モナ・リザは甲状腺機能低下症で苦しんでいた可能性 ハーバード大の研究

2018年9月10日 08:42

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ルーブル美術館のモナリザ。(c) 123rf

ルーブル美術館のモナリザ。(c) 123rf[写真拡大]

●皮膚の色と髪の毛の量から浮かび上がった可能性

 ハーバード大学医学大学院が『メイヨー・クリニック紀要』に発表したところによると、レオナルド・ダ・ヴィンチが描いた名作『モナ・リザ』のモデルとなった女性は、甲状腺を病んでいた可能性が高いという。

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 研究によると、レオナルドが描いたモナ・リザの黄味がかった肌の色、髪の量の少なさなどから「診断」された。正確には「甲状腺機能低下症」で苦しんでいたという。

●出産直後に描かれた肖像画

 Mandeep R. Mehra教授が率いる研究チームによると、モナ・リザのモデルとなったフランチェスコ・デル・ジョコンドの妻リーザ・ゲラルディーニは、この作品が注文された直前に出産していたことをほのめかす手紙が発見されたという。当時のフィレンツェに住む人々の食生活は海産物に恵まれていなかったこともあり、常にヨウ素が不足していたと考えられる。そのため、出産直後のリーザ・ゲラルディーニは、著しく健康を害していたと研究チームは指摘している。

●黄味がかった肌と薄い髪と眉が示すものとは

 研究は、カリフォルニア大学サンタバーバラ校の協力も得て進められた。

 まず注目されたのは、モナ・リザの肌の色である。独特の黄味がかった肌の色は、β-カロテンをビタミンAに変換できない症状を表している。また、薄い眉と髪の毛も肌の色と同様、甲状腺の機能が低下した場合の典型的な症状である。

 さらに、モナ・リザの首の部分の腫れも、甲状腺腫の症状を表現しているといわれている。モナ・リザの首の腫れ(puffy neck)については、1959年にイギリスのキール大学によってはじめて論文が発表されたのをはじめ、最近ではローマのウンベルト1世総合病院とヴィンチェンツォ・ステルペッティ教授が、ルネサンス時代の美術に認められる甲状腺腫について報告している。それによると、当時は甲状腺低下症で苦しむ人が少なくなかったという。

 また、『モナ・リザ』を名作たらしめた謎めいたほほえみは、実は精神的な不均衡や筋肉の衰弱が原因とする説もある。

●過去にも存在したモナ・リザの「診断」

 近年、美術作品からモデルとなった人物の健康状況を調査する研究が盛んになっている。

 『モナ・リザ』についていえば、2004年にリウマチの専門家と内分泌学学者からなる研究チームが、彼女の瞼にある脂肪沈着から遺伝性の高脂血症であったと発表し話題になった。また、この研究では、「モナ・リザの微笑み」はベル麻痺による可能性が高かったと報告されている。

 しかし、この説について今回の発表をしたハーバード大学とカリフォルニア大学の研究チームは否定的である。モナ・リザことリーザ・ゲラルディーニは、記録によれば63歳で亡くなっている。2004年の研究の通り彼女が高脂血症が原因のアテローム性動脈硬化症であったとすれば、それほどの長命はできなかったというのが理由である。

●モナ・リザの「甲状腺機能低下症」にも否定的な意見が

 とはいえ、モナ・リザと同時代の女性の肖像画には、故意に眉を薄くしたと思われる作品も多く、薄い眉が当時のモードであったという説も否定できない。

 また、肌の色については作品自体の劣化による色の変化である可能性がある。医学者がこだわる「微笑」も、レオナルド独特の表現方法であったという美術専門家は少なくない。

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