抗がん剤による末梢神経障害のメカニズム解明 予防・治療に期待 京大

2021年3月1日 07:28

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研究の概要(画像: 京都大学の発表資料より)

研究の概要(画像: 京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 がんの治療に用いられる抗がん剤は、効果とともに副作用も持ち、その副作用が原因で治療を中断せざるを得ないことも少なくない。そのため、副作用をどのようにして防ぐかは重要な課題となっている。

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 卵巣がん、乳がん、小細胞肺がんなどに用いられるタキソン系の抗がん剤を投与したときに50%ほどの割合で発生する副作用が、手足の先のしびれや痛みが起こる「末梢神経障害」だ。京都大学の研究グループは、この副作用にガレクチン-3という分子が関与していることと、その発症メカニズムを明らかにした。この結果をもとに、副作用の予防法、治療法が確立されていくことが期待される。

 本研究は京都大学の今井哲司講師、小柳円花博士課程大学院生、中川貴之准教授、松原和夫教授、同附属病院の川口展子特定病院助教らの共同研究グループにより行われた。研究の成果は、2月20日にCancer Reseachにオンライン掲載されている。

 パクリタキセルやドセタキセルなどのタキソン系の抗がん剤は、細胞分裂を阻害することでがん細胞を攻撃するタイプの薬剤だ。効果などの観点から治療に選択されることが多いが、副作用として起こる末梢神経障害が重症になると、治療を中断せざるを得なくなる。その痛みは鎮痛剤による治療では効果が不十分だ。デュロキセチンといううつ病や神経障害性の痛みに効果を持つ薬剤に効果があることは判明しているが、あくまでも症状を抑えるにとどまる。

 研究グループは、まずラットの末梢感覚神経質組織からシュワン細胞を単離・培養した。シュワン細胞とは、神経の軸を覆う細胞で、繋がったソーセージのように神経上でくびれている。神経を守ったり、神経の伝達のスピードを上げる働きを持っている。

 この培養シュワン細胞をタキソン系の抗がん剤で処理したところ、シュワン細胞の形や性質は変化し、ガレクチン-3を分泌するようになった。ガレクチン-3とは免疫細胞であるマクロファージを呼ぶ働きを持つ分子である。

 続いて、タキソン系抗がん剤を反復して与えて末梢神経障害を生じているマウスの血液中で、ガレクチン-3の濃度が上がっていることを発見。同様に末梢神経障害が生じているヒトの乳がん患者の血中でもガレクチン-3が増加していることを確認した。

 増加したガレクチン-3は、マクロファージを神経細胞の周辺に呼び寄せ、神経の炎症を引き起こし痛みを生じることが判明。さらにガレクチン-3を遺伝的に作れないマウスや、ガレクチン-3の阻害剤を用いると、タキソン系抗がん剤を与えてもマクロファージは神経へ集まらなくなり、その結果痛みを示す行動が抑えられることもわかった。

 以上のことより、ガレクチン-3は末梢神経障害を引き起こす分子であることが明らかになった。この物質が末梢神経障害を生じている患者においても増加していることがわかったことは、大きな前進と言えるだろう。

 今後、抗がん剤治療に伴う末梢神経障害を予防及び治療する方法や薬剤が開発され、副作用が原因で治療中断をする患者が減少していくことを期待したい。(記事:室園美映子・記事一覧を見る

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