ソフトバンクグループは10兆円の獲得機会を棒に振った? (2)

2023年11月30日 16:22

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 アームをエヌビディアに売却しようとしたSBGの思惑は、マーケットの寡占化を恐れて強硬に反対した半導体メーカーに加えて、独禁法への抵触を懸念した当局の反対も重なり敢えなく潰えた。

【前回は】ソフトバンクグループは10兆円の獲得機会を棒に振った? (1)

 アームをエヌビディアに売却して3兆5000億円の差益を手にすることを断念したSBGは、米ナスダックへのIPOで時価総額9兆円を実現したから、16年に約3兆円で買収した時との差益は約6兆円となる。

 20年にエヌビディアに売却していたら差益は3兆5000億円だったから、 上場に至った判断はSBG内で概ね妥当と判断されていた筈だ。意外だったのはマーケットの反応だろう。2年前に1万円を超えていたSBGの株価は、アームのIPOが無難に終了して含み益を6兆円上積みしたにも関わらず、未だに6200円辺りを推移している。

 SBGはとてつもない資金を動かす投資会社だから、追い風が吹けば兆円単位の利益を計上するが、逆風に遭えば損失も兆円単位になる。特に近年は好不調の波が顕著に現れる傾向を見せているから、投資家もおっかなびっくりでスタンスが定まらない。

 SBGが英アームをエヌビディアに売却すると発表したのが20年8月、売却を断念すると発表したのが22年2月だ。抵抗は多かったにせよ、腕利きの弁護士集団を抱えていると思われるSBGが、僅か1年半で宝物だったアームの売却を断念してIPOに舵を切った。もう少し切り口を変えた検討が出来たのではないかと思うが、決断の背景にウィーワークへの投資失敗に起因する、厳しい懐事情があったことは否めない。

 皮肉なことに、その後エヌビディアは生成AIブームに乗って驚異的に成長を続けており、22日現在の時価総額は約183兆円となっている。

 もし、エヌビディアとの取引が伝えられていた条件のままで行われて最大で8.1%のエヌビディア株の譲渡を受けていたら、現在は約14兆8000億円になっている計算だ。約4兆2000億円のキャッシュと合計すると合計で19兆円になる。

 結果として、16兆円になったかもしれない儲けが6兆円止まりになったから、みすみす10兆円分をフイにした訳だ。

 もちろん6兆円でもとんでもない金額だが、アームの含み益にエヌビディアの好調な業績が掛け算になって、3兆円の買い物が19兆円に化けていたら、孫正義神話の第2幕が花開いたことは間違いない。「孫氏の胸中や如何に?」というところである。

 「レバ」・「たら」を重ねた妄想のような話なので、孫氏がいつまでも悔やんでいるとは思えないが、実現していたらウィーワークの経営破綻を「私の人生の汚点」と総括した孫氏の威信と自信は、一気に回復していたことは間違いない。逃した魚は大きい!(記事:矢牧滋夫・記事一覧を見る

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