映画『エターナルズ』を科学で読み解く―フェルミのパラドックス、AI安全性、意識理論、鉛汚染

2026年8月27日 12:31

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記事提供元:Tech Times

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2021年公開のマーベル・スタジオ映画『エターナルズ』は、宇宙規模の生命循環から、制御できない技術の影響、複数の存在を結ぶ意識、呪われた武器まで、多くの科学的イメージを喚起する設定を備えている。フェルミのパラドックス、コリングリッジのジレンマ、統合情報理論、鉛汚染研究という4つの観点は、作品の構造や登場人物の葛藤を読み解く補助線になる。

■セレスティアルの出現とフェルミのパラドックス

『エターナルズ』では、地球内部でセレスティアルのティアマットが成長しており、その「出現」には多数の知的生命が生み出すエネルギーが必要だと明かされる。エターナルズはディヴィアンツから人類を守ることで、結果として地球の人口増加とティアマットの成長を支えていた。

この設定は、「宇宙に多数の文明が存在し得るなら、なぜその痕跡が見つからないのか」というフェルミのパラドックスに、物語上の答えを与えている。文明が十分に発展した段階でその惑星ごと失われるなら、恒星間へ広がった文明が観測されない宇宙像を組み立てられる。

経済学者ロビン・ハンソンが1998年に論じた「グレートフィルター」は、単純な生命から宇宙へ進出する文明に至る過程のどこかに、突破が極めて難しい段階があると考える枠組みだ。『エターナルズ』は、その障壁を生物進化や文明自身の技術ではなく、セレスティアルの誕生という宇宙規模の生命循環に置いている。

さらに、フランシス・クリックとレスリー・オーゲルが1973年に発表した「意図的パンスペルミア」の仮説も連想させる。これは、生命が地球外の知的存在によって意図的に地球へ運ばれた可能性を検討したものだ。両氏は証拠が不十分で、起きた確率を判断できないと明記しているが、外部の存在が惑星へ生命を導入するという発想は、アリシェムが生命の発展に介入する作品世界と共通する。

■広島のファストスと技術を制御する難しさ

劇中では、発明の力を持つファストスが1945年の広島で、人類の技術発展に手を貸してきたことを悔やむ。個々の知識は生活を豊かにする目的で与えられたが、長い連鎖の先で大量破壊兵器にもつながったという場面だ。

この葛藤を読み解く手掛かりが、デヴィッド・コリングリッジが1980年の著書『The Social Control of Technology』で示した「コリングリッジのジレンマ」である。新しい技術は、まだ変更しやすい初期段階では社会的影響を十分に予測できない。影響が明らかになるころには、技術が経済や社会へ深く組み込まれ、変更や制御が難しくなっているという問題だ。

ファストスは個々の発明を理解していても、それらが数世紀にわたって結びついた先の用途までは制御できない。いったん社会に定着した知識を取り消すこともできない。この構造は、能力の向上と安全対策、制度整備をどのような順序で進めるべきかという現代のAIガバナンスにも通じる。

2026年版の「国際AI安全性レポート」は、汎用AIの能力、悪用や誤作動などのリスク、技術的・制度的なリスク管理策を整理している。ファストスの物語と重なるのは、AIそのもののミスアライメントを描いている点ではなく、技術の用途と影響を開発初期に見通し、必要な統治手段を先回りして整えることの難しさである。

■ユニ・マインドと統合情報理論

クライマックスでは、地球にいるエターナルズが「ユニ・マインド」によって結びつき、そのエネルギーがセルシへ集中する。これによりセルシの物質変換能力が増幅され、出現しつつあったティアマットを大理石へ変えることが可能になる。

この描写には、複数の構成要素が結合し、個々の要素だけでは生じない全体的な働きを生み出すという情報統合のイメージを重ねられる。意識を情報の統合という観点から説明しようとする代表的な理論が、神経科学者ジュリオ・トノーニが提唱した統合情報理論(IIT)である。

IITは、システム全体が部分を超えて持つ因果的な情報の統合を「Φ(ファイ)」などの概念で表し、意識の性質や量との関係を説明しようとする。単に多数の装置や人間を接続すれば一つの意識になるという理論ではなく、システム内部の構成要素が互いにどのような影響を及ぼし、分割できない全体を形作っているかが重要になる。

ユニ・マインドがIITの具体的な予測を映像化したとはいえないが、独立した存在が一時的に結ばれ、個々の能力を超える全体的な作用を生むという構造には通じる発想がある。同時に、結合している間の「一つの存在」と、結合後に戻る個々の人格との関係は、作品が描く集団と自己のあり方を考える手掛かりにもなる。

IITには、その定義から直感に反する意識の帰属が導かれ得ることや、意識を十分に説明・測定できるのかをめぐる批判もある。確立した意識の測定法というより、意識と情報統合の関係を探る有力な理論的アプローチの一つとして研究と論争が続いている。

■エボニー・ブレードと鉛の神経毒性

ポストクレジットシーンでは、デイン・ウィットマンが一族に伝わるエボニー・ブレードを収めた箱を開ける。映画は剣の性質を詳しく説明していないが、コミックでは使い手の暴力性や流血への欲求を強める呪われた武器として描かれてきた。

物質への曝露が認知や行動へ影響するという広い観点では、エボニー・ブレードの呪いに神経毒性のイメージを重ねられる。その代表例が鉛である。鉛への曝露は神経系に害を及ぼし、特に発達段階にある子どもの認知機能へ影響することが知られている。

2025年に米国科学アカデミー紀要(PNAS)へ掲載された研究は、北極圏の氷床コア、古代ローマ時代の大気輸送モデル、現代の疫学研究を組み合わせ、銀や鉛の採掘・製錬に伴う大気汚染の影響を推定した。研究チームは、ローマ帝国最盛期のヨーロッパで、幼児の血中鉛濃度が新石器時代の推定背景値より約2.4マイクログラム毎デシリットル上昇し、集団平均のIQが約2.5~3ポイント低下した可能性を示した。

この研究が推定しているのは、主として幼少期の曝露による集団レベルの認知への影響であり、成人の道徳的判断だけを選択的に失わせる作用ではない。それでも、目に見えにくい物質への曝露が時間をかけて認知や行動へ影響するという構図は、「血の呪い」を持つ武器を考える科学的な補助線になる。

■作品を読み解く4つの科学的な補助線

『エターナルズ』は世界興行収入4億210万ドルを記録した一方、批評家の評価は大きく分かれた。多数の登場人物と神話的設定を一本の映画へ盛り込んだ構成も議論となった。マーベル・スタジオ社長のケヴィン・ファイギは2024年、『エターナルズ2』について「直近の計画はない」と説明している。

フェルミのパラドックス、コリングリッジのジレンマ、統合情報理論、鉛汚染研究は、映画が公式に採用した科学理論として示されているわけではない。それでも、惑星と文明の循環、善意から生まれた技術の制御、複数の存在を結ぶ力、物質が心身へ与える影響という設定には、それぞれ現実の研究と共通する問いがある。

こうした共通構造に注目すると、セレスティアルの出現は文明の行方を、ファストスの後悔は技術者の責任を、ユニ・マインドは個と集団の関係を、エボニー・ブレードは力と自制の関係を考えるための装置として見えてくる。科学は作品の設定を証明するものではなく、その人物描写とテーマを別の角度から味わうための補助線になる。

■注目ポイントQ&A

●セレスティアルの誕生は、フェルミのパラドックスとどう結びつくのですか?

文明が十分に発展すると、その惑星でセレスティアルが出現し、文明が宇宙へ広がる前に惑星ごと失われるという物語上の答えになります。グレートフィルターを、セレスティアルの生命循環に置いた宇宙像として読み解けます。

●ファストスの葛藤とコリングリッジのジレンマには、どのような共通点がありますか?

技術が変更しやすい初期には長期的な影響が分からず、影響が判明した時点では社会に定着して制御が難しくなっているという構造です。ファストスは善意で与えた知識がどのように利用されるかを制御できず、後から知識を取り消すこともできませんでした。

●ユニ・マインドは統合情報理論を表しているのですか?

映画がIITを直接採用したと確認されているわけではありません。複数の構成要素が密接に結びつき、個々の能力を超える全体的な作用を生むという情報統合の構造に、IITと通じる発想を見いだせます。

●エボニー・ブレードの呪いと鉛の毒性には、どのような共通点がありますか?

物質が認知や行動へ影響を及ぼすという広い構図が共通しています。鉛汚染研究は、主に幼少期の曝露による集団レベルの認知への影響を扱っており、剣が成人の自制心だけを奪うという設定を裏付けるものではありません。

元記事: Eternals Hid Four Real Disciplines: AI Safety, Consciousness Theory, Fermi Paradox, Lead

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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