ボイジャー2号、観測機器3基を1年延命 NASAが電力の同時切り替え「ビッグバン」に成功

2026年8月13日 22:22

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記事提供元:Tech Times

この想像図に描かれたNASAの探査機ボイジャー2号は、ミッションチームによる巧みな工学的工夫によって、星間空間で3つの科学機器を当初の想定より長く稼働させられるだけの電力を確保した。(Nasa.gov)

この想像図に描かれたNASAの探査機ボイジャー2号は、ミッションチームによる巧みな工学的工夫によって、星間空間で3つの科学機器を当初の想定より長く稼働させられるだけの電力を確保した。(Nasa.gov)[写真拡大]

NASAのジェット推進研究所(JPL)は8月4日、ボイジャー2号に搭載された複数の電力消費機器を、より消費電力の小さい代替機器へ同時に切り替える手順(JPL内部の通称「ビッグバン」)を完了したと発表した。これにより、残る3つの科学機器すべての稼働が少なくともあと1年は維持される見込みだ。この手順がなければ、2026年末までにもう1つ機器を停止せざるを得ず、星間空間をその場で直接観測する人類唯一のセンサー網は3基から2基に減っていた。一度失えば取り戻せず、現在資金がついた計画でも構想中の計画でも代替できない損失であり、NASAのScienceブログは、ビッグバンによってこの懸念が直接解消されたとしている。

■「ビッグバン」で実際に行われたこと

この手順は、ボイジャー2号に搭載された一群の電力消費機器をオフにし、より消費電力の小さい代替機器に置き換えるというものだ。しかも、絶対零度に近い極低温(約マイナス273度/マイナス459度F)の星間空間で、探査機が動作を続けられるだけの温度を保ったまま実行する必要があった。手順の詳細はNASAのVoyager Scienceブログで確認されている。

この作業を重大かつ緊張を強いるものにしているのは、「同時に」行うという点だ。JPLの深宇宙ネットワーク(DSN)から送ったコマンドがボイジャー2号に届くまで片道約20時間、応答が返ってくるまでにさらに約20時間かかる。この往復の遅延があるため、エンジニアはリアルタイムで状況を監視することも、途中で修正を加えることもできない。送信前にほぼ完璧な見通しのもとですべてのコマンドを組み立て、切り替えを始める前にあらゆる不測の事態を想定しておく必要があった。両探査機の通信上の制約については、NASAのボイジャー機器ページに技術的な背景がまとめられている。

ビッグバンによる電力の節約で、ボイジャー2号に残る3つの機器、すなわち三軸フラックスゲート磁力計(MAG)、プラズマ波サブシステム(PWS)、宇宙線サブシステム(CRS)は、少なくともあと1年は稼働を続けられると見込まれている。

■なぜ「1ワット」の判断が取り返しのつかないものになるのか

ボイジャーの電力難の根底にある物理は、どれだけ工学的な工夫を重ねても完全には逃れられないほど過酷だ。両探査機は、プルトニウム238の自然な放射性崩壊による熱を電気に変換する「マルチハンドレッドワット型放射性同位体熱電発電機(MHW-RTG)」を3基ずつ搭載している。ゼーベック効果とRTGの仕組みは、NASAの放射性同位体電源システム(RPS)プログラムのページで詳しく解説されている。

各RTGには、圧縮成形された酸化プルトニウム238の球体が24個収められている。1977年の打ち上げ時、1機あたり3基のRTGは合計で約470ワットの電力を発生させていた。変換には、1821年にドイツの科学者トーマス・ヨハン・ゼーベックが発見したゼーベック効果を利用する。異なる2種類の半導体材料(ボイジャーの場合はシリコン・ゲルマニウム系)を接合して温度差を与えると、高温側(摂氏538度/華氏1,000度を超えるプルトニウムの崩壊熱)と、宇宙空間へ熱を捨てる低温側との温度差に比例した電圧が生じる。

問題は、RTGの変換効率が熱電材料の性質と温度差で決まってしまい、ソフトウェアや運用の工夫では引き上げられないことだ。しかもプルトニウム238は半減期87.7年で崩壊し続けるため、ゼーベック変換を支える熱源は年々弱まり、機器を動かしているかどうかにかかわらず、電力出力は毎年約4ワットずつ低下していく。打ち上げから49年近くが経過した現在、両探査機の発電量は当初の半分を下回っている。

その結果、使える電力と最低限必要な負荷との差は着実に狭まっている。RTGは観測機器や電子回路に電力を供給するだけでなく、重要な部品が機能する温度を保つ役割も担う。星間空間でいずれかのサブシステムが最低動作温度を下回って冷えてしまえば、恒久的かつ不可逆的に故障する。ビッグバンで機器を順次ではなく同時に切り替える必要があったのは、まさにこの熱的制約のためだ。移行中も暖かく保たなければならない機器があり、切り替えが起きた最初の瞬間から全体の負荷計算が成立していなければならない。2026年4月のNASA Scienceブログ(ボイジャー1号に関する記事)では、過去の判断でも同じ電力マージンの論理が働いていたことが説明されている。

2024年以降、先細りする電力予算のために、ミッションは各探査機で2つずつ科学機器を停止せざるを得なくなった。NASAによると、ボイジャー2号のプラズマ観測装置(PLS)は2024年9月下旬に、低エネルギー荷電粒子観測装置(LECP)は2025年3月に停止された。ボイジャー1号は2025年2月に宇宙線サブシステムを、2026年4月17日に低エネルギー荷電粒子観測装置を停止している。両探査機の現在の稼働状況は、ボイジャー機器ステータスページで公開されている。

■残る3基が測定しているもの

ビッグバンによって守られた3つの機器は、無作為に生き残ったわけではない。時速約5万5370km(3万4390マイル)で星間空間を進み、ほかのどの現役探査機も到達したことのない環境をその場で採取するという、ボイジャー2号の現在の任務に科学的に最も適した機器だ。Wikipediaのボイジャー2号の項目によると、探査機は現在、地球から約215億km(133億マイル)、光でおよそ20時間の距離にある。

磁力計は星間磁場を直接測定する。プラズマ波サブシステムは、星と星の間の空間を満たす電離ガス(プラズマ)の密度や振る舞いを明らかにする波動を検出する。宇宙線サブシステムは、銀河や太陽に由来する高エネルギー粒子の流束(フラックス)を監視する。3つがそろうことで、太陽の影響が及ぶ最外縁部に置かれた常設の「気象観測所」として機能し、太陽がつくる保護的な磁気の泡である太陽圏(ヘリオスフィア)が銀河宇宙線から太陽系をどう守っているのかを解き明かすためのデータを供給している。各センサーの科学的役割は、NASAのボイジャー機器ページと2025年3月の機器停止発表で詳しく説明されている。

人類がつくった最も遠い物体であるボイジャー1号は250億km(156億マイル)以上の彼方にあり、自機の磁力計とプラズマ波サブシステムの運用を続けている。これらの距離は、Wikipediaのボイジャー2号のデータとSatNewsの2026年4月のレポートの双方で確認されている。

ボイジャーが担っている観測に代わるものはない。星間空間に向かう後継探査機で、現在資金がついているもの、すでに打ち上げられているもの、明確な開発計画に乗っているものは存在しない。両探査機が機器を1つ失うたびに、人類は何十年も代替できないセンサーを1つ失うことになる。資金のついた後継ミッションが開発されていないことは、NASAのボイジャーミッション概要でも確認されている。

機器の停止順位は、その場しのぎで決められたものではない。電力の余裕が危機的になる何年も前に、ボイジャーの科学チームとエンジニアリングチームは、科学的価値と消費電力、そして星間空間からボイジャーだけが得られる固有の測定データを天秤にかけ、停止していく順序について合意していた。その優先順位がどのように決まったかは、2026年4月のボイジャー1号のブログ記事で説明されている。

■次はボイジャー1号

ボイジャー2号での成功により、双子機でも同じ手順を実施する道筋が整った。NASAの8月4日の発表によれば、ミッションチームは今後数カ月のうちにボイジャー1号でも同等のビッグバンを実施する計画だ。

ボイジャー1号は地球からさらに遠いため、往復の通信遅延はいっそう長く45時間を超え、工学的な誤差の余地はその分小さくなる。手順の実行中にリアルタイムで点検も計測も調整もできない環境を前提に、すべてのコマンド列を組み立てなければならない。

2026年4月に実施されたボイジャー1号の低エネルギー荷電粒子観測装置の停止について、JPLは、ボイジャー2号でビッグバンを試し、その結果をボイジャー1号に適用するための時間(およそ1年)を稼ぐ措置だと明確に説明していた。ボイジャー2号での試行が完了し成功したことで、この見通しは予定どおり進んでいる。この点はSatNewsとNASAの2026年4月のボイジャー1号ブログの双方が伝えている。

長期的な狙いは、2030年代まで各探査機で少なくとも1つの科学機器を動かし続けることだ。エンジニアたちは、慎重な電力管理によってそれは達成可能だと考えている。ただし、49年近くに及ぶ深宇宙での運用によって両探査機はいつ予期せぬ故障が起きてもおかしくない状態にさらされている、とも率直に認めている。この長期目標は、JPLの2025年3月の発表で明確に示されていた。

両探査機は2027年に打ち上げから50周年を迎える(ボイジャー2号は8月20日、ボイジャー1号は9月5日)。打ち上げ当時にはまったく想像もできなかった節目だ。8月4日に完了したビッグバンによって、ボイジャー2号は、残る3つの科学機器すべてが太陽系の果ての向こうから毎秒160ビットでデータを送り続けたまま、20光時の虚空を越えてその記念日を迎えることになる。

■注目ポイントQ&A

●NASAがボイジャー2号で実施した「ビッグバン」とは、具体的にどのようなものですか?

「ビッグバン」は、ボイジャー2号に搭載された複数の電力消費機器を同時にオフにし、より消費電力の小さい代替機器に置き換える手順を指すJPL内部の通称です。同時に、探査機を動作可能な温度に保つ必要もありました。難しかったのは「同時に」という点です。ボイジャー2号にコマンドが届くまで片道約20時間かかるため、リアルタイムで監視したり調整したりできないまま切り替えを計画しなければならなかったからです。これによって浮いた電力で、磁力計、プラズマ波サブシステム、宇宙線サブシステムという残る3つの科学機器が、少なくともあと1年は稼働を続ける見込みです。詳細はJPLの8月4日のニュースリリースに記載されています。

●なぜNASAはボイジャー2号の電力を増やせないのですか?

ボイジャー2号は、プルトニウム238の崩壊熱をゼーベック効果によって電気に変換する3基の原子力電池(放射性同位体熱電発電機、RTG)で稼働しています。プルトニウム238は半減期87.7年で崩壊し続けるため、地上のエンジニアが何をしようとも、探査機の発電出力は毎年約4ワットずつ低下します。この崩壊速度は物理的に決まっており、遅らせることも、燃料を補充することも、ゼーベック効果を使う熱電対の変換効率を運用によって高めることもできません。エンジニアが取りうる手段は、負荷の削減(電源を切ること)と負荷の代替(消費電力の大きい機器を小さい機器に置き換えること)だけです。ビッグバンは後者にあたります。物理的な仕組みは、NASAのRTGとゼーベック効果の解説で説明されています。

●ボイジャー2号の残りの機器が最終的に停止した後はどうなりますか?

ボイジャーが星間空間で集めている科学データを代替するミッションで、現在資金がついているものも、計画されているものもありません。磁力計とプラズマ波サブシステムのデータは、太陽系の外側の領域で星間磁場とプラズマ密度を直接測るものであり、後継探査機がその距離に到達するまで代替できません。仮に今日ミッションが承認されて打ち上げられたとしても、到達には何十年もかかります。ボイジャーのエンジニアの現在の目標は、2030年代まで各探査機で少なくとも1つの機器を稼働させ続けることです。それ以降は、両探査機はゴールデンレコードだけを携え、何も送信しないまま星間空間を半永久的に旅し続けることになります。長期計画はNASAのボイジャーミッションページに概説されています。

●ボイジャー2号は星間空間で何を測っていて、それが地球の私たちにとってなぜ重要なのですか?

残る3つの機器は、太陽圏(ヘリオスフィア)のすぐ外側に広がる局所星間物質の磁場、プラズマ波、宇宙線フラックスを測定しています。太陽圏は太陽がつくる磁気の泡で、地球をはじめとする太陽系を銀河由来の高エネルギー宇宙線の大部分から守っています。太陽圏の境界が星間物質とどのように相互作用しているかを理解することは、長期の宇宙ミッションの計画、銀河宇宙線が地球にどう届くのかの解明、そして太陽活動が宇宙環境をどう形づくるかのモデル化にとって重要です。この領域を直接その場で観測したことがあるのは、歴史上ボイジャー1号と2号だけです。各機器の科学的役割は、ボイジャー機器ページとJPLの2025年3月の発表で説明されています。

元記事: Voyager 2 Gets One More Year: JPL Power Swap Delays Permanent Instrument Loss

※この記事はTech Timesから提供を受けた記事を日本向けに翻訳・編集したものです。

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