米インテル、Classiq買収で量子ソフト基盤を強化へ―約23億ドルの取引と報道

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Intelは2026年10月26日、イスラエルのテルアビブに拠点を置く量子ソフトウェア企業Classiq Technologiesを買収する最終契約を締結したと発表した。自社のシリコンスピン量子ビット、制御技術、半導体製造基盤にClassiqの量子回路合成技術を組み合わせ、ハードウェアからアプリケーション開発までを支える事業の構築を目指す。
イスラエルの経済メディアCTechによると、買収対価は現金とIntel株式を合わせて約23億ドル(約3630億円)となる。取引は規制当局の承認などを条件に2027年前半の完了を見込み、それまでは両社が独立して事業を続ける。
■量子ハードウェアとソフトウェアを一体化
Intelは、Classiqの買収によって量子コンピューティング部門を、ハードウェアとソフトウェアを包括的に提供する事業へ発展させるとしている。Classiqは、開発者が量子回路の細かな実装を一から指定する負担を減らし、アルゴリズムの開発を支援する企業だ。
CTechは今回の取引を、量子コンピューティング企業の買収として過去最大規模と報じている。比較すると、IonQが2025年に発表したOxford Ionicsの買収額は約10億7500万ドルで、今回報じられた金額はその2倍超となる。
買収発表は、Intelが米国時間10月29日に予定する2026年第3四半期決算発表に先立って行われた。SiliconANGLEによると、Classiqは取引完了後、Intelの量子コンピューティング分野におけるグローバル開発拠点となる予定だ。
Intelは買収後も、Classiqの既存の複数プラットフォームとの連携を支援し、量子ビットの方式やハードウェアに依存しないソフトウェアを維持する方針を示した。自社の量子チップ開発を進めながら、他社の装置を使う開発者にもソフトウェアを提供する構えである。
■Cadenceの経験と重なる設計自動化の発想
IntelのLip-Bu Tan最高経営責任者(CEO)は、2009年から2021年までCadence Design SystemsのCEOを務めた。Intelの人物紹介によると、在任中にCadenceの売上高は2倍超に拡大した。Tan氏はシンガポールの南洋大学で物理学の学士号を、米マサチューセッツ工科大学(MIT)で原子力工学の修士号を取得している。
Cadenceが手掛ける電子設計自動化(EDA)は、回路の設計、論理合成、配置配線、検証などを支えるソフトウェア群である。設計者が記述した機能を実装へとつなぐ役割を担い、複雑な半導体の開発を支えてきた。
CTechによると、Tan氏は2026年9月公開のQuantumJaneのインタビューで、Classiqが量子コンピューティングの「次のCadence」を目指していると説明した。アルゴリズムの記述と個々の装置の実装との間をソフトウェアがつなぐという点で、両社の発想は重なる。
1980年代以降、Cadence、Synopsys、Mentor Graphicsなどの設計ツールは、半導体開発を支える基盤となってきた。量子分野でも回路が複雑になるほど、計算内容と実装の詳細を分けて扱う設計手法の重要性が高まる。Intelも今回の発表で、Classiqの役割をEDAやコンピュータ支援設計(CAD)が果たしてきた役割になぞらえている。
■Qmodから装置に適した量子回路へ
Classiqのプラットフォームは、高水準言語でのモデル記述、量子回路の合成・最適化、ハードウェアやシミュレーターでの実行をつなぐ。中心となるのが、量子モデリング言語「Qmod」と独自の合成エンジンだ。
QmodはPython SDKやウェブベースの統合開発環境(IDE)から利用できる。開発者は量子関数や量子変数などを使って計算内容を記述し、低水準のゲート列を生成する作業を合成エンジンに任せられる。計算の目的を高い抽象度で表現する点は、従来のプログラミング言語にも通じる。
合成エンジンは、使用可能な量子ビット数を示す回路幅、ゲート操作の層数を示す回路深さ、ゲート数、量子ビット間の接続などの条件を考慮し、実装候補と資源配分を探索する。Classiqは2025年5月時点で、量子モデリングとコンパイルの中核技術について60件超の特許を出願したと発表している。
装置ごとに利用できるゲートや量子ビットの接続構造が異なるため、同じアルゴリズムでも実装は変わる。Classiqは対象装置に合わせた変換に対応し、生成したプログラムをOpenQASMなどの回路記述形式へ書き出せる。装置の特性を考慮して回路深さやゲート数を抑えることは、限られた資源を活用するうえで重要になる。
Classiqが公表する連携先には、Amazon Braket、Microsoft Azure Quantum、Google Cloudがある。IBMやIonQなどのハードウェア、NVIDIAやIntelなどのシミュレーターにも対応する。回路が大規模になるほど設計と最適化の負担も増すため、自動合成は開発者がアルゴリズムそのものに集中するための手段となる。
利用企業としてClassiqはBMW、Citi、Deloitte、Rolls-Royce、みずほ、東芝を挙げ、CTechはHSBCの利用も報じている。同社が対象とする用途は金融モデリング、物流最適化、創薬、材料科学などに広がる。日本では、みずほ第一フィナンシャルテクノロジーが2025年4月、QmodとClassiqのコンパイラを使った金融向け量子アルゴリズムの回路圧縮に関する成果を公表している。
■Intelが進めるシリコンスピン量子ビット
量子コンピュータには、超伝導回路、イオントラップ、光、中性原子、半導体スピンなどの方式がある。IBMやGoogleは超伝導量子ビットの開発を進め、Intelはシリコン中の電子スピンを使う方式に取り組んできた。Googleは2026年3月、中性原子方式にも研究を拡大すると発表している。
シリコンスピン量子ビットは、量子ドットと呼ぶ微小な領域に閉じ込めた電子のスピン状態に情報を符号化する。既存の半導体製造技術を活用し、小さな素子を多数集積できる可能性が、この方式の魅力である。
Intelが2023年に公開した研究用チップ「Tunnel Falls」は12量子ビットのデバイスだ。オレゴン州ヒルズボロのD1施設で300ミリメートルウエハーを用いて製造され、極端紫外線(EUV)リソグラフィや、従来の半導体量産で使われる加工・工程管理技術を取り入れている。製造技術と素子の評価結果は、査読誌Nano Lettersでも報告された。
Intelの2023年の説明では、量子ビット素子は約50ナノメートル四方で、他方式の量子ビットより最大で約100万分の1の大きさだという。同社は、小型性と半導体製造工程との親和性を、大規模集積につながる利点と位置付けている。
大規模化には、素子の均一性、量子状態を保ちながら行う高精度な操作、読み出し、配線、極低温での制御を合わせて改善する必要がある。シリコンでは電子のエネルギー準位に関わるバレー分裂も重要な研究課題だ。多数の量子ビットを安定して動かし、誤り訂正を継続するためには、チップと制御系を一体で設計することが求められる。
■日本では日立・産総研との開発も進む
日立製作所は2026年7月22日、インテル日本法人との協力で提案したシリコン量子コンピュータの開発事業が、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の公募で採択されたと発表した。産業技術総合研究所(産総研)との共同研究を通じて進め、事業期間は2029年3月までを予定する。
日立によると、Intel 18Aを基盤とする量子デバイス製造プロセスを活用し、100量子ビット以上を搭載するチップの設計・実装技術を開発する。設計に必要なプロセスデザインキット(PDK)の整備に加え、1000量子ビット規模を見据えた高密度の3次元実装にも取り組む。
日立と産総研は、シリコン量子コンピュータの実験環境に対応するクラウドシステムも開発する。日立は2027年度のクラウドサービス開始を目指し、量子誤り訂正符号を実装した試作機について、2028年度に100量子ビット、2030年度に1000量子ビット規模の実現を目標としている。
産総研とIntelは2025年2月3日にも研究協力覚書を締結した。産総研の発表では、2030年代前半までに産業利用可能な数万量子ビットのシステムを目指し、部素材、実装、冷凍機、集積化、極低温制御回路などの分野で連携する。
こうしたハードウェア開発と、Classiqによる回路設計・最適化の技術は、量子計算基盤を構成する相互補完的な要素になる。他社装置への対応も維持する方針により、Intelは自社のシリコン方式を育てながら、さまざまな量子ハードウェア向けのソフトウェア開発に関わることになる。
■複数ハードウェアへの対応を維持する方針
Classiqの利用者にとって、既存のプログラムを異なる装置へ展開できることは重要な利点だ。装置の性能や利用条件が変化しても、計算モデルを生かして実装を調整できれば、開発資産を活用しやすくなる。Intelが掲げる既存連携の継続は、この利点に関わる方針である。
Classiqは2022年1月のブログでも、装置を選び直せる柔軟性を論じていた。同社が紹介したZapataの企業調査では、量子ベンダー選びで将来互換性や、ハードウェアに依存しない相互運用性が重視されていた。Classiqは、最適な装置が時間とともに変わることを、ソフトウェアの移植性を確保する理由として挙げている。
一方、Intelのソフトウェア事業では、自社の競争力をどう確保するかという議論もある。The Registerによると、データセンター事業を率いるKevork Kechichian氏は2025年10月、オープンソースへの投資がIntel自身の強みにもつながるよう、貢献の重点を見直す考えを示した。同社広報も、オープンソースへの関与を続けつつ、貢献先や方法を絞り込むと説明した。
Intelの資料では、正規表現処理ライブラリHyperscanは、公開版5.4がBSDライセンスで提供され、5.5以降の新しい版は独自ライセンスで顧客に提供されている。Classiqの利用企業にとっても、今後のライセンス条件と、各バックエンドへの接続方針は継続して確認する項目となる。
■投資家と従業員への対価
Classiqは2020年に設立され、2025年5月にはEntrée Capitalが主導するシリーズCで1億1000万ドル(約174億円)を調達したと発表した。CTechによると、Entrée Capitalはプレシード段階から出資した最大株主で、当初の数百万ドルの投資に対して3億ドル超を受け取る見通しだ。
同じ報道では、Team8 Capitalの保有比率は約9%、イスラエルの保険・金融グループThe Phoenixは7.5%とされる。報じられた買収額23億ドル(約3630億円)を単純に当てはめると、それぞれ約2億700万ドル、約1億7250万ドルに相当する。Phoenixを通じて運用するイスラエルの個人の資産にも、取引の成果が及ぶとCTechは報じている。
CTechによると、Classiqの従業員は約150人で、合計約10%の株式を保有する。その持ち分は23億ドル(約3630億円)の評価額で約2億3000万ドルに相当し、Intelは人材を維持するため1億ドル超の追加報酬も用意したという。共同創業者3人の受取額は、それぞれ8000万〜1億ドル(約126億~158億円)と報じられている。
共同創業者はNir Minerbi CEO、Amir Naveh最高製品責任者(CPO)、Yehuda Naveh最高技術責任者(CTO)で、Yehuda氏はAmir氏の父である。Minerbi氏とAmir氏はイスラエル国防軍の科学技術人材育成プログラムTalpiotの出身だ。Team8の人物紹介によると、Yehuda氏はIBM Researchで約20年を過ごし、ハイファの量子計算チームを設立して科学・技術面を率いた。
CTechはIBMをClassiqの主要な競合相手とし、市場の定義によってはClassiqが量子ソフトウェアのシェアで上回ったとする推計も紹介している。買収対価にはIntel株式が含まれるため、株主の最終的な受取額は株価などの条件に左右される。Investing.comによると、Intel株は2026年10月27日時点で年初来約145%上昇していた。
■実用化への期待と市場予測
量子コンピューティングは、用途の開拓と誤り訂正技術の進展が並行する段階にある。CTechは2026年10月26日付で、世界の量子コンピュータを約117台と報じた。経済協力開発機構(OECD)の同年3月の報告書は、幅広い商用利用が可能になる時期の予測には大きな幅があるとしている。
Forresterは2026年2月の分析で、業界が2025年に「誤り耐性の基盤構築期」へ入ったと位置付けた。進歩を測る軸が、物理量子ビットの数から、誤り訂正を施した量子ビットとその拡張性へ移りつつあるという。市場の評価でも、量子ビット数に加えて、実行できる計算の質が重要になる。
McKinseyは2026年の分析で、量子コンピューティングが2035年までに世界で1兆3000億〜2兆7000億ドル(約205兆~427兆円)の経済価値を生み出す可能性を示した。これは産業での売上増加や費用削減などの潜在的効果を推計したものだ。同社は、ハードウェア、ソフトウェア、サービスからなる量子コンピューティング市場自体については、2035年に430億〜710億ドル(約6兆7900億~11兆2000億円)と予測している。
BCGの2026年6月の報告では、調査対象企業の60%超が量子コンピューティングに年間100万ドル超を支出していた。この割合は2022年調査より11ポイント高い。BCGは、アルゴリズムやソフトウェア開発への支出割合の増加も報告している。
Omdiaが2024年10月に公表した世界の量子計算ベンダー28社の調査では、顧客が本番・業務利用を始める年として2026年を挙げた回答が39%、2025年を挙げた回答が14%だった。装置の開発だけでなく、実際の業務に結び付く用途を育てることが、ソフトウェア企業にも求められる。
CTechによると、Tan氏は9月のインタビューで、量子技術について「結論はまだ出ていない。まだ非常に早い段階だ」と述べた。複数のハードウェア方式に対応するClassiqの技術は、こうした開発段階で、装置とアプリケーションをつなぐ基盤をIntelの事業に加えるものとなる。
元記事: Intel Pays $2.3B for Classiq, Claiming Quantum Software Stack Before Hardware Race Ends
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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