富士通研究所、世界最高の放熱性能を持つCNT放熱シートの開発に成功

2017年12月3日 15:40

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カーボンナノチューブを放熱材料として適用(写真:富士通研究所の発表資料より)

カーボンナノチューブを放熱材料として適用(写真:富士通研究所の発表資料より)[写真拡大]

 富士通研究所は11月30日、高熱伝導性と耐熱性を両立する垂直配向カーボンナノチューブ(CNT)から構成された世界最高の放熱性能を持つ高熱伝導カーボンナノチューブシートの開発に成功したと発表した。

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 CNTは炭素原子から形成された直径数ナノメートル程度の円筒状のナノテク材料の一つ。銅の10倍の熱伝導性や5,000倍の電流密度耐性といった優れた特性があり、車載向けをターゲットに開発を進めてきたという。

●車載向けシリコンカーバイド(炭化ケイ素、SiC)半導体などの需要に応える

 3月の富士経済の調査報告によれば、2025年のSiCパワー半導体世界市場は、2016に比べて、6.9倍の1,410億に達するという。

 世界的な二酸化炭素排出量削減に関する環境規制を背景に、電気自動車やハイブリッド車は急速に普及しつつある。そして、ガソリン車並の長い航続距離のニーズから、より低消費電力で高耐圧かつ高温環境下で使用可能なSiCの開発が盛んだ。

 この要求は、200度以上の高温領域でも安定動作するSiC素子の熱を効率良く排熱するため放熱材料を含む周辺部品にも高熱伝導や高温耐性が要求され、今回の開発に至る。

●CNTシートの特長

 今回、界面抵抗を含めた場合でも80ワット毎メートル・ケルビン(以下、W/mK)以上と従来の放熱材料に比べ極めて高い熱伝導率を示す高熱伝導CNTシートを実現したという。

 ここでは、多層CNT成長制御技術と多層CNTシート化技術を用いたという。

 成長制御では、熱伝導性が高くなる円筒の軸方向を排熱方向に合わせるための工夫から成る。合成温度、圧力、触媒金属微粒子を制御した結果だ。

 シート化技術では、2,000度以上の高温で加熱処理することで、熱伝導性が高い軸方向にCNTの配列を保持したままシート状に成形したという。

●半導体向け放熱シート(富士通研究所、CNT放熱シート)のテクノロジー

 CNT放熱シートは、既存の高熱伝導材料として知られるインジウムを原料とする放熱材料と界面抵抗も含めた実測値で比較した結果、3倍の熱伝導率を確認。また、インジウムの融点160度と比べて、CNT放熱シートの耐熱温度が700度と高い耐熱性も確認したという。

 これにより、次世代電気自動車やハイブリッド自動車の車載パワーモジュールを効率良く冷却することが可能となる。実用化は2020年以降の見込み。

 半導体の高集積化がさらに進めば、SiC以外のシリコン(Si)でも需要があると思われ、価格が妥当な範囲であれば、実用化の形は大きな関心を呼ぶであろう。^(記事:小池豊・記事一覧を見る

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