超音速旅客機の夢、遥か(3) 立ちはだかる「燃費の壁」には「ファン」の風に乗って解決

2019年1月14日 21:40

印刷

ブーム・テクノロジーによる超音速旅客機のイメージ。(画像: JALの発表資料より)

ブーム・テクノロジーによる超音速旅客機のイメージ。(画像: JALの発表資料より)[写真拡大]

■3.「燃費の壁」には「ファン」で風に乗って解決

 ボーイング・707、ダグラス・DC8の競合の時代、続いて登場したボーイング・B727、ダグラス・DC-9ぐらいまででは、燃費で運行コストが掛かり、短距離に進出するには苦しかった。当時のジェットエンジンは、ターボプロップとターボジェットしかなく、短距離の燃費ではターボプロップを採用するしかなかった。それはYS-11で、現在でもローカル線はプロペラ付きとなっている。

【前回は】超音速旅客機の夢、遥か(2) 立ちはだかる「熱の壁」には、ゴルフでおなじみチタンだ

 さすがにジェット戦闘機でも通常は亜音速領域での運用が多く、燃費が良いほうが戦闘に有利であり、工夫が凝らされるようになった。それが「ターボファンジェット」だった。ターボプロップのプロペラではなく、ダクト内ファンとしてジェット噴流と混ぜて排気することにより、無用に速い噴流を適切に落として燃費効率を高めたのだった。つまり、ファンによってターボジェットより推力を効率良く得ることが出来、燃費を改善することが出来たのだった。当初はターボジェットに近いものだったが、「ファン」の径を大きく取り、燃費を改善し続けた。戦闘機では、超音速飛行時には「アフターバーナー」で再度燃焼させ、燃費は至極悪くなるが、戦闘状態などに対応できるようにしていた。

 少し古いが、トム・クルーズ主演の映画「トップガン」の中で、F14が航空母艦から発艦するときなど排気ノズルが開いて炎が噴き出している場面があるが、あれがアフターバーナーをふかしている状態だ。離陸時や急上昇など戦闘状態では、推力が2倍以上となっている時もある。もちろん、燃費は無視している状態だ。

 旅客機の場合は、アフターバーナーは装備していないで、あくまでも大きなファンで燃費を良くして、短距離でも採算が取れる機体を開発してきた。そして、超音速戦闘機などでも、巡行時などはほとんどが亜音速運用であり、効率を考えるとターボファンジェットが当然となった。今では、F35などのエンジンではターボファンでありながら、超音速飛行でもアフターバーナーを必要としなくなり、これこそ旅客機の超音速巡航が可能になった技術的背景だ。つまり、最後に残された課題を、「ファン」の風に乗って燃費を改善して解決したのだった。

 これは同時に、「運賃」を市場で受け入れられるレベルにできる可能性があることを示している。

■整備はIoT技術で解決

 これで、3つの大きな壁(問題)を解決できたことが技術的背景となり、超音速旅客機が再び企画される情勢となっている。現在、超音速機に限らないが、IoTによる各機関の状態を飛行中にメーカーなどで直接モニターできるようになり、初期の整備性の悪さも解決できる情勢となった。つまり、これまでの「定期整備」から、「壊れそうになったら事前に直す」ことがある程度可能となり、整備間隔も大きく取れる情勢となってきた。これで就航当初の整備性の問題も解決できる見通しがあり、期は熟しているが、製造の問題でテスラのように戸惑うことがないことを祈りたい。航空機は自動車ほどの量産ではないため、量産技術は職人芸の部分が大きいが、不良率では桁が2つほど違う精度を要求される。この製造と整備について、また甘く見ないことだ。

 今後、市場性があると判断されると、ボーイング、エアバスも必ず超音速機を造ってくるはずだ。その時は、ボーイング、エアバス、共に開発手法のノウハウがあり、急速な開発製造を行い、ブーム・テクノロジー社を出し抜く準備はできているものと言える。何しろ軍用機では超音速機は手慣れたものだから。また、開発プロセスもノウハウ十分であるのだ。つまり、三菱・MRJのようになる可能性があるのだ。ブーム・テクノロジー社の健闘を祈ろう。(記事:kenzoogata・記事一覧を見る

関連キーワード

関連記事