後継者不足の切り札となるか、サーチファンド

2023年5月5日 08:54

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 日本の中小企業における後継者不足問題は深刻である。事業承継ができない場合、廃業する他に選択肢がなくなってしまう。この課題の解決を目的に、日本政策投資銀行がファンド運営会社として「株式会社サーチファンド・ジャパン」を立ち上げた。

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 サーチファンドに迫る前に、後継者不足問題を詳しく見てみる。帝国データバンクが、2022年11月に「全国企業「後継者不在率」動向調査(2022)」を発表している。それによると、全国の中小企業で後継者が不在となっているのは57.2%にものぼる。不在率は5年連続で低下しているものの、高い割合を示している。

 地域別では、島根県が最も不在率が高く75.1%となり、次いで島根県、秋田県、北海道、沖縄県となっている。業種別では、建設業、サービス業で高い数値を示している。但し、地域別で見ても業種別で見ても悪化と改善が混じっており、地域の金融機関の支援が功を奏しているケースも存在する。

 後継者不足に陥る原因として主なものは、親族内での継承が当たり前ではなくなったことや、少子化により若い世代がそもそも減っていること等が指摘されている。内閣府の調査でも東京圏への勤労世代の人口流入は続き、その理由は機会や給与面が理由となっており、「家業を継ぐことが当然」ではなくなっていることが、うかがえる。

 また後継者不足の原因として、事業自体への不安も挙げられる。日本経済全体が低迷する中で、将来的な発展を見込むことが難しい事業内容である場合、不安定な経営を引き継ぐことは難易度が高いと言える。

 このような環境下で立ち上げられたのが、冒頭のサーチファンドである。サーチファンドは、経営意欲のある個人が経営者として企業を再成長させる場を提供し、そのために必要な情報や資金を提供する仕組みである。もともとはアメリカのビジネススクール卒業生から始まった仕組みで、欧米では広がりを見せている。

 経営者を目指す人にとっては、対象の企業を探し出すことで少額の資金でM&Aを通じて経営を行えることになり、後継者を探す企業にとっては事業を承継できるというメリットがある。またサーチファンドに投資する投資家にとっても、有望な人材や投資先にアクセスできることになる。

 今後の課題としては、優秀な経営者候補の発掘にあるだろう。若手経営人材支援も掲げるだけに、経験の浅い経営者候補を育成する活動も欠かせない。地域や日本全体の競争力を強化することにつながる試みであることから、今後の発展に期待したい。(記事:Paji・記事一覧を見る

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