MOONSが初観測に成功、天の川の塵に隠れた恒星を近赤外線で分光

2026年9月7日 12:41

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記事提供元:Tech Times

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欧州南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡VLTに搭載された多天体可視・近赤外分光器「MOONS」が、2026年9月3日にファーストライトを達成した。約1,000本の光ファイバーを使い、最大約1,000天体のスペクトルを同時に取得できる装置である。最初の観測では、星間塵に覆われた天の川銀河の銀河面にある恒星を捉えた。現在は試運転と較正を続けており、本格的な科学観測に向けて準備を進めている。

■最大約1,000天体を同時に分光

ESOと国際コンソーシアムは9月3日、チリ北部のパラナル天文台にあるVLTで、多天体可視・近赤外分光器「MOONS」(Multi-Object Optical and Near-infrared Spectrograph)がファーストライトを達成したと発表した。ファーストライトとは、新しい望遠鏡や観測装置が天体からの光を初めて取得することを指す。

最初の観測では、星間塵によって可視光で捉えにくい天の川銀河の銀河面にある恒星を対象とし、MOONSが近赤外線によって塵の向こう側の恒星を分光できることを示した。ESOが公開した初観測の画像には、銀河中心方向にある「バーデの窓」の恒星から得たスペクトルも示されている。

MOONSは約1,000本の光ファイバーを備え、広い視野内にある最大約1,000天体を同時に観測できる。10年間とされる設計寿命の間に、複数の科学計画を通じて最大1,000万天体を観測することが期待されている。対象には、天の川銀河の数百万個の恒星や、宇宙のさまざまな時代に存在する遠方銀河が含まれる。

MOONSの主任研究者でESO計測機器プログラムマネジャーのMichele Cirasuoloは、「MOONSは宇宙に新たな窓を開き、130億年以上にわたる宇宙史の中で、数百万の恒星と銀河の物理的、化学的、力学的、環境的な性質を探究できるようにする」と述べた。さらに、天の川銀河やほかの銀河がどのように形成され、時間とともに進化したのかについて、理解を新たな段階へ進める装置になるとの期待を示した。

■約1,000本の可動式光ファイバー

MOONSは、VLTを構成する口径8.2メートルのユニット望遠鏡1(UT1)のナスミス焦点に設置されている。約1,000本の光ファイバーには、それぞれロボット式の位置決め機構が取り付けられている。観測する天体に応じてファイバーの位置を変え、約500平方分の視野にある多数の恒星や銀河から個別に光を集める。

各ファイバーが集めた光は、500本ずつ2台の分光器へ送られる。分光器は光を波長ごとに分解し、天体ごとのスペクトルを記録する。スペクトルに現れる吸収線や輝線を分析することで、恒星の化学組成や視線速度、銀河の赤方偏移などを調べられる。

MOONSは、可視光の赤色域から近赤外線までに相当する約0.65~1.8マイクロメートルを観測する。中分解能モードでは、RI、YJ、Hの3波長帯を分解能R約4,100~6,600で同時に取得する。Rは、観測波長を識別可能な最小波長差で割った値で、数値が大きいほど細かなスペクトル構造を識別できる。

高分解能モードでは、恒星の視線速度測定に使われるカルシウム三重線を含む波長域をR約9,200、化学組成の詳しい測定に使うHバンドの一部をR約18,300で観測する。これらとYJバンドの中分解能観測を同時に実施できる設計である。

■熱放射を抑える大型クライオスタット

近赤外線観測では、室温の装置から出る熱放射も検出器に入るため、暗い天体の信号を捉えにくくなる。MOONSではこの影響を抑えるため、2台の分光器を大型の真空断熱容器であるクライオスタットに収めて冷却する。

光学系は約130ケルビン(マイナス143度)、検出器は約40ケルビン(マイナス233度)で動作する。UK ATCによると、冷却には約5トンの液体窒素を必要とし、クライオスタットは地上望遠鏡用として最大級の規模になった。

装置全体は高さ約4.5メートル、重量10トン超に達する。口径8メートル級望遠鏡の集光力に、最大約1,000天体を対象とする可視・近赤外線の同時分光能力を組み合わせたことがMOONSの特徴である。

■英国で組み立て、チリへ輸送

MOONSは、英国科学技術施設会議(STFC)の英国天文学技術センター(UK ATC)が主導する国際コンソーシアムによって開発された。英国、イタリア、フランス、ポルトガル、スイス、チリの大学や研究機関が参加し、ESOも準メンバーとして協力した。

装置はエディンバラ王立天文台にあるUK ATCで統合と試験が行われた。英国で製造された天文機器として最大かつ最も複雑な装置とされる。

MOONSは2025年12月、15個の特注輸送箱に分けてエディンバラを出発した。梱包材だけで合計約4トンあり、3台の大型トラックでサウサンプトンまで運ばれた。約7トンの分光器部分は、輸送に適した向きに変えるため、グラスゴーの専門施設を経由した。

その後、海路で南米へ運ばれ、2026年1月にチリへ到着した。さらに陸路でパラナル天文台へ輸送され、望遠鏡への組み込みと試運転を経てファーストライトを迎えた。

MOONSの英国側主任研究者でUK ATCのプロジェクト科学・戦略責任者を務めるOscar Gonzalezは、科学者、技術者、技能者が長年にわたって技術的課題を克服してきたと説明した。そのうえで、ファーストライトについて「長年の仕事が発見へと変わる瞬間を示している」と述べた。

■天の川の塵に隠れた恒星を調査

MOONSの主要な科学目標の一つは、星間塵に覆われた天の川銀河の領域を調べることだ。銀河中心方向では星間塵が可視光を吸収・散乱するため、恒星の観測が難しい。近赤外線は可視光より星間塵の影響を受けにくく、その向こうにある天体を調べる手段になる。

MOONSは天の川銀河内の最大約4万光年先にある恒星を観測し、視線速度、金属量、元素存在量などを測定する計画である。多数の恒星について運動と化学組成を調べることで、天の川銀河の各領域がどのように形成され、進化してきたのかを探る。

この観測は、欧州宇宙機関(ESA)の位置天文衛星Gaiaによる恒星の位置や固有運動の測定を、地上からの分光データで補完する。MOONSが視線速度や化学組成を測定することで、恒星の空間分布と運動、形成過程を結び付けて分析しやすくなる。

ケンブリッジ大学キャベンディッシュ研究所とカブリ宇宙論研究所のMOONS英国側共同主任研究者、Roberto Maiolinoは、「赤外線で1,000天体を同時に調べられることは、宇宙とその内部の構造が数十億年をかけてどのように形成・進化してきたのかを研究する、全く新しい方法となる」と述べた。

■遠方銀河の形成と進化も探る

MOONSのもう一つの主要な目標は、遠方銀河の分光観測である。宇宙の膨張によって遠方銀河から届く光は長波長側へずれ、銀河が放った可視光の一部が地球では近赤外線として観測される。MOONSの波長域とVLTの集光力を組み合わせることで、多数の遠方銀河を効率よく分光できる。

MOONSは赤方偏移zが1を超える約100万個規模の銀河について、高品質なスペクトルを取得することを主要な科学目標に掲げている。さらに、宇宙誕生から数億年後に存在した初期銀河の統計的な研究にも利用される計画である。

銀河のスペクトルからは赤方偏移のほか、星形成や化学組成に関係する情報を得られる。さまざまな時代の銀河を同じ装置で多数観測することで、銀河が宇宙史を通じてどのように成長してきたのかを調べられる。

MOONSは、VISTAやVST、ベラ・C・ルービン天文台のLegacy Survey of Space and Timeなど、広域撮像サーベイで見つかった天体を詳しく調べる分光追観測にも活用される。画像から得られる天体の位置や明るさにスペクトル情報を加え、個々の天体の性質や運動を明らかにする役割を担う。

■本格的な科学観測に向け調整を継続

STFCのエグゼクティブチェアで英国王室天文官のMichele Doughertyは、ファーストライトに立ち会うためパラナル天文台を訪れた。同氏は「この注目すべき装置を支えた国際チームだけでなく、天文学全体にとって画期的な瞬間だ」と述べ、革新的な観測装置が新しい科学研究を可能にする意義を強調した。

MOONSはファーストライトを終えた段階で、装置の試運転と較正を続けている。今後は、約1,000本のファイバーを正確に天体へ向ける位置決め性能、各波長帯の感度、取得したスペクトルの品質などを確認し、本格的な科学観測へ移行する。

最大約1,000天体の可視・近赤外スペクトルを同時に取得する能力により、MOONSは天の川銀河の塵に隠れた恒星から遠方銀河までを対象とする大規模な分光観測を担う。初観測の成功は、今後10年間にわたる観測計画に向けた最初の一歩となった。

元記事: MOONS Spectrograph Achieves First Light: 1,000 Stars in Milky Way’s Hidden Core Mapped at Once

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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