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AIによる削減雇用は8.7万件超、一方で開発企業らは10億ドル規模のリスキリング基金「RAISE US」を設立

MCP (anthropic.com)[写真拡大]
米国におけるAIを理由とした人員削減が急増し、2026年5月時点で累計8万7,714件に達したことが民間調査で明らかになった。この事態を受け、AmazonやMicrosoft、OpenAI、Anthropicなどのテック大手は、影響を受ける労働者のリスキリング(学び直し)を支援する10億ドル(約1,620億円)規模の基金「RAISE US」を立ち上げた。本記事では、AIが雇用に与える二面性と、この新たな支援策の実効性を検証する。
■急増するAIによる人員削減と、テック大手の「10億ドル」基金
米国の雇用市場において、AIの影響が急速に顕在化している。再就職支援会社Challenger, Gray & Christmasのデータによると、2026年5月、米国企業が人員削減の理由として「AI」を挙げた件数は3カ月連続で首位となり、同月末までの累計で8万7,714件に達した。これは同社が2023年に同カテゴリの追跡を開始して以来、過去最高となる。テクノロジー分野だけでも、同年最初の5カ月間で12万3,653件の雇用が失われ、前年同期比で66%増加した。
このデータが公表されたわずか5日後の2026年6月25日、AI技術の開発を主導する企業らが、AIによって職を追われた労働者を再教育するための10億ドル(約1,620億円、1ドル=162円換算)規模の基金「RAISE US」の設立を発表した。
RAISE USは、ジーナ・レモンド前商務長官とエリック・ホルコム前インディアナ州知事が立ち上げた超党派の非営利団体である。Amazon、Anthropic、Microsoft、OpenAI Foundationをはじめ、20以上の企業や慈善団体がパートナーとして参画している。同組織はすでに目標額の半分にあたる5億ドル(約810億円)以上の資金を確保しており、アーカンソー、コネチカット、メリーランド、ユタの各州でパイロットプログラムを開始している。
その翌日の6月26日、Anthropicは労働力レポート「Economic Index」の6月号を公開した。約9,700人のアクティブなClaudeユーザーを対象とした調査では、回答者の35%以上が「今後12カ月以内に、AIが自分の仕事の大部分またはほぼすべてを処理するようになる」と予想していることが分かった。
■Anthropicの調査結果が示す「楽観論」の盲点
Anthropicの調査は、回答者の主観的な予測だけでなく、実際のClaudeの利用セッションデータ(5月中旬から6月初旬の実際の利用データからランダムに抽出)と紐付けて分析された点が特徴である。
調査によると、回答者の約半数が「AIはすでに自分の業務タスクの50%以上を処理できる」と答え、4%は「今すぐにでもClaudeが自分の仕事のすべてを代替できる」と回答した。また、約60%が自分の仕事におけるAIへの露出度が1年前よりも高まったと回答している。さらに、タスクを完全にAIに委ねる「高度な自動化モード」でClaudeを最も頻繁に利用している層ほど、自身のキャリアの見通しに対して高い楽観論を示し、AIによって自分のスキルの価値が高まっていると回答した。
しかし、この調査結果には構造的な盲点がある。調査対象となった9,700人は、すでに日常業務に最先端AIを取り入れている「アクティブなClaudeユーザー」である点だ。つまり、彼らはAIによって「代替」されるのではなく、AIによって能力を「拡張」されている側の労働者である。
本当に深刻な雇用削減に直面しているのは、エントリーレベルの一般事務職や、基本的なコーディング、定型的な文書処理などを行う労働者であり、彼らはそもそもClaudeのアクティブセッションを生成していない。スタンフォード大学人間中心AI研究所(HAI)の「2026 AI Index」によると、22〜25歳の若手ソフトウェア開発者の雇用は2024年から約20%減少した一方、30歳以上の開発者の雇用は6%〜12%増加している。AIはソフトウェア開発という職種そのものを消し去っているのではなく、ジュニア開発者が担っていたエントリーレベルのタスクを消し去っているのだ。
■「RAISE US」の取り組みと、歴史が示すリスキリングの厳しい現実
RAISE USは、知事、雇用主、労働者、教育機関と連携し、米国の労働力がAI経済へ円滑に移行できるよう支援することを目指している。CEOに就任するレモンド氏は、「米国にはグローバルなAI競争を勝ち抜くための技術戦略はあるが、人材戦略がまだない。人材なしにリードすることはできない」と、その意義を強調する。
しかし、この取り組みの実効性には懐疑的な見方もある。RAISE USのアドバイザリーボードメンバーであるマサチューセッツ工科大学(MIT)の経済学者デビッド・オーター氏は、かつて中国からの輸入急増によって米国の製造業が打撃を受けた「チャイナ・ショック」を引き合いに出し、「『新しい仕事を見つければいい』という方針は、政策の敗北を意味する」と指摘する。
オーター氏らの研究によれば、2000年代に中国との競争で職を失った地域の労働市場は、その後10年以上にわたって低迷し、賃金や労働参加率は低いままだった。さらに、当時の政府による再教育プログラムや労働調整支援は、問題を効果的に解決できなかった。ブルッキングス研究所の2025年の分析でも、過去60年間にわたる米連邦政府の再教育プログラムを検証した結果、参加者の雇用率や所得に統計的に有意な改善は見られなかったことが示されている。
RAISE USがこれらの過去の失敗を克服できるかは未知数である。同組織は、単なる受講者数や訓練時間ではなく、「実際に労働者が良い仕事に就き、それを維持できたか」を成果指標(メトリクス)として測定する方針を掲げており、過去のプログラムとの差別化を図っている。
■10億ドルは十分な規模なのか
もう一つの疑問は、その規模である。テック大手4社(Amazon、Anthropic、Microsoft、OpenAI)が毎年AIインフラに投じる巨額の資金に比べれば、10億ドルという金額はごくわずかである。数千万人の労働者に影響が及ぶ可能性のある移行期において、この規模の支援で十分なのかという問いに対し、イニシアチブの設計者らは明確な回答を示していない。同組織の資料でも、これは「実験場」であり、完全な解決策ではないと位置づけられている。
AIツールを使いこなし、キャリアに自信を深めている労働者がいる一方で、キャリアの入り口となるエントリーレベルの仕事を失い、AIの恩恵から取り残される労働者も存在する。AI開発企業らが資金を拠出し始めたことは一歩前進だが、その投資のスピードと規模が、雇用削減のペースに追いつくことができるかどうかが、今後の焦点となる。
■注目ポイントQ&A
●2026年現在、AIによってどれほどの雇用が削減されていますか?
Challenger, Gray & Christmasの2026年5月の報告書によると、米国企業がAIを理由に挙げた人員削減数は、同月末時点で累計8万7,714件に達しています。これは2025年通年の5万4,836件をすでに上回り、同社が2023年に追跡を開始して以来、過去最高を記録しています。
●「RAISE US」とはどのような組織ですか?
ジーナ・レモンド前商務長官とエリック・ホルコム前インディアナ州知事が2026年6月25日に立ち上げた超党派の非営利団体です。Amazon、Anthropic、Microsoft、OpenAI Foundationなどが主要パートナーとして参画し、AI経済への移行に伴う労働者のリスキリングや就職支援を目的としています。10億ドルの目標に対し、すでに5億ドル以上の資金を確保しています。
●過去の労働者再教育プログラムは効果がなかったのですか?
ブルッキングス研究所の2025年の分析などによると、過去60年間にわたる米国の連邦再教育プログラムの多くは、参加者の雇用率や所得において統計的に有意な改善を示さなかったと報告されています。RAISE USは、この歴史的反省を踏まえ、受講者数ではなく「実際の就職・雇用維持」を成果指標として測定する設計を採用しています。
●Anthropicの意識調査結果にはどのような偏り(バイアス)がありますか?
調査対象となった約9,700人が、すでに日常的にAIツールを使いこなしている「アクティブなClaudeユーザー」である点です。そのため、AIによって業務が効率化(拡張)されている層の楽観的な意見が強く反映されており、AIによってエントリーレベルの仕事そのものを奪われ、ツールを使う機会すらない労働者の現状が反映されていないという指摘があります。
元記事: AI Cuts 87,714 Jobs While Its Makers Fund $1 Billion Worker Retraining Push
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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