生命誕生の鍵を握る恒星の風 アルマ望遠鏡がアンタレスの大気詳細を明かす

2020年6月19日 07:19

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アルマ望遠鏡とVLAで観測したアンタレスの電波画像 (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), E. O’Gorman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello

アルマ望遠鏡とVLAで観測したアンタレスの電波画像 (c) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), E. O’Gorman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello[写真拡大]

 さそり座の心臓部に輝く1等星・アンタレス。地球から約500光年彼方にある赤い天体は、「赤色超巨星」と呼ばれる年老いた恒星だ。国立天文台は17日、アルマ望遠鏡や米電波望遠鏡カール・G・ジャンスキー(VLA)を活用し、アンタレスの大気を詳細に描くことに成功したと発表した。

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■恒星風が解き明かす生命誕生の謎

 恒星は水素の核融合により燃え続けている天体だ。燃料である水素が少なくなってくると、恒星は膨張し赤色巨星へと変貌する。赤色巨星の中でも太陽の10倍以上の質量をもつのが赤色超巨星で、アンタレスのほかにもオリオン座のベテルギウスなどが該当する。

 赤色超巨星の表面からは「恒星風」と呼ばれるガスが宇宙空間へと流れている。生命にとって不可欠な重元素がこの恒星風に含まれているため、赤色超巨星から流出する恒星風のメカニズムを理解することは、生命誕生の謎を解き明かす鍵になる。だが、恒星風が流れ出るメカニズムは不明だという。

■予想よりも低温だったアンタレスの彩層

 アイルランドのダブリン高等研究所などの研究者らから構成されるグループが注目したのが、アンタレスだ。地球にもっとも近い赤色超巨星であるため、恒星風が詳細に観測されるという。

 研究グループは、短い波長の電波を観測できるアルマ望遠鏡と、長い波長の電波を観測できるVLAを活用し、アンタレスを観測。アルマ望遠鏡で天体の表面を調べ、VLAで大気外層部を調べたところ、周囲のガスは12倍の広がりをもつことが明らかになった。

 またコロナの内側にある彩層はアンタレスの半径の2.5倍まで広がり、天体内部から湧き上がる対流によって生まれる衝撃波や磁場によって温められていることが判明した。過去の観測から推測されたよりも彩層が3,500度と低温だったという。研究グループによると、過去の観測で活用した可視光赤外線は高温のガスに対し感度が高いことが原因だとしている。

 研究の詳細は、欧州天文学誌Astronomy and Astrophysicsに16日付でオンライン掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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