍事向けの利用規約、最高水準のネットワーク優先順位、柔軟なライセンス契約、拡張されたカバレッジ」を挙げている。

■Starlinkと基盤を共有する政府向けサービス

英国で利用されるStarshieldは、Starlinkと同じ衛星群、地上局、地上側の通信インフラを利用する一方、専用端末と別系統の地上ネットワークゲートウェイを使用する。

英国は2024年、既存のStarlink端末を使ってStarshieldの通信サービスの利用を始め、2025年に初めてStarshield専用端末を購入した。Starshieldは独立した衛星群の名称ではなく、SpaceXがStarlinkで培った技術や打ち上げ能力を政府向けに展開するサービスである。

SpaceXによると、Starshieldでは機密性の高いペイロードやデータを扱うため、Starlinkに追加の高保証暗号機能を組み合わせる。通信のほか、地球観測や、政府機関などの機器を搭載するホステッドペイロードも対象としている。

英国防省が開示した料金では、データ容量5TBのStarshieldプランは月額5500ポンド、無制限プランは月額2万5000ポンドだった。比較対象として示されたStarlinkの企業向けグローバルプランは、2TBで月額1830ポンドとなっている。

Starshield専用端末の価格は1台4000~7000ポンドで、企業向けStarlink端末の少なくとも2倍だった。料金差には、通信容量だけでなく、優先接続、専用の契約条件、暗号機能などの違いが反映されている。

■低軌道衛星通信が軍事分野で広がる背景

軍が低軌道衛星通信に注目する大きな理由の一つが、静止軌道衛星より通信遅延を抑えやすい点である。静止軌道衛星は赤道上空約3万5786kmに配置されるのに対し、Starlinkの衛星は地球に近い低軌道を周回する。

通信遅延は衛星の高度だけで決まらず、地上局の配置、通信経路、ネットワークの混雑状況などにも左右される。それでも低軌道衛星は電波が往復する距離を短くできるため、リアルタイム性が求められる通信に適している。SpaceXはStarlinkについて、米国のピーク時間帯における遅延の中央値が2025年7月時点で25.7ミリ秒だったと公表している。

英国が保有する軍事衛星通信システム「Skynet」は静止軌道を利用し、英国軍や同盟国に安全な通信を提供している。英国防省は次世代のSkynet 6計画も進めており、今後10年間に50億ポンド超を投じる方針である。

SkynetとStarshieldは、単純な代替関係ではない。広域を継続的にカバーする静止軌道システムと、多数の衛星と持ち運び可能な端末を利用する低軌道サービスを組み合わせることで、用途に応じた通信経路を確保できる。英国防省のStarshield導入は、こうした複数の衛星通信手段を併用する方向を示している。

■ウクライナで存在感を高めたStarlink

低軌道衛星通信の軍事的な有用性が広く注目された契機が、ロシアによる2022年2月のウクライナ全面侵攻だった。ウクライナ軍はStarlinkを部隊間通信などに広く利用し、地上の通信インフラが攻撃を受ける状況でも接続手段を確保してきた。

一方、民生向けサービスを軍事作戦に利用することをめぐっては、SpaceXの方針が作戦に影響する可能性も表面化した。SpaceXは2023年、Starlinkをドローンの制御に使用することは契約の想定を超えているとして、利用を制限する措置を講じたと明らかにした。

クリミア周辺で計画されたウクライナの作戦をめぐっては、イーロン・マスクがStarlinkの通信範囲を有効化する緊急要請を拒否したと説明している。当初はサービスを停止したとの記述も伝えられたが、伝記を執筆したウォルター・アイザックソンは後に、対象地域ではもともと通信が有効になっておらず、マスクが有効化の要請を断ったのが正確だと説明を修正した。

この一件は、民間事業者の契約やサービス方針が軍事利用の範囲を左右し得ることを示した。マスクは、Starlinkは民生向けネットワークであり、軍事利用にはStarshieldを使うべきだとの考えを示している。

Starshieldには政府・安全保障機関向けの契約条件や専用設備が用意されている。ただし英国防省とSpaceXの契約内容は公表されておらず、サービスの制限や中断に関して英国側がどのような権利を確保しているかは明らかになっていない。

■英国は2022年からStarlinkを配備

英国防省は2022年半ばにStarlinkの利用を開始した。Starlinkへの1650万ポンドの支出には、海外に展開する英国軍関係者向けの接続サービスのほか、ウクライナへ送られた端末も含まれる。

その後、英国は2024年にStarshieldの通信サービスを既存端末で利用し始め、2025年に専用端末を購入した。2026年には作戦上の通信をStarshieldへ移す動きが進んだ。

ニュージーランド国防軍もReutersに対し、軍事作戦を支援するうえでの有用性を調べるため、Starshieldを試験していると明らかにした。SpaceXは、英国以外のどの国がStarshieldを利用できるのかという質問には回答していない。

■欧州が進めるIRIS²

欧州連合は、安全で強靱な衛星通信を域内で確保するため、複数軌道型の衛星ネットワーク「IRIS²」を整備している。IRIS²は政府、防衛、安全保障、緊急対応向けの暗号化通信に加え、企業や一般利用者向けの通信サービスも提供する計画である。

2026年8月に更新された計画では、低軌道衛星330機と中軌道衛星18機の計348機で構成する。このうち追加された低軌道衛星66機は、防衛、安全保障、緊急対応向けの通信能力を強化するための層となる。EUは、追加によって域内の政府向けセキュア通信容量が60%増えるとしている。

SpaceRISEコンソーシアムには、衛星通信事業者のSES、Eutelsat、Hispasatが参加している。計画への投資額は156億ユーロとなり、2030年のサービス開始を目指す。

英国は現時点でIRIS²の参加国ではない。EUは英国を含む域外国の参加可能性を排除していないが、英国が参加するための正式な手続きを進めていることは確認されていない。このため、少なくとも当面は、英国軍が必要とする低軌道衛星通信の一部をSpaceXのサービスが担うことになる。

■作戦能力と通信主権の両立が課題

英国によるStarshieldの採用は、すでに運用実績があり、短期間で多数の端末を展開できる低軌道衛星サービスを優先した結果とみられる。Starlinkと共通の大規模な衛星・地上インフラを利用できることも、導入の速さにつながる。

一方、作戦通信を外国の民間企業が運営するネットワークに依存すれば、契約条件、サービス方針、企業経営上の判断が利用可能性に影響する。これはStarshieldの性能とは別に、政府が調達や運用の段階で管理すべき問題となる。

英国にはSkynetという自国の軍事衛星通信基盤があるが、低軌道衛星群を利用するStarshieldとは役割や特性が異なる。今後は両システムをどのように組み合わせ、特定のサービスが利用できなくなった場合の代替経路をどう確保するかが重要になる。

今回の情報公開により、英国がStarshieldを作戦通信に利用している事実と、端末数、支出額、導入経緯が初めて公になった。約1000台に上る専用端末の運用は、Starshieldが試験段階にとどまらず、英国の軍事通信基盤の一部になっていることを示している。

元記事: UK Spent $40 Million on SpaceX Starshield While Publicly Denying Military Use

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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