土星南極に巨大な「十角形」の大気波、ハッブル観測で形成過程を捉える

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NASAと欧州宇宙機関のハッブル宇宙望遠鏡による観測から、土星の南極を取り巻く巨大な十角形の大気波が確認された。北極の六角形と同じく強力なジェット気流に伴う惑星規模の構造だが、移動速度や安定性には明確な違いがあり、研究者はその形成と変化を継続的に追っている。
研究成果は2026年9月2日付の学術誌Science Advancesに掲載された。オランダ・ハーグで9月6~11日に開かれた第21回Europlanet Science Congress(EPSC2026)でも、土星の大気構造をはじめ、星間彗星3I/ATLASや今後の惑星探査計画に関する研究が議論された。
■土星南極を囲む十角形
土星の北極には、少なくとも1980年代初めから観測されている六角形の大気構造がある。強い東向きのジェット気流に沿って形成された波で、長期間にわたって形状と位置を保ってきた。
今回、土星の南半球でも、南緯およそ58~63度のジェット気流に沿って10個の頂点を持つ構造が確認された。ハッブル宇宙望遠鏡が異なる波長で観測した結果、この十角形は単一の雲層だけでなく、複数の高度にまたがる大気波として現れていることが分かった。
土星の南極域は、土星の公転と自転軸の傾きにより、2012年ごろから地球側から観測しにくい状態となっていた。その後、2023年ごろから再び観測条件が改善し、ハッブル宇宙望遠鏡のOuter Planet Atmospheres Legacy(OPAL)プログラムによる画像に、十角形の弱い兆候が写り始めた。
バスク大学が運営するPlanetary Virtual Observatory Laboratoryに集められた地上観測画像では、2024年にTrevor BarryさんとJean-Paul Ogerさんらが南極付近の帯状構造にうねりがあることに気付いた。2025年の地上観測とハッブル宇宙望遠鏡による高解像度観測では、10本の辺を持つ形がさらに明瞭になった。
十角形の各辺は1万6700kmを超える。地球の直径を上回る長さであり、惑星規模の大気現象であることが分かる。
■北極の六角形とは異なる振る舞い
南極の十角形は、北極の六角形をそのまま反転させたような構造ではない。北極の六角形は土星の内部自転を示す電波周期に対してほぼ静止している。一方、南極の十角形は秒速約2.5m、時速では約9kmで東向きに移動している。
十角形が位置する南緯約60.5度のジェット気流そのものは秒速約116mで流れており、十角形の移動はこれより大幅に遅い。各頂点の経度も約32日の周期で振動していることから、十角形は高速のジェット気流に運ばれる単純な雲の模様ではなく、流れの中に捕捉された大規模な波と考えられている。
北側に隣接する暗い高気圧性渦が、十角形の形成や形状に影響している可能性もある。研究チームによる浅水系モデルのシミュレーションでは、ジェット気流の速度分布に周期的な乱れが生じた場合や、近くの高気圧性渦が波を励起した場合に、多角形に近い構造が形成された。
もっとも、観測された十角形の形状や変化を一つのモデルだけで完全に説明するには至っていない。2023年と2024年の画像では頂点や直線状の辺のコントラストが弱く、2025年にかけて明瞭になったことから、現在も発達途上にある可能性がある。
■土星のジェット気流を読み解く手掛かり
惑星大気のジェット気流には、惑星の自転や緯度によるコリオリ効果の変化を受け、大規模な波が生じる。地球の中高緯度の大気でも見られるロスビー波が代表例で、惑星規模の気圧配置や気流の蛇行に関係している。
土星の多角形も、ジェット気流に沿って生じた大規模な蛇行波という共通構造を持つ。直線に近い辺と明確な頂点を作る条件には、ジェット気流の速度分布、周囲の渦、波が南北方向や高度方向へ広がるのを抑える大気構造などが関係すると考えられている。
2004年には土星探査機Cassiniが南半球の同じような緯度で、一時的に多角形に見えるジェット気流の乱れを観測していた。ただし、この構造は短期間しか確認されず、今回の十角形と同じ現象だったかどうかは分かっていない。Cassiniが2017年に運用を終えてからは土星を周回する探査機が存在せず、南極域の連続観測には空白が生じている。
北極の六角形が長期にわたり安定しているのに対し、南極の十角形が今後も発達を続けるのか、安定した形になるのか、それとも消失するのかは不明である。ハッブル宇宙望遠鏡や地上望遠鏡による定期観測は、巨大惑星の大気が数年単位でどのように変化するかを調べる重要な手段となる。
■多数の宇宙機が観測した3I/ATLAS
EPSC2026では、太陽系の外から飛来した星間彗星3I/ATLASについても報告された。3I/ATLASは、チリにあるATLAS望遠鏡が2025年7月1日に発見した天体で、1I/オウムアムア、2I/Borisovに続く3番目の確認済み星間天体である。
太陽に束縛されない双曲線軌道を持ち、太陽系へ入る前の速度は太陽に対して秒速約58kmと推定された。2025年10月下旬に近日点を通過する前後には、地球や火星の周辺だけでなく、太陽系を航行中の複数の宇宙機が観測に参加した。
NASAのPsyche、Lucy、Europa Clipper、火星周回機MAVENとMars Reconnaissance Orbiter、火星探査車Perseveranceのほか、太陽観測を行うSOHO、Parker Solar Probe、STEREO、PUNCHなどが、それぞれ異なる位置と波長から彗星を捉えた。ハッブル宇宙望遠鏡、James Webb宇宙望遠鏡、SPHERExも観測を行っている。
James Webb宇宙望遠鏡による近日点通過前の分光観測では、3I/ATLASのコマに二酸化炭素が多く含まれることが分かった。水、氷、一酸化炭素、硫化カルボニル、メタンなども検出されており、別の恒星系で形成された彗星の化学的特徴を調べる貴重な試料となっている。
3I/ATLASの核はコマに包まれているため、初期の明るさだけから大きさを求めることは難しかった。ハッブル宇宙望遠鏡などによるその後の解析では、核の直径は数km以下とする範囲が示されている。広がったガスや塵によって、天体本体より大きく明るく見えていたと考えられる。
3I/ATLASの運動から、天の川銀河の古い恒星が多い領域に由来する可能性を示す研究もある。一方、形成された恒星系の年代や環境を特定するには、各観測機器が取得した組成、同位体、塵のデータを統合し、詳しく分析する必要がある。
■BepiColombo、水星到着へ最終段階
ESAとJAXAの共同水星探査計画BepiColomboは、2018年10月の打ち上げから約8年をかけ、2026年11月の水星到着を目指している。水星周回に成功すれば、NASAのMESSENGERに続いて水星を周回する2番目の探査計画となる。
BepiColomboは、ESAの水星表面探査機Mercury Planetary Orbiter(MPO)と、JAXAの水星磁気圏探査機「みお」(Mio)で構成される。MPOは水星の表面組成、地形、内部構造などを調べ、「みお」は磁場、磁気圏、太陽風との相互作用を観測する。
計画軌道は、MPOが高度約480~1500km、周期約2.3時間の極軌道である。「みお」は高度約590~1万1640km、周期約9.3時間の楕円軌道を周回する。性質の異なる2つの軌道から同時観測することで、水星本体と周囲の宇宙空間の変化を関連付けて調べられる。
水星へ直接向かうと、太陽の重力によって探査機が加速しすぎるため、BepiColomboは地球で1回、金星で2回、水星で6回の重力アシストを行い、イオン推進も利用して速度と軌道を調整してきた。機器の点検や軌道調整を経て、科学観測は2027年4月に始まる予定である。
■金星探査EnVisionと欧州製レーダー
ESAが開発を進める金星探査機EnVisionは、金星の内部、地下、地表、大気を一体的に調べることを目的としている。2024年にESAの科学プログラムへ正式採択され、2025年1月にはThales Alenia Spaceが探査機本体を製造する契約を受注した。打ち上げは2031年11月を予定している。
EnVisionには、紫外線と赤外線を使う3つの分光計、地下構造を調べるレーダー、重力場と大気構造を観測する電波科学実験などが搭載される。金星到着後は大気抵抗を利用するエアロブレーキによって高度を下げ、約220~510kmの低高度極軌道から観測する計画である。
地表観測には、NASAが提供する合成開口レーダーVenSARが計画されている。これと並行し、ESAはVenSARを代替できる欧州製合成開口レーダーEuroSARの設計と技術成熟を進める競争的なPhase B1活動を開始した。
EuroSARはVenSARと同等の科学性能や探査機との互換性を目標とし、金星表面の画像取得、地形測定、偏波観測、過去のレーダー画像との比較による地表変化の探索に用いる構想である。ESAは科学チームの組織化も進めている。
地球と金星は大きさや組成が比較的近い一方、地表環境と大気は大きく異なる。EnVisionは内部構造、地質活動、大気化学、気候の相互作用を長期間観測し、両惑星が異なる進化をたどった過程を探る。
■氷衛星の地下海を探る探査計画
会議では、木星や土星を回る氷衛星の地下海も主要なテーマとなった。土星の衛星Enceladusでは、南極付近の亀裂から水蒸気、塩、シリカ粒子、有機分子などを含む物質が噴出している。これらの観測は、氷殻の下に液体の海があり、水が岩石質の海底と相互作用していることを示す。
木星の衛星Europaにも氷殻下の海があると考えられている。NASAのEuropa Clipperは、Europaの近くを繰り返し通過し、氷殻の厚さ、地下海の性質、表面物質の組成などを調べる計画である。
ESAのJUICEは、木星とGanymede、Callisto、Europaを観測し、特にGanymedeを周回して内部構造や磁場を詳しく調べる。Europa ClipperとJUICEが異なる軌道と観測装置から取得するデータを組み合わせることで、氷衛星の内部や地下海に対する理解を深められると期待されている。
NASAは土星最大の衛星Titanへ回転翼機Dragonflyを送る計画も進めている。Dragonflyは2028年の打ち上げと2034年の到着を予定し、複数の着陸地点を移動しながら、Titanの砂丘や衝突クレーターに含まれる有機物と化学環境を調べる。
■ハーグで開かれた第21回EPSC
EPSC2026は、Europlanet Science Congressがオランダで開催された初の大会となった。開催地のハーグは、土星最大の衛星Titanを1655年に発見したChristiaan Huygensの出生地でもある。
会議には惑星科学の幅広い分野から研究者が参加し、太陽系天体、系外惑星、星間天体、惑星防衛、生命の起源、人工知能を利用した解析などについて研究成果を共有した。
南極の十角形が見つかったことで、土星の北極六角形は唯一の多角形大気波ではなくなった。一方、両者の安定性や運動には大きな違いがある。南北の構造を比較し、その発達と消長を追うことは、土星のジェット気流が巨大な波を作り出す条件を解明する手掛かりとなる。
元記事: Saturn Grows Decagon at South Pole: Hexagon Was Never Special, EPSC2026 Finds
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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