脳領域が損傷を受けたのちに新たに神経路が形成される仕組み(写真:産業技術総合研究所の発表資料より)[写真拡大]
産業技術総合研究所(産総研)は7日、理化学研究所(理研)と共同で脳損傷後に形成される神経路を新たに発見したと発表した。脳の変化により機能を回復させるリハビリテーション技術の開発に役立てられるという。
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■脳の変化に着目したニューロリハビリテーション
脳の機能が回復するメカニズムを利用し機能全体の回復を目指すのが、ニューロリハビリテーションだ。
脳卒中など脳が損傷を受けたのち、リハビリテーションでも後遺症が残ることが多いという。発症後には介護を必要とすることから、機能回復のためにはニューロリハビリテーション等のリハビリ技術の高度化が課題になっているが、機能に回復をもたらす脳の変化については十分な理解が進展していないため、効率的な回復には及んでいない。
■運動機能の回復における脳変化が明らかに
研究グループはこれまで、モデル動物を用いた研究で、手の運動機能に関連する脳領域に損傷を与えリハビリを行なわせたところ、数カ月で手の運動機能が回復したことが判明した。
脳活動を撮影した結果、手足の筋肉の運動を司る運動野(第1次運動野)のもつ運動機能を、損傷を受けた周囲の運動野(運動前野腹側部)が代わりに制御していることが明らかになった。
研究グループは今回、リハビリ期間中に新しい神経路が形成されたことが原因とみて、神経路の変化の観察を試みた。ビオチン化デキストランアミン(BDA)を導入することで、神経細胞内において取り込まれ電気信号を伝える部位(軸索)を移動するなど、神経路が可視化できるという。
BDAを運動前野腹側部に注入し約1カ月後に観察したところ、健康状態にある個体では存在しない神経路の形成が小脳核で確認された。
運動前野腹側部から小脳核に形成される新しい神経路の機能は明らかになっていないが、研究グループによると、小脳核から脊髄へとつながる神経路があることから、運動前野腹側部の情報を伝えるために神経路が形成されたとみている。
研究グループは今後、遺伝子レベルの変化や神経ネットワークの構造変化を解析し、脳損傷後に起きる機能回復のプロセスのさらなる解明を目指す。また外部機関と提携し、新しいニューロリハビリテーション技術の開発を目指すとしている。
研究の詳細は、米科学誌Journal of Neuroscienceにて3日に掲載された。(記事:角野未智・記事一覧を見る)
関連キーワード理化学研究所(理研)、産業技術総合研究所(産総研)、遺伝子、神経細胞
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