原油高懸念を払しょくできるか? FRB議長による議会証言 後編

2021年7月13日 16:08

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 「インフレは一時的であり、利上げは急がない」として市場への平静を呼びかける一方で、高騰し続ける原油価格に対しては穏やかではないというのがFRBの本音である。原油価格が物価に与える影響は大きく、期待インフレ率との相関性も高い。このまま原油高が続けば「インフレは一時的である」という論調は当然苦しくなる。

【前回は】原油高懸念を払しょくできるか? FRB議長による議会証言 前編

 まず、ここ数年についての原油価格の動向を振り返ると、2020年はコロナ禍の影響を受けて、原油の先物市場がマイナス価格になるなど、原油需要の落ち込みに即して原油価格は市場最安値を更新していた。その後、ワクチン接種などによる経済の正常化を見越して右肩上がりに価格は上昇しており、1年と3カ月が過ぎた現在は、1バレル75ドル程度である。

 過去にも同様な値動きがあったが、それがリーマンショック直後の動きだ。リーマンショックの影響を受ける前、2008年ごろの原油価格は1バレル約150ドルにまで高騰していたが、リーマンショックにより1バレル約40ドルにまで暴落した。その後は2年ほどかけて60ドルほど上昇し、1バレル約100ドル程度に回復した。つまり現在は、リーマンショック時よりも早いペースで原油価格が上昇しているのだ。

 加えて、原油価格の騰落に強い影響を及ぼすOPECプラス(サウジアラビアなどの中東諸国から構成される石油輸出国機構に、ロシアなどを加えた組織)についても、元々親密なはずであるサウジアラビアとアラブ首長国連邦との対立で生産調整の協議は物別れとなり、上昇への歯止めとなりそうもない状況だ。

 もっとも、サウジアラビアの実力者であるムハンマド・ビンサルマン皇太子は、アラブ首長国連邦のリーダー的存在であるムハンマド・ビンザイド皇太子と特に親密であり、両国の利害関係も一致している。そのため、近いうちに生産調整の合意がとれるという楽観的な見方があることも間違いない。

 だが万が一、生産調整の協議が長期間まとまらず、原油価格が上昇し続けることになった場合には、インフレリスクだけではなく、経済正常化の足かせになる可能性も十分にあり得る。パウエルFRB議長はどのような見解を示し、市場と対話を続けるだろか。今週の議会証言には十分に注目されたい。(記事:小林弘卓・記事一覧を見る

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