デジタルカメラで撮影するだけで橋のたわみを計測する技術とは

2016年9月5日 11:04

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記事提供元:エコノミックニュース

 橋梁の健全性は、車両通過時のたわみを基準に評価される。従来は、橋梁の床版と地面をピアノ線で繋ぎ、ピアノ線の伸縮からたわみを計測していたが、ピアノ線の取り付けに手間がかかることや、橋梁が山間部や渓谷に架かる場合や直下が海である場合などは、計測が困難になるといった課題を抱えていた。

 今回、国立研究開発法人 産業技術総合研究所(産総研)分析計測標準研究部門 非破壊計測研究グループ 津田浩 研究グループ長、李志遠 主任研究員は、東日本高速道路東北支社(NEXCO東日本 東北支社)、株ネクスコ・エンジニアリング東北(ネクスコエンジ東北)と共同で、デジタルカメラで橋のたもとから橋梁を撮影した画像を用いて、従来よりも簡単に、車両が通行する際に橋梁に生じるたわみ分布を短時間で計測できる技術を開発した。また、この技術を用いて、常磐自動車道の常磐富岡インターチェンジ(IC)と山元ICの間にある9つの橋のたわみ分布を計測する実証実験を行った。

 今回開発した技術では、モアレ縞の拡大現象を橋梁のたわみ計測に利用する。まず、格子模様のターゲットを取り付けた橋梁をデジタルカメラで撮影する。デジタルカメラの撮像素子画素は格子状に配置されているため、ターゲットの撮影画像は、ターゲットと撮像素子画素の二つの格子を重ねたことに相当する。撮影画像をデータ処理して撮影素子画素とターゲットの格子間隔を近づけて、モアレ縞を生成させる。生成したモアレ縞の位相値の変形前後の変化からターゲットを取り付けた部分の変位を算出する。

 また、当初のモアレ計測方法では、橋梁のたわみ計測をするために測定ポイントの正面にカメラを設置する必要があったが、実際の現場において、定常的に測定ポイント正面にカメラの設置場所を確保することは難しい。そのため、橋梁の維持・管理の面からは、橋梁側面の斜め方向にカメラを設置するか、また可能であれば橋梁構造の一部である橋台にカメラを設置して、たわみを計測できることが望ましい。そのため、カメラからの距離によって、撮影されるターゲットの格子間隔が変化することや、計測時のカメラの揺れを補正することを考慮して、新たなたわみ計測アルゴリズムを開発し、橋梁の斜め方向や橋台にカメラを設置してたわみを計測できるようにした。

 この実験では橋梁の壁高欄にターゲットを取り付け、2台の散水車が時速60 kmで橋梁を通過する際に橋軸方向から撮影されたターゲットの画像を用いてたわみを計測した。2台の散水車が測定ポイントであるターゲットを通過した時にそれぞれ約0.6 mmのたわみが計測された。また今回の技術で測定したたわみ量は、従来のリング式変位計で測定したたわみ量と良く一致した。

 今回の技術では、測定に必要な準備はターゲットの取り付けとカメラの設置のみのため、準備を含めて一日で計測でき、従来技術よりも大幅に日程とコストを削減できる。また、これまでたわみ計測が難しかった河川や山間部、渓谷や海に架かる橋梁でも、橋台部にデジタルカメラを設置すればたわみ量を計測できるようになり、たわみ計測による橋梁の健全性評価を大幅に拡大できる。簡便でありながら高精度なたわみ計測を実現し、老朽化が問題視される社会インフラの健全性評価を大幅に効率化できる新たな技術として期待されるとしている。(編集担当:慶尾六郎)

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