中科宇航「力鴻二号」の初飛行、2027年第1四半期に 医薬品研究の実験を計画
中国の商業宇宙企業、中科宇航(CAS Space)は、再使用型の弾道飛行機「力鴻二号」の初飛行を2027年第1四半期に計画している。2026年中としていた従来の目標から時期を改め、初飛行では広州実験室と共同開発する医薬品研究用の実験装置を運ぶ予定だ。
同社が目指すのは、高度約100kmまで上昇して短時間の微小重力環境をつくり、搭載物を地上へ持ち帰る運用である。機体の回収には、自社開発エンジンの推力を調整しながら降下する技術が必要になる。
■力鴻二号の機体と回収方式
力鴻二号は全長18m、直径3.35m、離昇時の質量約60トンの機体だ。中科宇航の公表値では、高度100km以上での飛行を想定し、科学実験用の搭載物に180秒以上の微小重力環境を提供する。貨物型は最大3トン、実験に使える空間は8立方メートルで、有人型は7人乗りとして設計されている。
計画では、液体ロケット部分を推進力によって垂直に回収し、有人型の宇宙船はパラシュートで降下させる。ロケット部分と宇宙船には、それぞれ異なる回収方式が用意されている。中科宇航は、機体の設計上の再使用回数を30回以上としている。
同じく弾道飛行で人と実験装置を運ぶ米Blue Originの「New Shepard」は、ロケット部分を垂直着陸させ、乗員カプセルをパラシュートで回収する。New Shepardの乗員定員は6人で、2021年に初の有人飛行を実施した。Blue Originによると、そのBE-3エンジンは推力を11万ポンドから2万ポンドまで連続的に調整できる。
■力擎一号に求められる推力制御
力鴻二号の主動力には、中科宇航が開発する30トン級の液体酸素・ケロシンエンジン「力擎一号」を3基使う計画だ。同社の公表資料では、推力の調整範囲は最大推力の50~100%で、1回の飛行でエンジンを計3回始動できる設計となっている。2026年1月には推力を変化させる地上燃焼試験の結果を発表し、3月公表の目論見書では累計試験時間を1500秒超としている。
力擎一号は、推進剤を中央付近で衝突・混合させるピントル型噴射器を採用する。東京大学の航空宇宙工学分野の資料でも、この方式は推力を広く調整できる噴射器として紹介されている。燃料を多く消費して軽くなった機体を着陸させる際には、降下速度に合わせた推力制御が重要になる。
SpaceXの「Falcon 9」に使われるMerlinエンジンも、ピントル型噴射器、液体酸素・ケロシン系の推進剤、ガス発生器サイクルを採用している。中科宇航が公表する力擎一号の特徴とは、噴射方式と推進剤の組み合わせに共通点がある。初飛行では、地上試験で得た性能を実際の上昇・降下・回収の過程で確かめることになる。
■広州実験室と進める薬物結晶の実験
中科宇航は2026年9月28日、広州実験室と宇宙で使う医薬品研究用の搭載装置を共同開発すると発表した。2027年第1四半期の力鴻二号初飛行では、タンパク質と低分子薬物の結晶化実験を行い、装置の初期段階の技術検証を進める計画だ。
役割分担では、広州実験室が実験方法や試料、地上での比較実験、結果の分析を担当する。中科宇航は飛行環境、機体と装置の接続、打ち上げ、帰還、運用を受け持つ。両者は、実験操作と観測の自動化にも取り組む。
中科宇航は、微小重力が一部のタンパク質の結晶形成や薬物の結晶形の研究に役立つ可能性を挙げる。試料を持ち帰って地上の結果と比較するため、密封、温度管理、帰還中の環境記録なども装置設計に組み込む方針だ。こうした実験を継続的な事業にするには、結果の再現性や品質の安定性、費用の検討も必要になる。
■力鴻一号から続く実験・回収計画
中科宇航は2026年1月12日、前段階の機体「力鴻一号」を酒泉衛星発射センターから初飛行させた。同社によると最高高度は約120kmで、搭載物を収めたカプセルは大気圏への再突入後、パラシュートで着陸した。飛行では、帰還時の減速と回収に加え、機体下段の着地点を制御する技術も検証した。
力鴻一号には中国科学院力学研究所の実験装置も搭載された。中科宇航の発表では、微小重力下で金属部品を積層造形し、試料と実験データを回収した。力鴻二号では、より重い搭載物に対応するとともに、液体エンジンを使うロケット部分の垂直回収へ進む。
後続の「力鴻三号」は、長期間の軌道上実験と宇宙製造を担う機体として2028年の初飛行が計画されている。中科宇航によると、少なくとも300kgの搭載物に最長1年の微小重力環境を提供する構想だ。力鴻二号の短時間の実験と帰還、力鴻三号の長期間の軌道上利用を、段階的に進める計画となる。
■軌道打ち上げ事業と再使用化
中科宇航の軌道打ち上げ事業では、液体ロケット「力箭二号」が2026年3月30日19時(中国時間)に初飛行した。同社によると、軽舟初様試験船など3機を予定の軌道へ投入した。全長53mで、中央の機体と両側の補助ロケットに共通の構造を使い、第1段側にはYF-102エンジンを計9基搭載する。
固体ロケット「力箭一号」は同年9月20日、9機の衛星を打ち上げた。力箭二号の2回目の飛行は10月に予定されており、同社は8月に機体の工場出荷前審査を終えたと発表している。紹興の生産拠点については、稼働が進んだ段階で力箭二号を年12機生産する能力を見込む。
中科宇航は、より大型の再使用型ロケットに向けて110トン級の「力擎二号」も開発している。2026年3月には長時間の地上試験が5回、累計で約1000秒に達し、6月には累計の信頼性試験時間が2000秒を超えたと発表した。同社の目論見書は、このエンジンを将来の再使用型ロケットの第1段向けと位置付ける。
中国では2026年7月、長征十号乙の第1段が海上の回収設備で捕捉され、8月には藍箭航天の朱雀三号が着陸脚を使って第1段を陸上回収した。力鴻二号が目指すのは、軌道投入用ロケットとは異なる短時間の実験飛行と搭載物の帰還である。中科宇航にとって初飛行は、エンジンを使った回収と、研究機関向けの実験サービスを一つの飛行で確かめる機会になる。
■上場計画との接点
中科宇航は上海証券取引所の科創板への上場を進めている。2026年3月公表の目論見書では、約41億8000万元の調達資金を大型再使用ロケット、再使用型機体・宇宙船、液体エンジンの開発拠点などに充てる計画を示した。2025年8月には、公開された持ち分の譲渡価格を基に企業価値が約111億元、当時の換算で約16億2000万ドル(1ドル=158円換算で約2560億円)と推計された。
目論見書によると、2025年1~9月の主な売上高のうち、打ち上げサービスの比率は98.13%だった。この期間の実績は主に力箭一号によるもので、力箭二号は翌2026年3月に初飛行した。力鴻二号の実験飛行は、中科宇航が計画する宇宙製造や宇宙旅行向けサービスの開発段階に位置する。
同社は2025年末までに海外の衛星顧客6社へサービスを提供したと目論見書で説明している。今後は既存の軌道打ち上げ事業を進めながら、力鴻二号で搭載物の実験と回収を実証する計画だ。
元記事: CAS Space Lihong-2 Suborbital Rocket Slips to 2027: Merlin-Class Engine Needs Three-Restart Test
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
スポンサードリンク
