急成長するAI関連の技術・産業 米中2強に 雇用は逼迫も

2018年12月30日 20:00

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 近年の人工知能(AI)の発達は目を見張るものがある。アクセンチュアの「産業スポットライト」によるとAIの生産性革命は2035年までに14兆ドル(約1500兆円)の経済効果を生むと予測されている。今回発表されたスタンフォード大学らによる共同研究「AI INDEX 2018」では、AI関連の技術・産業が他の分野の50%以上の速度で伸びていることを示唆する報告がなされた。

 基礎的な技術開発の進捗に並行して、実装を目指す用途開発が広範な分野で進められ、今後の世の中を変えるコア技術として注目度は非常に高い。マッキンゼーのレポートによれば、アメリカではAIの活用事例としてロボットによる工程自動化、機械学習、そして会話型インターフェイスがトップ3としてあげられている。特にここ数年、アメリカを中心に機械学習に関する分野で爆発的な成長が見られ、AI関連企業は血眼になって人材の確保に走っている。

●AIに関する研究活動の成長

 「AI INDEX 2018」によると、AIに関する論文数は1996年から2017年の期間に全世界で8倍に増加。同期間のコンピューターサイエンスの論文は6倍の増加、全論文では2.5倍であり、AIに関する研究の発展は顕著である。特に2005年ごろから機械学習やニューラルネットワークなどに関する論文が増加し、AIによる画像処理の論文数も並行して増加。今、世界で最も注目されているテーマは深層学習であり、ここ4年間、論文数は年率37%の勢いで増加している。

 地域別に見ると中国の論文数が急増しており、同期間で約20倍に増加。同じ期間にアメリカは約4倍、ヨーロッパは5倍の増加で、論文数では中国はアメリカに迫る勢いである。中国のAI研究は国家主導の側面が強く、これに対してアメリカは民間企業が主体で、企業によるAI論文に限ればアメリカの論文数は中国の6.6倍となる。

 学会における発表数をみると、2018年のAAAI(アメリカ人工知能学会:Association of Advanced Artificial Intelligence)では、1位アメリカ268件、2位中国265件と拮抗。3位以下は40件弱と完全な二強体制である。一方、論文の参照数に関してはアメリカが強く、論文1件当たり中国の約2倍の参照率となっている。

● AIに関する企業活動の成長

 AIは特にアメリカの企業セクターで成長が著しい。AIをコアとした起業も盛んで、2015年から2018年の3年間でアメリカのAI関連起業数は2.1倍の増加。全起業数は1.3倍の増であり、AI企業は60%以上の起業率を示している。ベンチャーキャピタルのAI関連投資額は4.5倍に拡大した。

 このような状況を背景に、AI関連企業の雇用は逼迫している。2015年からの2年間でAI関連技術者の求人は5.9倍に増加。特に深層学習に関しては35倍に激増しており、企業は優秀な技術者を求めて非常な好条件のオファーや、学位取得予定者の青田買いも行われている。現在アメリカのAIエンジニアの平均給与は17万ドル(約1,900万円)と言われ、上位所得者では年収3,000万円を超える。

 ちなみに日本の状況を見ると、文部科学省の調べでは2001~2003年には世界6位であった論文数の順位が2011~2013年には10位に後退。AAAIでの発表数は2010年の8件から18年は30件と増加しているが、全体における比率は2010年の3%から18年は4%と微増にとどまっている。特許件数は2004年からの10年間で増加率2.5倍で、増加率はアメリカとほぼ同等だが登録件数は約半分。一方、韓国が2008年以降急速に成長し、2014年には年間特許登録件数で日本に追いつき、その後追い越した状態である。(記事:詠一郎・記事一覧を見る

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