細胞の情報伝達を光でコントロールすることに成功 京大の研究

2019年9月11日 20:00

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研究の概要図(写真:京都大学の発表資料より)

研究の概要図(写真:京都大学の発表資料より)[写真拡大]

 生命をより理解するためには、生きたままの個体において、神経細胞等の細胞間の情報伝達を操作する必要がある。近年注目を浴びるのが、「光遺伝学(オプトジェネティクス)」と呼ばれる、光を活用した手法だ。京都大学は10日、増殖や分化をつかさどる分子の活性化を、従来困難だった単一細胞内でコントロールすることに成功したと発表した。

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■神経科学研究を変えた光遺伝学

 生物のなかには、光を感じることができる「光活性化タンパク質」を有した種が存在する。遺伝子操作により、植物や細菌由来の光活性化タンパク質を神経細胞に発現させることで、細胞の活性化をコントロールし、生体機能を操作するのが光遺伝学だ。

 京都大学の研究者から構成されるグループは、細胞内の情報伝達を光でコントロールするため、シロイヌナズナ由来の青色光を感じることができるタンパク質「クリプトクロム(CRY)2」を利用した。青色光をCRY2が吸収すると、構造変化を起こし、さまざまなタンパク質と相互作用する。そのため、光遺伝学のツールとして応用されている。

 だが従来の光遺伝学の手法では、3次元空間で狙った細胞だけを活性化するのは困難だった。細胞の観察やタンパク質の活性化には、二光子励起顕微鏡が用いられる。二光子励起顕微鏡は、レンズの焦点において、2個の光子が同時に分子に吸収され励起を起こすため、組織深部の観察を可能とするだけでなく、分子を励起させることもできる。だがCRY2は、ニ光子での活性化効率が非常に悪く、二光子励起顕微鏡の光では活性化されないという問題があった。

■ノーベル化学賞が授与された蛍光タンパク質を利用

 研究グループが着目したのが、2つの蛍光分子を近接させると、エネルギーが輸送される「蛍光共鳴エネルギー移動」だ。オワンクラゲ由来の蛍光タンパク質を活用し、蛍光共鳴エネルギー移動によって、CRY2を二光子励起で活性化する技術を開発した。

 研究グループは、開発手法の検証のため、さまざまな細胞の増殖や分化、移動などに重要な機能を果たす分子「細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)」の活性コントロールを試みた。

 ERK分子を光で活性化することができるシステムを作製した結果、生きたマウスの皮膚等において、単一細胞レベルでERK活性がコントロールされた。この開発手法を用いて今回、細胞間でのERK分子の伝播が、正常時の皮膚では抑制されており、増殖時には促進されることを発見した。

 今後はこの手法により、生体細胞間における情報伝達の仕組みについて研究が進み、生物の働きや、病気のメカニズムなどについても解明されることが期待される。

 研究の詳細は、Nature Methodsオンライン版にて10日に掲載されている。(記事:角野未智・記事一覧を見る

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