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York Space Systemsが超低軌道衛星「LX/V-CLASS」、6~7カ月で投入可能と訴求
York Space Systemsは2026年9月2日、超低軌道(VLEO)向けの衛星バス「LX/V-CLASS」を発表した。既存の衛星バスと実証済みの低高度運用技術を基盤とし、契約から最短6~7カ月で投入できる体制を強みとする。大気を推進剤として利用する空気吸い込み式電気推進(ABEP)の軌道実証を競合各社が計画するなか、Yorkは現在利用できる技術を早期に製品化することで先行需要の獲得を狙う。
■超低軌道向けの「LX/V-CLASS」
LX/V-CLASSは、YorkのS-CLASSとLX-CLASSを基に、残留大気の影響が大きいVLEOで継続運用できるよう設計したプラットフォームである。VLEOの高度について統一された定義はないが、衛星事業ではおおむね高度450km以下、とりわけ200~300km前後の軌道を指すことが多い。
Yorkは、先行するBANEミッションで高度200km付近までの通信、機動、姿勢維持を実証したとしている。この成果をLX/V-CLASSの開発に反映し、既存の在庫と生産設備を活用することで、契約から最短6~7カ月で配備可能だと説明する。
一方、LX/V-CLASSが主に想定する運用高度については、Yorkの発表と関連報道で表現に幅がある。YorkはBANEによる高度200km付近での実証を示しているが、LX/V-CLASSについては高度300km程度での運用を中心に伝える報道もある。高度、搭載量、電力などの詳細は、顧客のミッション構成によって変わるとみられる。
■VLEOが注目される理由
軌道高度を下げると、地球観測センサーと地表との距離が短くなり、同じ光学系でもより細かな対象を捉えやすくなる。通信でも伝搬距離や必要な送信電力を抑えられる可能性がある。ミサイル追跡、移動目標の監視、高解像度の地球観測、低遅延通信などが主な用途として想定されている。
その半面、高度が低いほど残留大気による抗力が増え、衛星は継続的に軌道エネルギーを失う。大気密度は太陽活動や地磁気活動によっても変動するため、衛星には軌道を維持する推進系と、それを自律的に制御する仕組みが必要となる。
VLEOには、推進を停止した衛星が比較的短期間で高度を落とし、大気圏へ再突入しやすいという特徴もある。長期間軌道上に残る物体を減らしやすいことから、Yorkはこの領域を「自己浄化型」の軌道環境と表現している。ただし、再突入までの期間は高度、機体形状、質量、大気密度などによって大きく変わる。
■抗力を抑え、電気推進で軌道を維持
LX/V-CLASSは、飛行方向から見た面積と抗力を抑える機体形状を採用し、軌道維持に必要な推力と推進剤の消費を減らす。衛星の受ける抗力は大気密度、速度、抗力係数、正面面積などで決まるため、VLEOでは機体形状と姿勢の管理が運用寿命に直結する。
軌道維持には、Yorkが2026年3月に買収したOrbion Space Technologyのホール効果スラスターを利用する。ホール効果スラスターは、キセノンやクリプトンなどをイオン化し、電場で加速して推力を発生させる電気推進方式である。化学推進より小さな推力を長時間発生させる用途に適し、衛星の軌道維持に広く利用されている。
VLEOでは原子状酸素による材料の劣化も問題となる。Yorkは、LX/V-CLASSに表面処理を施した光学コーティングや複合材を採用し、長期運用時の浸食を抑えるとしている。こうした材料対策は、推進系や姿勢制御と並んでVLEO衛星の寿命を左右する要素となる。
関連報道によると、LX/V-CLASSは約300kgのペイロードと最大2kW級の電力供給を想定し、3年以上のミッションに対応する。これらは大型の光学センサー、赤外線センサー、合成開口レーダー、通信機器などを搭載する構成を視野に入れたものだ。
■搭載推進剤が運用期間を左右
ホール効果スラスターを使うLX/V-CLASSでは、搭載できる推進剤の量と、抗力を補うための消費量が運用期間を左右する。VLEOの大気密度は高度や太陽活動によって大きく変わるため、必要な推進剤量を単純な高度差だけから算出することはできない。
Yorkは機体形状の最適化によって抗力を抑え、既存の電気推進を利用して複数年の運用を目指す。技術リスクを抑えながら早期に投入できる一方、長期運用では搭載推進剤が寿命を制約する。この点が、大気中の分子を推進剤として利用するABEPとの大きな違いになる。
ABEPは、衛星前方のインテークで希薄な大気を取り込み、酸素や窒素などを電気スラスターで加速する構想である。情報処理と推進の構造としては、大気の取り込み、イオン化、加速、抗力補償を連続的に行うシステムとなる。搭載推進剤への依存を減らせれば、VLEOでの運用期間を延ばせる可能性がある。
実用化には、インテークと衛星全体が受ける抗力を上回る推力を安定して発生させる必要がある。希薄な大気から十分な量の分子を集める性能、電力効率、スラスターの耐久性、姿勢制御を含めたシステム全体の成立性が、今後の軌道実証で問われる。
■RedwireとKreiosがABEPを開発
Redwireは2025年11月、DARPAのOtter計画について4,400万ドル(約69億9,600万円、1ドル=159円換算)のフェーズ2契約を獲得した。契約には、RedwireのSabreSatを基にした宇宙機の製造と打ち上げへの引き渡しが含まれる。Otterは空気吸い込み式宇宙機の軌道実証を目的としているが、RedwireとDARPAは打ち上げ時期を公表していない。
スペインのKreios Spaceは、Kongsberg NanoAvionicsのMP42衛星バスを使用し、2028年にABEPの軌道実証を行う計画である。高度約300~350kmから降下しながら複数の高度でスラスターを作動させ、推進性能と周辺環境を調べる。実証機はVLEOでの長期運用に最適化された衛星バスではなく、予定される試験期間は6~10カ月とされる。
Kreiosが将来目標として掲げるのは、VLEOで7~10年間運用できる衛星プラットフォームである。2028年のミッションは、その完成品を実証するものではなく、今後の推進系と専用衛星バスの設計に必要なデータを取得する段階となる。
英国のNewOrbitも2028年の初飛行を目指している。インドのBellatrix Aerospaceと韓国のTelePIXも、早くて2028年となるABEP搭載VLEO衛星の計画を発表している。これらの計画が予定通り進めば、2028年前後から複数方式の軌道上データが集まり始めることになる。
■実証済み技術と垂直統合で先行
Yorkの競争戦略は、ABEPの軌道実証を待つのではなく、既存の衛星バス、電気推進、通信、地上設備を組み合わせ、早期に運用可能なシステムを提供することにある。同社はLX/V-CLASSについて、2027年や2028年初頭ではなく、契約後最短6~7カ月で配備できるとしている。
YorkはATLAS Space Operations、Orbion Space Technology、ALL.SPACEの買収を通じ、地上局、推進系、耐妨害通信端末を自社グループに取り込んできた。LX/V-CLASSも既存のS-CLASS、LX-CLASSとサブシステムやソフトウェアを共有し、設計変更に伴うコストと製造期間を抑える方針である。
同社によると、これまでの生産設備とサプライチェーンへの投資額は7億5,500万ドル(約1,200億4,500万円)を超える。この金額はYork自身が示したものであり、個別項目の内訳は公表されていない。
Yorkの最高経営責任者Dirk Wallingerは、競合する衛星メーカーが推進系以外の通信や地上設備も整える必要があるのに対し、LX/V-CLASSはYorkの既存エコシステムに組み込めると説明している。短期間で衛星単体だけでなく、通信と地上運用を含む一式を提供できることが同社の訴求点となる。
■先行するVLEO実証から得られた教訓
民間のVLEO衛星では、Albedo Spaceが2025年3月に地球観測衛星Clarity-1を打ち上げた。同機はVLEOでの持続的な運用や衛星バスの実証に成功した一方、姿勢制御に使うコントロール・モーメント・ジャイロで不具合が発生し、当初目標としていた10cm解像度の画像取得には至らなかった。
Albedoによると、Clarity-1は大気抵抗や原子状酸素への対策、電気推進による多数の軌道変更、通信と地上処理などを検証した。画像の取得・伝送系も動作したが、姿勢制御装置の問題によって撮像性能が制約され、打ち上げから9カ月後に通信を失った。
この事例は、VLEO衛星では推進系だけでなく、姿勢制御、材料、電力、通信、フライトソフトウェアを一体として機能させる必要があることを示す。YorkのBANE実証は低高度での通信と姿勢維持を確認したものだが、LX/V-CLASSによる複数年のVLEO運用実績はこれから積み上げる段階にある。
■証券訴訟では主張と確認済み事実を区別
Yorkを巡っては、2026年8月31日、米コロラド州連邦地方裁判所に証券集団訴訟が提起された。訴状は、2026年1月の新規株式公開に関する文書などに重要な虚偽または誤解を招く記述があったと主張し、衛星搭載ソフトウェアの準備状況などを問題としている。
訴訟は提起されたばかりであり、訴状の内容について事実認定や法的責任の判断は下されていない。2026年5月に空売り投資家Wolfpack Researchが公表した主張も訴状の根拠として引用されているが、Yorkは決算説明で同社事業への否定的な見方に反論している。
訴訟で示された主張から、LX/V-CLASSの性能やVLEOでの運用能力について結論を導くことはできない。新型プラットフォームの完成度は、今後の顧客契約、製造、軌道投入、運用データによって評価されることになる。
■VLEO市場の分岐点は軌道実証
Yorkは、ABEPの実用化を待つ顧客ではなく、近い時期にVLEO能力を必要とする政府・防衛顧客を主な対象としている。実績のある衛星バスと電気推進を組み合わせ、製造と運用の供給網を垂直統合したことが、早期投入の根拠となる。
一方、ABEP陣営が軌道上で継続的な抗力補償を実証すれば、搭載推進剤に制約されない長期VLEO運用へ道が開ける。Yorkの方式とABEPは、直ちに一方が他方を置き換える関係ではない。技術成熟度、必要な運用期間、投入時期、搭載能力をめぐり、異なる顧客需要に応える選択肢となる。
まず試されるのは、Yorkが掲げる契約後6~7カ月という投入速度と、LX/V-CLASSが実運用で示す軌道維持能力である。その後、RedwireやKreiosなどの軌道実証が進めば、推進剤搭載型と空気吸い込み式のどちらが、どの高度と用途で優位になるのかを比較できるデータがそろい始める。
元記事: York Space Systems Bets on VLEO Speed; Air-Breathing Rivals Set Deadline
※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。
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