日本で流行している非結核性抗酸菌を対象とした必須遺伝子の網羅的同定に世界で初めて成功
配信日時: 2026-06-26 11:05:26
―新規抗菌薬の標的探索に向けた重要な基盤情報になる可能性―
[画像1]https://digitalpr.jp/simg/2299/137862/600_71_202606261031426a3dd67e50c43.png
藤田医科大学(愛知県豊明市)感染症研究センターの澤井宏太郎助手、港雄介准教授、土井洋平教授らの研究グループは、広島大学(広島県東広島市) IDEC国際連携機構の丸山史人教授、神戸市健康科学研究所(兵庫県神戸市)の岩本朋忠所長らとの共同研究により、日本の患者居住環境由来の非結核性抗酸菌※1Mycobacterium avium subsp. hominissuis(MAH)において、生存に不可欠な「必須遺伝子※2」を網羅的に同定しました。
これまでMAHの研究は、日本の臨床で問題となっている菌株とは異なる遺伝系統の株を用いて行われることが多く、実臨床で重要な系統の理解は十分ではありませんでした。本研究では、世界に先駆けてトランスポゾン挿入シーケンス※3解析とパンゲノム※4解析を統合し、日本で流行している東アジア系統のMAH菌株と他系統の比較解析を実施しました。
その結果、遺伝系統を超えて共通する必須遺伝子と、系統ごとに異なる必須遺伝子の存在を明らかにするとともに、遺伝子の必要性が菌株によって変化する「必須性の可塑性」を初めて示しました。
これらの成果により、今後、日本の臨床で問題となっているMAH菌株の特徴解明が進み、新規抗菌薬の標的探索に向けた重要な基盤情報となることが期待されます。
本研究成果は、英国の学術ジャーナル「Microbial Genomics」のオンライン版にて、2026年6月26日に公開されました。
論文URL:
https://www.microbiologyresearch.org/content/journal/mgen/10.1099/mgen.0.001753?originator=authorOffprint&identity=216099&ts=20270625160125&signature=61df03874c8fb77b0be76ff5e38394cc
<研究成果のポイント>
日本で流行しているMAH(東アジア系統)を対象とした必須遺伝子の網羅的同定に世界で初めて成功
MAH菌株間で必須遺伝子の保存性が低いことを明らかに
系統ごとに異なる必須遺伝子の存在と、「必須性の可塑性」を初めて解明
<背 景>
非結核性抗酸菌による肺疾患(NTM-PD)は近年世界的に増加しており、日本では特に高い罹患率が報告されています。その主要な原因菌であるMAHは、土壌や水環境などに広く存在し、複数の遺伝系統に分かれています。中でも、日本や韓国で多くの患者を引き起こしている系統は「East Asia系統」と呼ばれます。
一方、NTM-PDの創薬研究は主に欧米で進められており、研究対象となる菌株はEast Asia系統とは異なるものが中心でした。そのため、日本で実際に問題となっている菌株の性質は十分に理解されていませんでした。
特に、細菌の生存に不可欠で抗菌薬の標的となる「必須遺伝子」については、系統間でどの程度共通性や違いがあるのかは未解明の重要課題でした。
<研究手法・研究成果>
本研究では、日本の患者浴室環境から分離されたMAH菌株を対象に、トランスポゾン挿入シーケンス(Tn-Seq)法による遺伝子必須性解析を実施しました。解析には、遺伝子にランダムに変異を導入した「トランスポゾン変異株ライブラリ」の作製が必要ですが、MAHはこの作製効率が低く、これまで世界でもわずか2株でしか解析が行われていません。
研究グループは、複数菌株で条件を最適化しプロトコルを改良することで、日本の患者環境由来のMAH 3株について高密度ライブラリ作製に成功し、必須遺伝子の網羅的同定を達成しました。
さらに、得られた東アジア系統3株のデータと既存の他系統データを比較解析した結果、
系統に関わらず共通する124のコア必須遺伝子を同定
約200以上の遺伝子で菌株ごとに必須性が変化
することが明らかとなりました。
これにより、遺伝子の必須性は固定的なものではなく、菌株や系統に応じて変化する「必須性の可塑性」が存在することが示されました。
<今後の展開>
本研究は、日本の臨床で問題となっているMAHにおける遺伝子必須性の全体像を初めて明らかにした点で重要な成果です。
一方で、系統間で共通する必須遺伝子は想定より少なく、菌株間の違いが大きいことが明らかとなりました。既存抗菌薬の標的遺伝子については大きな差は見られなかったものの、新規薬剤標的候補の一部では菌株間で必須性の違いが確認されました。
今後は解析対象となる菌株数をさらに拡大し、系統ごとの特徴をより詳細に明らかにすることで、創薬ターゲットの精緻化や個別化治療戦略の構築につながることが期待されます。
<用語解説>
※1 非結核性抗酸菌(NTM)
結核菌以外の環境中に存在する抗酸菌の総称で、肺疾患の原因となる。
※2 必須遺伝子
生物が生存・増殖するために不可欠な遺伝子であり、抗菌薬の標的となる。
※3 トランスポゾン挿入シーケンス(Tn-Seq)
遺伝子にランダム変異を導入し、その影響を解析することで、生存に必要な遺伝子を特定する手法。
※4 パンゲノム
同一種に属する全菌株が持つ遺伝子の総体。全株共通の「コア遺伝子」と可変遺伝子から構成される。
<文献情報>
論文タイトル:
Integrated analysis of transposon insertion sequencing and pangenome reveals core and lineage-specific essential genes in Mycobacterium avium subsp. hominissuis
著 者:
澤井宏太郎、猪飼まりえ、篠原基子、西内由紀子、藤吉奏、土井洋平、岩本朋忠、有川健太郎、丸山史人、港雄介
所 属:
藤田医科大学、広島大学、神戸市健康科学研究所 ほか
D O I:10.1099/mgen.0.001753
本件に関するお問合わせ先
学校法人 藤田学園 広報部 TEL:0562-93-2868 e-mail:koho-pr@fujita-hu.ac.jp
プレスリリース情報提供元:Digital PR Platform
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